【第1夜㉔ ~ 顔はおいといて~】
「なんで莉奈がいるの?」全員が驚く。そしてすぐさま凱が、莉奈のもとに移動し、抱えて騎士団のもとに連れてくる。
すると女が突然怒りを露わにして、
「その娘といい…、気にくわないわねぇ。私より若くて肌がぴちぴちして…、はち切れんばかり。顔は…まあ、おいといて…。」
その発言に私たちはぼそぼそ反応する。
「おいとくって、何?」
そんな声を気にも留めず続けるサンドラ。
「体つきは…むかつくくらいに良い凹凸ね…。気にくわないわねぇ。気にくわない。」そう言って弓を構え、
「さあ、あの小娘たちの体を貫いてやりなさい、私の可愛いアローちゃんたち!」すると構えた弓に埋め込まれた石が光り、私と莉奈の頭上に数えきれないほどの弓が現れ、全てが私と莉奈の2人だけを狙っている。私がその矢を跳ね返すための呪文を唱えようとした瞬間。
「行きなさい!アローズ。」矢は放たれた。私はその矢の速さから逃れることができず、体に無数の矢が突き刺さり、口から血が噴き出る。その様子に、
「莉羽!」フィンが叫び、同時に無意識に女に切りかかる。
「このくそ女~。死ね!」フィンの猛攻が女の態勢を崩す。
「なんだ、この力は…。」フィンの繰り出す剣の速さが、攻撃とともに増していく。怒りに我を忘れ、周りを一切見ることなく、ただただ女をしとめるだけに集中するフィン。
「くっ。力が…、つっ、強い…。」女は徐々にフィンの力に押され、矢を射ることもできなくなっていた。剣の速さはますます加速し、剣にはめ込まれた石の残像だけが見えるほどになっていた。それと連動するかのように、フィンの目が石の色と同じ緑に光り始めたことに、恐怖を感じた女は、
「この石を渡すから許して…。」と叫んだ。一瞬フィンの腕が止まる。それを好機と見た女が、矢を放とうとした刹那、凱が女の首を切り落とす。
「莉羽!」フィンは、女の死を見届けると、すぐさま私が倒れた場所に駆け付ける。しかし、その時すでに私の姿はなかった。
「どういうことだ?」皆、騒然となる。そして、フィンは我に返ると、
「莉羽!」と私の名前を呼びながらあたりを見回すが、殺されたはずの私を探す団員の姿と、その場に立ち尽くす莉奈、そして女の持っていた石を回収する凱の姿しか見えない。
「凱?莉羽がやられたってのに、何のんびり石なんか拾って…。お前、何やってるんだ?」怒りに震えるフィン。その顔に凱は、
「団長。見てください。」凱が指さす方向を見る。すると、私が殺されたと思った場所に、いつの間にかミカが現れ横たわっていた。そしてその傍らにはグレーの石が転がっている。
「どういうことだ?こいつはさっき凱と莉羽が倒して…消えたはずだろ?」
「ええ、そう見えました。」凱は答える。
「見えた?って?」フィンには訳が分からない。
「莉羽、出てきて。あとウィンダンさん?」凱が私を呼ぶ。闇に紛れていた私が姿を現すと、
「えっ?莉羽?ウィンダン?」そこにいる全員が驚く。
「驚きました?」私は笑顔で聞く。私の後ろでウィンダンも微笑む。
「当り前だろ、俺なんかお前らが死んだんじゃないかって…。」目を潤ませるフィン。
「そっ、そうですよね…すみません。皆さんにご心配をおかけしてしまって…。」
「どういうことか説明して。」フィンはさっきとは違う怒りで顔を真っ赤にしている。
「はい…。」私は乱れた髪を直してから続ける。




