【第1夜⑬ ~魔の山~】
しばらくしてポリの実を取りに行っていた団員たちが戻ってくる。
「ご苦労さま。皆、無事か?」
「はい。魔物が数頭出ては来ましたが、この地方出身の者たちは、この辺りに生息する魔物は熟知していますので。」
「心強いな。ところで…、早速始めるんだな?」
「はい。団長も皆さんも、持ち物にこの実を煮込んだ液を染み込ませたいので、出していただければと思います。」
「頼む。」そう言うとマグヌスをはじめ、多くの団員が、グローブやマントなど出し始める。
「ところで、この実を煮だしてからどれくらいで効果が出る?」フィンが確認すると、
「2時間かからないと思いますが…。」
「そうか、じゃあ、この後の作業は他の者に引き継いで、お前たちは食事と仮眠をとってくれ。ご苦労だった。」フィンは団員を労うと、その団員は深々とお辞儀をする。そしてその場にいる各隊の隊長に、
「日の出とともに魔の山に乗り込むぞ。そうみんなに伝えてくれ。」フィンがそう言うと彼らは一斉に席を立ち動き出す。
※※※
日の出とともに、私たちは魔の山に入る。この山は標高1500m、周囲2キロにわたる密林に覆われ、ここに住み着くほとんどの魔物が、日の出るこの時間帯は姿を現すことがない。陽の光に弱い魔物たちにとって、日中は体力の消耗が激しいのだ。それでもなお、日中行動している魔物は相当な力を持ち、そしてその数が増えている事が実際、私たちにとっては脅威だった。
この密林を形成する木々は20mを超える巨木で、地面には背の低いコケ類やシダ植物などの植物が生い茂っている。そのため、魔物が来ても身を隠す場所がなく、遭遇したら即戦闘を覚悟しなければならない。
「莉羽、生体反応感じる?ここ空気淀みすぎていて見えない…。」凱が声をかける。
「私も見えない…でも、なんでこんなに淀んでいるの?」私がそう言うと、凱は少し考えて、
「もし、これが敵の持つ石の力だったとしたら…、敵は俺たちの位置を把握しているかもしれない…。」
凱はその懸念をフィンに伝える。
「団長、気を付けてください。敵に気づかれているかもしれません。いつ攻撃されてもおかしくない。」
「わかった。その旨、列後方まで知らせてくれ。」そう言うと、団員の1人が振り返って後方にも知らせに走る。
「もし私たちの力が、敵の持つ石の力で封じられているとしたら、魔法も神術も使えないってこと?」能力を使えない不安が私を襲う。
「石の力を全て把握していない状況だから…、そういった覚悟はしておいた方がいいな。」
「わかった…。」私の不安が顔に出てしまっていたのだろう。
「大丈夫。フィン団長の地獄の訓練を思い出せ。俺たちはあらゆる戦闘シミュレーションを実践してきた。自分を信じろ。」そう言って私の肩をポンポンと叩く凱。
「うん…。わかった。」
私は抱えた不安を飲み込む。




