【第1夜⑦ ~期待を前に…告げられぬ罪悪感~】
凱が話し終えたのは、それから1時間半ほど経ってからだった。私は凱の簡潔かつ、明快な説明に感嘆したが、フィンや他の仲間たちにはそうではなかった…。
それは凱の話した、今現在、世界で起きている私と凱が経験した全ての状況が、あまりに衝撃的で彼らの理解を超えてしまったからだ。そんな状況に、凱は私たちを一番悩ませていたロイの話については、やはり言及を避けた。
「莉羽。お前の番。」凱がみんなの前に出るよう促す。私は何とも言えない心境で、みんなの前に立つ。私が一人一人の顔を見ていくと、皆の私を見る目が今までとは心なしか違ったように感じた。
『これは私に期待している?神遣士の話だから?なんでみんなの目がきらきらしてるの?どうしよう…。肩書は神遣士だけど、中身は普通の女子高生なのに…。』おそらく不安そうな顔が見て取れたのだろう、凱が隣に来て、
「大丈夫。」と言って、背中に手を当ててくれる。
私は、母や凱、ファータの国民に誓った言葉を思い出し、自分の決意を話し始める。自分の弱さ、強さ、思い、迷い、決意、全てをさらけ出して、私はまだ見ぬ敵の脅威にさらされている不透明な未来を、どう変えていきたいかを語り始める。
※※※
どれくらいの時間話していただろうか…。途中感極まって泣きそうになる事もあったが、何とか自分の言いたい事を話し、最後のまとめに入る。
「私はこの世界の人、みんなに幸せになってほしい。だから今、それぞれの星の人々が抱えている恐怖をなくすために…、私は命を懸けて戦いたいと…。こんな非力な私だけれど…、気持ちは強く持ってます。だから…、だから、皆さん私に力を貸してください。お願いし…。」最後は涙で言葉が出てこなかった。
凱はそんな私の肩を抱き、みんなに改めて、
「莉羽は神遣士、そして俺はその眞守り人、バートラル。俺には莉羽を守り、進むべき道に導いていく使命があります。だから、絶対に負けない。この世界を救うために俺たちに力を…。」と言ったところで、そこにいる全員が立ち上がり、
「共に戦います!」とそれぞれが思いのまま声に出す。
「もちろん、ついていきます!」
「莉羽殿と一緒に世界を救います!」
「俺たちも戦います!」みんなの声に涙が止まらない。
「莉羽、お前って奴は、やっぱり…凄いな。」凱は少し目を潤ませて言う。そんな凱に私は涙でぐしゃぐしゃな顔で照れ笑いしながら、
「今頃気づくなんて遅すぎるよ、ばーか。」そう言って肩を叩くと、凱も笑って、
「いよいよ始まるんだな。俺たちの戦いが…。」気持ちを新たにする。
「うん。」私はここにいる仲間の思いを感じ、心が満たされていくのを感じる。
そんな私たちの横で、呆気に取られて何も話せなくなっていたフィンだったが、ようやく口を開く。
「莉羽……様?凱…様?」私と凱は笑って、
「今まで通りでいいですよ。」
「でもそう呼びたかったら呼んでください。」凱がおどけたように言うと、フィンは、
「なんか変な感じだな。弟、妹みたいに思ってた2人が…、まさかそんな凄い存在だったなんて…。でもさ、神遣士だの、なんだのってのは、まだ実感わかないけど…、マグヌスが見たっていう魔法ってのを、あとでみんなの前で見せてくれよ。きっとお前たちの話の信憑性と信頼度がもっと上がると思う。」
ちょっと偉そうに話すフィンを見てアラベルが、
「ただ魔法がどんなものか、自分が見たいだけじゃないの?」とニヤッとして言うと、
「お前、それ言うなよ~。」と、まんまと本音を言い当てられてくじけてしまうフィンの姿に、その場の雰囲気がさらに和む。
「いいですよ。でも…、そろそろここを出なくてはいけない…タイムリミット…、時間です。団長、どうしますか?」と、凱が指示を仰ぐ。
「そうだな…、ハルトムートは来る気配もなしか…。仕方あるまい。タイムリミットは延長してもあと40分だ。10分後に、この後王宮に向かうか、魔の山に向かうかの作戦会議を行う。それでも来なかったら…、出るぞ。」
「承知しました。」
それからハルトムートを待つ間、凱と私は先ほどの「石」の前で、複雑な気持ちを抱え無言の時を過ごす。私たちの話で騎士団の士気はかなり上がっている。その様子を目の当たりにしながら、ロイの裏切りを告げることなど私たちには出来なかった。皆の憧れであり、あれほど頼れる長を持つ自分たちに、誇りさえ感じている騎士団の面々の心を思うと…、私たちには告げることは無理な話だった。
真実を知りながら、信頼を寄せてくれる大切な人たちに伝えることが出来ない罪悪感を抱え、いつかそれを伝えなければならない日を考え、また心が苦しくなるのを私たちはお互い、何も言わずとも共有していた。




