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【第1夜⑱ ~「加護」~】


 ふと自分の周りを見る。先程の戦闘を前にして、恐怖に押しつぶされそうになりながら進む、戦闘経験の浅い若手の団員たちが見える。その周りを屈強な団員が囲み、攻守バランス良く配置され、最悪な事態に援護できる形になっている。


 そして、その隊中心部に怪我を負った団員を乗せた馬車と、先ほど体を真っ二つにされた団員の遺体を乗せた馬車が並行する。私はその馬車に少しずつ近づき、怪我人の状況を確認しようとする。その中に救護班のアラベルが必死にけが人の手当をしているのが見える。


「怪我はどんな感じ?」アラベルに話しかける。


「あっ、莉羽。」アラベルは突然話しかけられて驚いて答える。


「ひどい怪我だね…。」


「うん…。かなりひどい…。今までは魔物との戦いがメインだった騎士団だけど、これからは未知の能力を持った人間との戦いが多くなるかなと…。そうなると怪我の程度も今まで以上にひどくなる可能性が出てくると思っていて…、少ない救護班ではどうにも対応できなくなるんじゃないかと…、ちょっと不安なんだ…。」いつになく表情が暗いアラベル。


「そうか…。そこらへんも考えて行かなくちゃだね…。それにしても…、ひどい…。攻撃をまともに受けてしまったんだ…。」私はアラベルが処置している団員の怪我をみて言う。


「うん。止血してるんだけどなかなか血が止まらなくて…。」怪我の場所を抑えながらアラベルが言う。


「けが人は何人くらい?」


「ここにいる3人と、まだ何の処置もできていない人が20人。」


「了解。じゃあ、まず私がこの人を見るから、まだ処置できていない人をアラベルは看てあげて。」


「わかった。ありがとう、莉羽。」そう言うとアラベルは隣の馬車に移動する。


私は目の前に横たわる団員の止血から入る。この傷には治癒魔法の2番、そしてその後は回復魔法をかけて…、と段取りを考える。しかしこの方法だと時間と魔力がかかりすぎて、もしこの場を敵に狙われたら…、と考えた末、その方法は危険だと判断した私は、


「アラベル、ここにいる全員の怪我の具合を確認したいんだけど…。」


「分かった、処置の前に全員の容態を確認するね。」私が何かを考えている事に気づいたのか、アラベルは返事をすると直ちに取り掛かる。時間にして数分、


「ここにメモ書きしたんだけど分かる?」アラベルは仕事が早いうえに、わかりやすいメモを渡してくれた。


「すっごくわかりやすい。助かる。」


そう言うと、私は早速怪我を分類し、重症度に合わせた治療を考え、怪我によってはまとめて魔法を施していく。怪我が完治した団員が馬車から出てくるのを見た他の団員たちが、その団員に詰め寄り、私の魔法による治癒が広まる。その私の様子に興味津々の団員たちが、いつの間にか救護班の馬車を囲んでいた。それに気付いたアラベルは、集まった団員たちに、


「見たい気持ちは分かります。でも…、周囲の警戒を怠らないでくださいね。」とにこっと笑って声をかける。見たこともない魔法に、目が釘付けになる団員の気持ちが分かるアラベルは、それ以上は何も言わない。


 しばらくして、軽症の団員たち全員の治療が終わると、その団員から喜びの声と、それを見ていた団員から歓喜の声が上がる。

「すごい力です。さすが神の遣わされたお人だ。」


「本当に信じられない。骨折していたはずなのに。もう治ってる。」


「莉羽様の力は本物だ。攻撃だけではない!私たちをお守りくださる加護の力も!」


その声が最前列まで届くのに、さほど時間はかからなかった。


ただ私の中では、死者をよみがえらせる魔法だけは使うことができず、悔しい思いで悶々としていた。


「莉羽の治癒魔法を見た団員の声で、莉羽の加護の力が認知されたみたいだな。」フィンは自分も見たかったなと思いながらも、満足そうに話す。


「そうみたいですね。」そんなフィンとは正反対に冷静に話す凱。


「凱が指示したのか?」


「いえ、俺は何も言っていないですけど…。」


「そうか…。でも、攻撃といい、加護といい、未知の力を見せつけられた団員の士気は、益々上がるな…。俺もそうだけど。」にやっと笑うフィン。


「莉羽は、頭のいいやつです。しかも強い。でもあいつの力は…、これからですよ。」凱が嬉しそうに話す。


「なんでお前がドヤ顔してんの?」フィンはすかさず突っ込む。


「いや、ちょっと言ってみたかっただけです。」急に真顔になる凱。


「前から思っていたけど…お前も面白いやつだよな。ははははは。」私と凱の力を十分に把握したフィンは、上機嫌に歩みを進める。





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