【第1夜⑧ ~魔法と神術~】
タイムリミットまでは驚くほど早かった。私たちは期待を残しつつも、半ば彼らの生存を諦めて、その場を後にする。ハルトムートが合流すれば、王都の情報を入手し、魔の山と王都のどちらに進むかを決める予定であったが、なんの情報もなしに王都に飛び込むのは自殺行為であったので、必然的に魔の山に向かうことが決定した。
「ハルトムート…。」心が重い。まだ仲間になって間もない彼だったが、とても男気溢れる気持ちのいい男だった。まだ若いというのに魅力あふれる人柄で、200人もの男たちを統率し、隣国ウィルドアの国王の信頼を得るまでの男だった。ここにいる騎士団の仲間たちともすんなり打ち解け、死線を何度も潜り抜けてきた戦友のように打ち解けていた。私もハルトムートとは数回しか話していないが、彼の誠実さ、優しさ、心遣いに魅かれるものがあり、できればもっと親交を深めたいと思っていた。
「ハルトムートのことだ。きっと上手くやって、魔の山でひょっこり姿を現すに違いない!そうだ。そうに決まってる。だから、これからの戦いに集中しよう。」自分に言い聞かせるようにフィンは言う。
「このまま進むと魔の山到着は、明日の…、今と同じ時間くらいに到着と思われます。日没の1時間ほど前です。多くの魔物の活動時間である夜間帯に到着よりは、まだましかと思われますが…。いかがされますか?」この星の太陽的存在のムーア星の傾きから、正確な時間をはじき出す団員。
「そうだな。魔物の数が急増する夜間に比べれば、日の出ている時間帯に到着の方が、こちらにとっては有利だ。時間的にはいいな。しかし団員の体力が持つか心配だな…。魔の山に入るというのに疲労が蓄積された状態で入るのは危険だ。休憩の時間はどれほど取ってある。」フィンが尋ねる。団員は待ってましたと言わんばかりに、
「そちらもしかと考慮してあります。十分かと…。」とニヤッと答える。
「さすがだな!」そう言って団員の肩に、手をポンと置くと、
「では早速伝達します。」
「任せた。」団員は敬礼してそれぞれの部隊長に伝えに行く。フィンの団長としての仕事が、少しずつ板についてきているなと仲間たちはその様子を微笑んで見ていた。
※※※
王都には戻らず、魔の山に向かうことにした我々一行。フィンはこれからの戦いがいかに厳しいものになるかを考慮し、できるだけ団員の負担を減らしたいと考えていた。入ると二度と戻れないと恐れられている魔の山の戦いは、おそらく想像をはるか超えるものだろうと、ここにいる団員は皆、いつになく緊張している。その緊張が先頭を行く私と凱にも伝わる。
「フィン団長が言ったように、みんなに魔力を見せておいたほうが…、士気が上がるかもしれないな。」凱は少し考えながら、
「この先、魔物が出てきたら2人で連携して倒そう。魔物の種類にもよるけれど、ある程度強めが出てくれればいいな…。大丈夫そうか?莉羽。」
「うーん。魔法はマグヌス隊長の件で試せたから…、今度は神術の方を試したいなぁ…。」
私はひそかに訓練していたファータでの「異能」神術を、実戦で使えるものかどうかの確認をしたかった。ファータ最強と言われるほどの私の潜在能力がどれほどのものか、凱も自分の目で確かめたいと思っていたので
「了解。じゃあ、手始めに、莉羽が得意なやつで行くか?」と少しワクワクしているようだった。
「この辺りから砂漠が広がる地形だよね?風系で砂嵐はどう?」私もつられてワクワクしてくる。
「了解。じゃあ、いっちょやってやるか!」凱は楽しそうにストレッチを始める。私がそれを見て微笑んでいると、その会話を聞いていたフィンが、
「お前たち、ほんとに前と別人みたいだな。話してる内容とか、聞いてても全然分からん。」フィンはお手上げと両手を上げて舌を出す。
「団長。白兵戦は騎士団の皆さんにお任せします。俺と莉羽は、状況によって戦法を替えますんでお願いします。」フィンはちょっと困惑気味に、
「ん~、2人がどういう力を持ってるか分からないから何とも言えないってのが本音かな…。でも、百戦錬磨のフィン様だから、2人の戦い方見ればすぐに対応するよ。だから大丈夫。」と誇らしげに言う。
「さすがですね!」私は笑顔で返す。
「2人がどう戦うのか、楽しみだな!」そう言って先を急ぐ。




