【第1夜⑲ ~いざ、廃墟に突入~】
静まり返った山の中を警戒しながら進む一行。しばらくすると目の前が開け、100mほど前方に荒れ果てた廃墟が現れる。ツタに覆われ、外壁は崩れ、窓も割られた様子が遠目でも確認できる。
私たちは魔物の奇襲に備えて、少しずつ近づいていく。建物まで残り20mほどのところで空気が一変する。今まで生暖かかった空気が一気に冷やされ、体の芯から凍えるような感覚に襲われる。私たちの緊張度はさらに上がる。すると突然、轟音と共に吹雪が巻き起こり、その冷気によってたくさんの団員が氷漬けにされてしまう。
一瞬の出来事に団員の多くが我先にと逃げ惑う。隊列は崩れ、さっきまでの闘志が嘘のように士気は下がってしまう。
『莉羽、前に来られる?』心層に語りかけてくる凱。
『うん、行けるけど、今のは何?敵の攻撃?』
『ああ、おそらく。かなりの人数やられてる…。』
『今の冷気にやられたの?』
『ああ。団員が何人も氷漬けになってしまってる…。』
『なんてむごいことを…。生きたまま氷漬けだなんて…。』
『凱はアシストお願い!そっちに向かいながら、私がやる。』私はそう言うと静かに唱える。
「紅炎魔術『光焔万丈』」
その瞬間、氷漬けになった団員たちを囲むようにして、高さ15mに及ぶ炎が立ち上がる。これに続けて凱が、その炎を調整、操作し氷漬けになった人々を温め、氷を溶かしていく。
氷漬けになった人たちが氷から解放されたと同時に、私は最前列に到着する。時間にして5秒ほど。自分でも驚くほどの速さだ。
「早かったな。」凱は私の頭をいつものごとく、ポンポンとしてほほ笑む。
「アシストありがとう。」
「今のも良かった。調整がだいぶ出来るようになってきてる。師匠が良いからな!」どや顔で凱が言う。
「そうですね、その通りです。凱様のおかげです!」わざとらしく言って、2人で笑い合う。
「で、敵はどこにいる?」凱は建物の周りの生体反応を確認するが、何の反応も示さない。
「遠隔か…。」そう言うと凱はフィンに報告する。
「おそらく今の攻撃は建物内部からの遠隔攻撃だと思われます。」
「そうか…。ということは、この中に奴らはいるということか…。」
「団長。」建物外周を偵察しに行っていた団員が戻ってくる。
「どうだった?」
「はい、この建物の入り口はここだけです。周りは全て10mほどの塀に囲まれ、中の様子は全く分からない状況です。」
「そうか、ありがとう。…さて、どうするか…。」少し考えるフィン。そして、
「敵はこの内部に潜んでいると仮定して…、莉羽と凱の力は…、必要不可欠だ。ただ、2人ともここを離れるとなると、ここを狙われた場合…。」と途中まで言うと、
「俺がここを守る。中はお前たちに頼んだ。」マグヌスがフィンと凱に向けて答える。
「分かりました、隊長。俺たちは外部の様子を魔法で確認しながら動きます。万が一の場合は戻ってくるので、その時は強く念じてください。それと…、団長。アイシャさんとピートさんなんですが、アイシャさんはこの建物の中の事、何か知っているかもしれないので…、同行してもらいたいと思っています。彼らの事は必ず俺たちが守るのでお願いします。」凱が言うと、
「…。わかった…。必ずだぞ。」フィンは念を押す。
「はい。」
「今の凱が言うと心強いな。頼んだぞ、凱。」マグヌスは笑顔で言う。




