【第1夜⑫ ~16歳で世界を~】
そして私たちは予定通り日没1時間ほど前に、魔の山の手前の樹海にたどり着く。
「この樹海についての情報は?」フィンがこの地方の団員に尋ねる。
「はい。この樹海は魔の山に近いこともあって、多くの魔物がいます。しかし、この地方でしか取れない、魔物の好物であるポリの実が多く取れる地帯がすぐ近くにあるので、それをまず取りに行きましょう。使い方によってはかなり戦況を有利に展開することができます。」
「魔物が好む実を取ってどうするんだ?」フィンはさらに尋ねる。
「その実は魔物の好物である反面、煮ると魔物が嫌う匂いを出します。それを衣服など身につけるものに染み込ませていれば、奴らに気づかれずに目的地まで進むことができるかと…。」
「そんなものがあったとは…。」
「この地方にしか生息しない木ですし、その実も大量にとれるわけではないので、おそらく知らない人は多いと思います。」
「ありがとう。まずこの地方出身の者たちを中心に、そのポリの実を取りに行ってもらう。他の隊は、食事の準備、戦闘の準備、魔の山の偵察を頼む。君にはポリの実を取りに行く指揮を執ってもらいたい。」
「御意。では日が完全に沈む前に早速出ます。」そう言うと彼は、他部隊の隊長にも指示を出し、スムーズに連携を取る。
※※※
野営の準備を終え、食事をとりながら、火を囲む私たち。
「それにしても…、団員の士気が今日の戦闘でかなり上がったな。」フィンが凱に話しかける。
「今日の戦法は神術といって、マグヌス隊長に施したものとはまた違うものです。これは、ファータという星の民ならほとんどの者が、生まれながらに持つ特異な力です。力がある者は、直接精霊と契約できるので、さらに強い力を得ることが出来ますが、直に契約できる者は、限られた者だけになります。
その中でも莉羽は、ファータでは最高クラスの能力と術を扱える能力を持っているので、そこら辺の魔物は掃討できると思います。」フィンは話のスケールの大きさに、ちょっと戸惑って、
「この先、その魔法と神術を組み合わせて戦っていくってことか?俺たちの知らない凱と莉羽がいるんだって、今日の戦闘で実感したよ。」
「凱からこの前その話を聞いて、そんなこと本当にあり得るのかしら?って、思ったけど、今日の戦いには圧倒されたわ。」アラベルが嬉しそうに話す。凱は、アラベルの喜ぶ様子を見て、ほほ笑んでから、
「おそらく、今この瞬間にも、他の星では事態が悪化して、多くの人々が犠牲になっているかもしれない。そう思うと、日々鍛錬を積まねばならないと、莉羽も俺も焦っているのは事実です。ですから、どの星においても自分たちができる事を全力でやるだけです。」そう答える凱に、フィンは心配そうに、
「莉羽は、自分の運命を聞いて、それをどう受け止めたんだ?まだ16歳で世界を…、と言われても、話が大きすぎて…、辛いだろうな。」呟く。
「魔法とか神術とか…、能力はいいとして、精神的なものが心配だな…。あの子はいつ見ても全力で頑張ってるから、世界を救うなんて大役、そのプレッシャーで気持ちがつぶれないか心配だ。」マグヌスも口をそろえる。
「そうですね。実際、精神的に参っているところはあると思います。初めて聞いた時は戸惑っていましたし、嘘だと思いたい気持ちもあったと思います。受け止めるのは難しかったでしょうし、今も訳が分からないまま動いている感もあります。」凱は少しうつむいて話す。
「でも、バートラルだけあって、凱の存在は大きいわね。特に女の子には、強い男子が必要だもの。」アラベルが言う。
「ははは。そうだといいですが…。」凱は苦笑いしながら続ける。
「今、莉羽は寝ていますが、起きた時に、他星の情勢と敵の情報も聞けるかもしれません。」
「ロイのこともあるし…、いろいろはっきりしてくれればいいな…。」フィンは声のトーンを落として言う。
「そうですね。」凱はロイについて、それ以上言及せずにいた。




