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剣の王と預言の少女  作者: ナムル
第一章 彷徨編
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ひとまずの決着

「ふむ・・・」


 赤いカーペットの上で、ツルギが何か考え込んでいた。


「・・・どうしたの、ですかな?」

「いや、なに、アウィスの奴はどうしてるか思ってな」

「まあ、あの方は大丈夫でしょうよ」

 

 ウーゴは少し剣呑な空気を纏いながら答えた。


「今、宮廷内には私を碌な戦力はいません。・・・王が自らを、王国に不要と断じたが故に」

「まあ戦時中だ。国内の政治がおおむね一枚板である以上、病身の王を守るよりは戦力を増やした方が良いわな」

「いえ、」


 ウーゴの否定にツルギは目を丸くした。


「国が一つであるのは、ひとえに偉大なるメルクリオ王のおかげです。あの方が崩御されたのなら、国は四つに割れるでしょう」

「・・・それは、」

「継承権第一位の第一王子派と、最大派閥の大臣・第一王女派、王以上の領地と富を持つトマス・メンディエタ公爵派、・・・そしてアウィス・エストラーダ侯爵令嬢派に分かれるはずです」

「アウィス?」


 ツルギはさらに目を丸くした。いつもは鋭い彼の目ももはや真ん丸である。

 ええ、とウーゴは言って、


「法王が預言したのですよ。エストラーダ侯爵家に生まれてくる娘を王とすれば、万民栄えて世は平和になり、いつまでも続く不朽の大王国ができるであろうと」

「・・・」

「聖王国とは友好関係にある以上、この預言を無下にするのもよろしくはない。・・・そしてなにより、アウィス・エストラーダはいみじくも王の器だった」

「それであの女を王に据えようとする派閥がいるわけか」

「まあ聖王国出身者がほとんどの最小派閥ですがね。特に事件の後は」


 ツルギはこれは師匠の頼みと何か、関係があるのかと考えた。所詮は一国の話、師匠にとってはどうでもいいことのような気もするが、流石に無関係とするのは難しい。


「・・・というか貴方は、アウィス派ではないのですか」


 ウーゴがちょびひげをいじりながら、呆れたように聞いてくる。ツルギは首を振っった。


「いや、師匠の頼みを聞いているだけだ」

「ならその貴方の師匠とやらがアウィス派なのですか。貴方ほどの男の師匠とは、空恐ろしいですがね」

「安心しろ、師匠は()()()俺よりは弱い」


 ツルギはそう、談笑しながらも良くない頭を回らせる。しかしいくら考えても、師匠の目的が見えてこない。


(・・・まあいい、師匠、善良な貴女のことだ。俺はただ、アウィスを守ればいいだけ)



 と、そこでようやくアウィスが戻ってきた。白い肌には一切の傷がついておらず、金色の髪は全く乱れていない。


「戻ったよ、ツルギ。・・・なんで君らは、仲の良さそうに座っているんだい?戦闘は?」

「説得に成功したからな。お前に信用があったからか、存外打ち解けるのも難しくはなかった」

「それはよかった」

(・・・この男は、いけしゃあしゃあと)


 ウーゴは内心言いたいことはあったが、しかし厳然とした態度は崩さない。ゆえにアウィスに悟られることもなかった。


「とりあえず、こっちはなんとか成功したよ。家長は妹のままに、罪だけ赦される形となった」

「おお、それはよかった」

「む?」


 そのときウーゴの髭がぴくんと跳ねた。


「冤罪だったのですかな?」

「いや、私が妹の男に手を出したのは本当ですよ。ただ・・・、」


 アウィスが王を治したことを告げると、ウーゴは彼女に一礼して、凄まじい速さで王室までとひとっ飛びしていった。


 礼儀も紳士らしさも何もかもかなぐり捨てて、カーペットをもみくちゃにしながら疾走する彼を意外そうにツルギは見つめる。

 

「何ともな男だ」

「まあ彼は王に見出されて騎士団に入って、そこから出世して公爵家の養子にとられた男だからね。彼の忠誠心は見上げたものだよ」

「ふむ」


 俺に少し似ていなくもないな、とツルギは思った。


「・・・まあいい、そろそろ帰るとするか」

「そうだね」


 ツルギがまたアウィスに背負われようとすると、彼女は片目をゆっくりと閉じて、


「私はこれから学園に復学するからね、すぐ近くの。・・・君は、どうせついてくるんだろう?」

「ああ」

「それなら歩こう」


 ふとツルギは、アウィスが次期王の候補として目されていることを思い出した。

 多感な年齢の少女だ、ただでさえ妹の婚約者に手を出したというレッテルを張られているのに、それ以外にも多くの重圧がこの小さな肩にのしかかっているのだ。


「重いか?」


 ツルギはだから、そんなことを聞いた。

 

「いいや、私は力持ちだからね」

「むっ」

「ははっ」


 アウィスは会ってから初めて、晴れやかに笑った。ツルギはただ、話をそらされて仏頂面をしていた。


 人には人の器と、そしてそれ相応の運命があるのだろう。

 二人は共に決して逃げるべからざる、淡い運命の道を共に歩んでいく。星夜は美しかった。



 

 第一章、彷徨編 完









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