【第1夜㉜~無責任を語った男の揺るがぬ絶対的責任感~】
私たちは、王都の民に盛大に出迎えてもらうのも癪だと、王都四方に構える大門からそれぞれバラバラに入って行く。その様子に最初は何事かと驚いていた王都の民は、私たち騎士団の心情を察したのか、皆、表に出てくると、王宮に続く通りに並び、胸に手を当て敬意を表する。彼らの姿に私たちは、ようやくここに戻ってきた事を実感し、込み上げてくるものを我慢しつつ、騎乗しながら敬礼をして王宮に入る。
王宮の中に入ると、国王が急な来客の為に予定を変更するとの通達が来て、私たちはその間しばしの休息をとる。やっとホームに帰って来れたという団員たちの安堵の表情を見て、私もようやく気持ち的に落ち着くことが出来た。そんな私も、自分を少し休ませようと、フィンの鬼の鍛錬を受けた後、よく訪れていた王宮の中庭にある木の茂みの中に隠れて1人、束の間の休息をとる。そこでここに至るまでのいろんなことを思い出していた。
私たちが懸賞首になり、王宮から逃げるように飛び出してから、さほど時間は経っていないがいろんなことがありすぎた。その展開に正直ついていけない自分がいる。しかし仲間の助けもあって、何とか気力だけでここに立ち続けている。「苦しい」「辛い」と思う間もなく、状況が変わっていくので、何とか気持ちを保ち続けていられる部分もあるだろう。
今、ここで国王と会い、その真意を確認することでこれからどう戦っていくか、5つの星を守る立場から考えていかなければ…と考えると目まいがする。でも、ここで自分に負けるわけにはいかない。
「あ~。負けてらんない。もうちょっと頑張るぞ!」そうやって自分を奮い立たせていると、茂みをかき分けて入ってきた凱が話しかけてくる。
「大丈夫か?」私は驚いて一瞬声に詰まる。
「うわっ。びっくりした!凱か…。突然入ってくるんだもん。焦った~。」凱は私の驚きように笑いをこらえながら、
「どこ探してもいないから、ここかなって来たら…。そんなに驚くなんて…。ものすごい顔してるぞ。ははは。」凱の爆笑ぶりに、私が顔を真っ赤にして怒っていると、
「そんなに怒るなよ…。お前が心配で…探しに来た。」急に私を気遣うように、穏やかな顔で話し始める。
「ここ最近、想像を超える未曾有の事態ばかりが立て続けに起きている。莉羽、お前にとっては自分が何者であるか、自分の使命を知らされただけでも精神的な重荷が出来たというのに、さらにこのシュバリエ、メルゼブルク、ファータとそれぞれの問題も重なって…。
でもお前は…弱音を吐くことなく常に笑顔を絶やさずにいる。俺はそんなお前の心が壊れてしまうんじゃないかと…。」凱は言葉に詰まる。
私は凱のその言葉に、今にも凱にもたれ掛かりたい気持ちを抑え、
「うん。ほんとにいろいろあったね…。ありすぎてるね…。本音を言うと、なんで私がこんなにもたくさんの事を背負わなくちゃいけないの?って思ってる。自分が神遣士だとか、世界を救うとか…はっきり言って、何やればいいかわからないし、意味が分からない。
でも…、自分で考えて決めた事。一度決めたことは投げ出したくないし、世界の運命が私の手にかかってるってなったら、やるしかないでしょ!って、なるでしょ?心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。」私は泣きそうになりながらも、気丈に応える。
「いやいや、普通の女子はそうならない…。そんな簡単に受け入れられることじゃない。まあ、でも、小さいころからお前を見てきた俺としては、お前がその思考に行きつくのは納得するけどな…。」凱は笑って言う。
「ただ、無理だけはしてほしくない。周りへの気遣いが、自分を押しつぶすことになったら本末転倒だ。いつも元気で明るく振る舞うことが身についてしまったお前の悪い癖だぞ。もう、莉月さんを意識する必要はない。お前はお前の気持ちのまま、行動すればいいんだ。」凱は熱く話す。
「うん、分かってる。そうなんだよね…。莉奈の絡みでお母さんを心配させたくないって気持ち、小さいころから思ってたことだから…、そう簡単には払拭できないんだよね。そんなお母さんの後を継ぐ使命だから余計にね…、意識はしちゃうよね…。」
急に核心を突かれた私は、気づかないように…、いや、考えないようにしてきたこの思いを突きつけられ、激しく動揺していた。でも、いつかはこの呪縛から解き放たれないと、自分が自分らしく、自分の人生を歩めないと分かっていたし、今あえてその話題を持ち掛けた凱の、それが厳しさであり、優しさであることも分かっている。
「その気持ち、全部俺に預けておけ。俺が昇華してやるよ。お前がお前らしく生きるために。その為のバートラルだから…。」凱はいつものように私の頭に手を置きポンポンとして、
「これからもっと厳しい戦いが始まると思う。お前が果たさなければならない使命、それに関わるたくさんの人々の思い、俺も全部一緒に背負いこむから…。お前はお前らしくいてくれ。なっ。」そう言ってニコッと笑う凱の笑顔に、全ての呪縛から解放されたような気持になる。私は凱の存在に改めて感謝し、潤んだ目で言う。
「ありがとう。」
それに無言で頷いた凱の目も、心なしか潤んでいるように見えた。そんな凱は一瞬、私を抱きしめて、すぐさま離し、
「そろそろ時間だ、行くぞ。」
少し鼻をすすりながら私の手を引き、王の間に急ぐ。




