【第1夜㉘ ~フィンの覚醒に上がる士気~】
魔の山は昼の時間帯といえど、真っ黒な雲が常に上空に立ち込め薄暗い。空気も重く立ち込めているのだが、私たちが戻った時には一変し、真っ青な空、澄み切った空気で満たされていた。
「団長!敵を倒したのですね?」外で待機していた団員たちが歓声を上げ、私たちを取り囲む。
「ここにいる皆が、外の守りをしっかりと果たしてくれたおかげだ。ありがとう。」フィンは声を大にして言う。するとその言葉に歓喜の声が上がる。
「おお~。やったぞ~。」
「団長!莉羽様!凱様!」団員たちの声が途切れることなく響いている。その中で一際大きな声で話すフィン直属の団員の言葉が辺りに響く。
「みんな、聞いてくれ!団長は先ほどの戦いで覚醒した!お前たちでは想像もつかない力だ。その力は魔物を木端微塵にするほど強力なものだったぞ!」その団員がさっきの戦いを思い出し、その様子を事細かに興奮して話すと、それを聞いた周りの団員たちが、さらに大きな歓声を上げる。
「団長!団長!フィン団長!」
「まあ、まあ落ち着け。これからのことを話したいので聞いてくれ。」その歓声に照れながら前に出るフィンの姿を見た団員は、また大歓声でフィンを迎える。フィンは初め手を上げて、その歓声に応えていたが、団員たちのあまりの熱の高さに、次第に恥ずかしくなったようで、頭を搔いたあと再び手を上げ、その場を制する。すると皆、一斉に黙り込む。
「みんな、ありがとう。みんなの力と勇気があってこそ、この魔の山を攻略することが出来た。そしてその中で、私は新しい力を得ることに成功した。皆の支えがあってこそだ。心から礼を言う。」
ここまで聞いた団員の中には、フィンの事を今までロイの腰巾着としか見ていなかった者もいたが、この短時間の変化に、目に涙を浮かべる者、すすり泣く者、号泣する者までいた。また、皆、誇り高き騎士団としてこの国を守ってきたにも関わらず、一転して反逆者として国を追われる立場になったことで、ここまでの間に、かなり精神的ダメージを受けていた。だからこそ余計に、このフィンの労いの言葉が心に沁みたのだった。そしてフィンは続ける。
「今から山を下りる。しかしこの山を出ても変わらず、国王の手下どもがうようよしているだろう。この山の魔物はほとんどいなくったとみて間違いないとは思うが、しばらくこの山で様子を見て、それから…。」周りを見渡してニヤリとして、
「それから?」
「王宮に乗り込む。」フィンのどや顔に、皆が驚く。
「えっ?どういうことですか?ハルトムートも戻って来ていないですし、情報も何一つない中で…、みすみす捕まりに行くようなものじゃないですか!」
「そうだ、そうだ。」団員たちは口々に言う。
「まあ、まあ聞いてくれ。もちろん王宮には偵察に入る。それでまず第一に、王宮が魔物に占拠されているかどうか、国王が洗脳されているかどうかの確認を行う。俺は国王の真意が知りたいんだ。話せる余地があるのなら、この国のために建設的な話をしたいと思っている。」皆、一言も発さずに考え込む。確かに王が洗脳されていないのなら話し合う余地はあるはずだ。この先の戦いのことも考えて、王の力は必要だ。
「確かにあの聡明な王がなぜこんな暴挙に出たのか理解できません。私もその真意が知りたい。」マグヌスは眉間にしわを寄せて考え込む。
「前騎士団長のことも結局分からず仕舞いだし、あの女の言っていた「女」「神の目的」、女の石から聞こえた「神」っていうのも気になるし、みんなの意見も聞きたい。とりあえず麓まで下りよう。そこで意見のある者は聞かせてくれ。」
その後私たちは、魔の山のふもとまで下りたのだった。




