【第1夜㉗ ~謎の女と「神」の存在】
巨大洞窟への道を急ぐ途中、凱が耳打ちしてくる。
「さっきのサンドラって女を殺ったのは俺じゃない。」その言葉に私は耳を疑う。
「えっ?どういうこと?」
「多分みんなの目には見えなかったと思うけど…、俺が女の首を切るコンマ何秒か前に、別の女が突然現れて、あの女の首を切った。俺もあまりの速さに何もできなかったくらい。スピードが次元を超えている。」凱の顔が珍しく強張っている。
「サンドラが最初に言ってた『女』って人?」
「もしかしたらそうかもしれない…。」凱は、この魔の山で初めて不安気な顔を見せる。
「しかも…。」そう言いかけたところで一行は、巨大洞窟にたどり着く。そこは高さ50mはあるであろう巨大な洞窟で、奥行きは1キロ以上はありそうだ。しかし、アイシャの話とは食い違い、そこはすでにもぬけの殻になっていた。
「何もないし、だれもいない…。」フィンの口から失意が洩れる。
「さっきまで「石」が共鳴していたし…、タッチの差で逃げられたのか?」凱は辺りを確認するが、人の気配も全く感じられない。
すると、先ほどまで後方にいたアイシャが最前列に来て、
「えっ?そんなはずは…。」と引きつった顔で話し始める。
「ここに来て思い出しました。ここは拉致された何千という人たちで溢れかえっていて、黒いローブを羽織った男達が何人かでここを仕切っていました。そして、そこの手前の大きな箱の中にたくさんの石が入っていて…。その前に拉致した人を何人か並ばせて…。」アイシャは再び頭を抱えて震えている。
「ありがとう、アイシャ。大丈夫だよ、少し休んで。」フィンは優しく言葉をかける。
「ここは、実験場か?」凱が思いついたように言う。
「実験場って?」フィンが尋ねる。
「拉致した人と石の適合性を確認するため、ここに全てを集めたとして…そして、石との適合性を確認し、適合しない人はそのまま解放する…。」凱は続ける。
「適合した人は、そのまま石との適性能力を上げて、さっきのフィン団長のように覚醒させる…。」
「じゃあ適合しなかった人が記憶をなくしている理由はなんだ?」フィンは頭をフル稼働させ考えるが、なかなか答えを導けない。
「記憶を抜く?」私は自分の言葉に自分自身驚く。
「まさか…、そんな事…。」フィンは顔を引きつらせて言う。
すると、サンドラがもっていたピンクの石が突然光り出し、声が聞える。
「お前た…虫けらが、崇高なわが神に…ことな…得ない。ましてやこれか…の理想郷を…ことなど…。以ての外だ。」途切れ、途切れに聞こえてきた声は、それを最後に途絶え、そのピンクの石も粉々になり、やがて消え去った。
「何?今の…。」そこにいる者は皆、石から聞こえた得体のしれない神の存在と、理想郷の存在に恐怖を感じざるを得なかった。ここに来て、何かしらの糸口が発見できると思っていたが、逆に謎が深まるばかり。団員たちの困惑と、不安で満ちた顔に、
「とりあえず、ここを出るぞ。」
フィンは気持ちを立て直して、皆に声をかけ、一行は洞窟を出て、マグヌスやアラベルが待つ、建物入り口まで戻る。




