【第1夜⑰ ~神遣士としての立場と行動~】
「今のように万が一、知り合いや家族を敵側に見つけたら遠慮なく言ってくれ。どんなことがあっても、大切な人を傷つけることはできない。」フィンは伝令に伝える。伝令は各隊長へと馬を走らせた。
「先を急ぐぞ。」そう言って振り向き、最前列に向かう。
その後もⅡ級以下の魔物までもが次から次へと現れ、それを掃討していく騎士団一行。
今後の戦いも考え、魔力の消費、体力温存のためにと後方に下げられる私は、先ほどの戦闘で怪我を負い、救護馬車に乗せられている団員の姿を見て心を痛める。
『仲間がここまでの痛手を負っているのに、自分の力の温存のために何もできないなんて…。ここで私にもできることがあれば…。』そう考えていると、
『莉羽、聞こえるか?』
『この声は…、凱?』
『ああ、聞こえるようになったな。』
『これは…、どこから聞こえるの?』
『これはお前の心の奥底。心層に届いている。』
『心層?』
『メルゼブルクでザラードと遭遇した時に、一度経験してるはずだ。』
『ああ、あれ…ね?』
『ああ、だいぶ力をつけたな、莉羽。心層の声は、通常の力では聞こえない。さっきの戦いで能力がだいぶ解放されたんだな。』
『能力がまた上がったってこと?』
『そう、お前も俺も、戦う毎に能力が上がっていく。でも、お前の能力にはどうやら際限がないみたいだな。』
『際限がないって…、どこまでも強くなるってこと?』
『そういうこと。』
『私、最強に…なる?』調子に乗って聞いてみる。
『あはははは。お前面白いこと言うな。でも、そう言うことだ。』凱はこちらを見て笑っている。
『えっ⁈マジで?あはははは…。そうなんだね。…ということは、私も前線に出ていい?何もせずここにいると、自分だけ守られてるみたいで…、こんなの嫌。』
『莉羽、お前にできる戦いは、前線で戦うことだけじゃない。お前には立場がある。【神遣士】という立場が…。人々のイメージで【神遣士】は絶対的存在。この戦いにおいてのその意味は、『攻撃』と『加護』。後方で戦況を伺いながら、必要な時に攻撃に出て、それと同時に戦場の団員の精神的支柱、つまりは彼らに『加護』を施す存在でいなければならない。お前にとっては辛いだろうが…、お前の命はもう、お前だけのものというわけにいかないんだ…。
それと…、今どんな状況においても、お前は俺の助言で動いてるだろ?自分の使命の重さに何をすべきか分からなくなっているのは分かってる。でもお前自身ができること、すべきことを考えていかなければいけないと俺は思う。今後戦況がどうなるかは全く分からない。そういう状況で、俺とお前が別々に行動しなければならない状況も生まれるだろう。その時、お前はどう動く?俺と離れることで、学べることがあるはずだ。
神遣士として今、お前にしかできないことを考えてほしい。』そう言って心層の会話は途切れた。
私は突然、凱に突き放されたような不安を感じ、一人で戦えと言われたようで、心臓がどきどきして落ち着かなくなってしまった。しかし、よくよく考えてみると、凱の言葉は、まさにその通りで、自分が覚悟を決めた以上、自分の責務を果たさねばと思い直す。
『そうか…。今まで何もかも、どうすべきか道を開いてくれたのは凱だ。でも、私は【神遣士】として、自分ができること、やらなくちゃいけないことを自分の頭で考えていかなきゃいけないんだ…。』




