【第1夜⑨ ~強烈すぎる精霊、現る~】
昼を少し過ぎたころ、隊の後ろの方で、
「魔物です。魔物が3頭、南方の砂丘の中から現れました!」と叫ぶ声が聞える。
「たいていの魔物は闇に潜んでいる時間帯、この時間に現れる魔物。相当上物だな、Ⅰ級かⅡ級か…。」
フィンがどう戦うか考えていると、
「団長、俺たちでやります。」凱が進み出る。
「2人で、3体を?上級の魔物だぞ。」フィンは驚きつつも凱の表情を見て、納得した様子で、
「援護は任せてくれ。魔法とやらの出番か?楽しみだな。」
「了解です。」凱は馬を急旋回させて、
「行くぞ、莉羽!」ついてこいと手招きする。
「了解!」
私と凱は、魔物が現れた列後方に移動して、敵と対峙する。団員たちは、その様子を固唾を飲んで見守る。
「行ける?莉羽。」
「うん。」そう言いつつも、力をちゃんとコントロールできるかが内心気がかりで仕方ない。
「了解!でも、力の調整は心配するな。暴走は俺が止める。だから自分の力を信じろ!」
凱は私の心を読んでいるかのようにそう言って、直ぐさま「術言」を唱える。するとその途端、目の前に1人の女性が現れ、
「凱!久しぶり!元気だった?いつ見ても良い男ね~。」人間で言えば20代後半くらいの艶っぽい女性が、うっとり凱の顔を見つめる。凱は少し呆れたように、
「ああ、ライア。久しぶり。俺の顔は置いといて、仕事してくれ。」そう言うと、ライアは残念そうに、
「もう~、美しき光の精霊「ライア」様が来てあげたのに~、そんなつれない事言うんだから…。久しぶりに会ったのよ、そんな風に言うなんて冷たいわ~。」色気全開でそう言って続ける。
「まあ、仕方ないわね。ああ…、あいつら照らす感じ?了解したわ、任せて!」
さっきまでの誘うような目から、相手を刺すような鋭い目つきに変わったライアは両手を広げ、「術言」を唱える。すると、一気に、魔物を囲むように目を差すような強烈な光が生まれ、その光の強さに暗闇に紛れようとする魔物を明るく照らす。
「ありがとう、ライア。また呼ぶときはよろしく。」凱がそう伝えると、ライアは再び女の顔に戻って、
「いつでも待ってるわ!じゃあね!」そう言って消える。
私が2人のやり取りに呆気に取られていると、凱が、
「神術を極めて行くと精霊自身が出てきて…、まあ…、ああいう感じなやり取りとか…、その精霊の種類にもよるけど…。精霊初見って反応だもんな?」尋ねる凱。私は初めての経験にまだ頭が混乱し、
「あっ、そうなんだ…。ちょっと光の精霊のお姉さんに圧倒された…。光照らしてくれて、ありがとうだね。」発言がおかしい。
凱はそんな私を見て、ちょっと笑って頷き、
「いろんな奴がいる。どんな奴が出てくるか、これからの戦い、楽しめ!行くぞ。」凱のその声を合図に私は我に返り、
「うっ、うん!」と言って術言を唱える。
「風魔術『黒風白雨』」
その瞬間、魔物を囲んだ光の中に、短髪の長身の男が現れ、こちらをチラッと見ると口元を微妙に動かし、手を前に突き出す。それと同時に突如、爆風が吹き上がり、砂嵐が巻き起こる。そしてその砂一つ一つの粒子が鋭利な刃物になり、魔物の体を切り刻んでいく。戦場は、魔物の体から噴き出る体液で、辺り一面紫に染まる。その状態を確認した凱は、
「最後の仕上げだ…。『天収』」
そう唱えると、先ほどまで砂嵐が巻き起こっていた光の中に、今度はツインテールの可愛らしい傘をさした女の子が現れ、術言を唱え、その途端、光の中に大雨が降り注ぐ。そのとてつもない水圧によって切り刻まれた魔物の体が、木端微塵に粉砕された。
すさまじい光景を瞬きもせずに見ていたフィンをはじめとする騎士団の仲間たちは、腰を抜かすもの、驚きのあまり口が開いたままになっているもの、震えが止まらないもの、それぞれが私と凱の力に驚嘆し、そしてこれからの戦いへの勝利の確信を得た。




