【第1夜㉒ ~狂った男女~】
「ここまで来たのねぇ…。」お姉口調の若い男の声が、静まり返った空間に響く。
「可愛そうに…。この少人数で私たちに向かってくるなんて、命知らずもいいところだわ。頭の回路がこの回廊に迷い込んでショートしちゃってるのね。可哀そうに…。ふふふふふ。ここで私たちに殺されて、命の解放…。主の目的も知ることなく…、本当に可哀そうねぇ。」女が笑いながら話す声も響いてくる。
「なかなかいい出来よぉ。最後の解放は、変化球的で絶妙ねぇ。今日も最高だわぁ、サンドラちゃ~ん。」そう言いながら男が姿を現す。身長3m近い細身の男で、髪は短く、瞳はその男が持っている槍にはめ込まれた石と同じグレーだ。神経質なのか、袖の長さが気になるようで、何度も何度も袖をまくっては下ろし…を繰り返している。
「ん?そちは、なぜそっちにいるのぉ?」その男は、私たちの一番後ろにいるアイシャの姿を確認すると、自分の言ったダジャレに笑いながら、アイシャに話かける。アイシャはその異様な男の視線に、記憶を取り戻したのか動けなくなっている。
それを見て、にやりと笑った男はアイシャの方を見て、何かしら祈り始める。そしてそれを援護するかのように現れる女。身長が170センチ近くある、女性にしては長身で、真紅のタイトなワンピースの胸元から溢れそうな胸は、見る者の目をくぎ付けにする。髪は腰辺りまで伸ばし、瞳は彼女の持つ弓の中央に埋め込まれた石と同じくピンクに光り、妖艶かつキュートさを兼ね備えている。案の定、団員たちは、男に目もくれず、全員女性の露わな胸に視線を向けている。
「あら、ほんと。なぜそちは、そっちにいるのかしら?このダジャレもなかなかじゃない。冴えてるわ、ミカ。」とゲラゲラと笑っていた女が急に真顔になって、
「駄目よ。裏切りは…。お仕置きね。ミカ、殺っておしまいなさい!」女が叫ぶと、
「りょーかいしたわぁ。」男はそう言って、目を閉じ、見開いた瞬間、フラッシュのような閃光を放ち、私たちの視界は全て遮られる。同時に瞬間移動したミカと呼ばれる男が、アイシャをとらえ、女の前に差し出していた。
「アイシャ!」ピートは叫びながらアイシャを取り戻そうと走る。が、凱がピートを止める。
「何するんだ!」ピートは凱に怒りをぶつけるが、凱は譲らない。
「見てください。アイシャさんの背中…。」アイシャの背中にはミカの槍が今にも突き刺さりそうになっている。
「この女を返してほしければ、あなたが持っている石を渡しなさい。じゃないと…そこのお兄さんの愛しのアイシャが串刺しになっちゃうわよ!ははははははは。」女は凱に向かって話すと高らかに笑う。
「サンドラの趣味はたまらないわねぇ~。了解したわぁ、串刺しねぇ!でもこの槍で、何度も突いて…、この子の体が隙間なく穴だらけっていうのもやってみたいわねぇ。」お姉男は興奮気味に言う。
「ふふふふ。久しぶりのお遊びに興奮しちゃうわね、ミカ?」女も楽しそうだ。
「私もよぉ~、サンドラ~。」2人は狂気の笑みを浮かべている。
その2人のやり取りを見ていた私たちは、完全にドン引きして声も出ない。捕らわれているアイシャも呆れかえっているのが見て取れる。




