閑話
帰り道ツルギは、少しトイレに行きたくなった。
「少し待っていろ」
「ああさ」
ツルギは走って校舎の中にあるトイレに向かった。・・・途中焦っていたからか、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。
「うおっ!?」
「わっ!?」
ツルギはその誰かの上にもつれ込んでしまう。ぐっ、と彼は顔をしかめる。
「すまない、急いでいて」
ツルギがそう言いながら顔を上げると・・・、そこには短い金の髪と中性的な顔が特徴的な、少女が倒れ込んでいた。美しいが、何か既視感を覚えさせる少女だった。
しかしそんな既視感などよりも、見逃せないことがあった。
(・・・ダイヤのブローチ、高位の貴族か。面倒くさいことになりそうだな)
初対面の時のルキアの態度は、貴族としてはひどく真っ当なモノなのだろう。この状況、ツルギは無礼打ちにされてもなんらおかしくない。
「・・・」
少女はじっとツルギを見つめた。見つめて・・・、
「申しわけない、怪我はないかい?」
彼女はそう言うと、手をツルギに差し出した。
「あ、ああ」
意外な発言にツルギが目を丸くしながらも、彼女の手を取って立ち上がる。少女は空いている手でツルギの背中についた埃を払うと、
「やれやれ、私の不注意だ。もう少し注意していたなら衝突も避けられたというのに」
「いや、俺が走っていたから、」
「関係ないよ。私の方が強いんだ、なら私の方に責任はある」
独特の哲学を持つ少女だった。そしてまっすぐな善性を持っているように見えた。
「・・・いい奴だな」
「それほどでも。実際私は結構、どろどろとした嫌な奴でもあるけどね」
「いい奴ほど自らのなんてことない欠点が致命的な瑕疵のように見えるものだ。アイツもそうだった」
「アイツ?まあいいや、怪我はないんだね」
金髪の少女はよいしょっと落としたカバンを拾った。
「しっかしなんだ。お前は強い側の者の責務などに、真剣に向き合っているのか?弱者に憐れみを持つのは勝手だが、それはお前を損させるぞ?」
「いいや、これは得した分を、損で帳尻を合わせているにすぎないさ。私は侯爵家の家長として、恩恵に与った分は庶民に還元しなければいけない」
「なるほど、お前の領民は幸せそうだな」
「・・・、」
ツルギは一瞬だけ、目の前の少女の目が酷く濁ったことに気が付いた。
「そうだね、多少は幸せなんだろうね。多少は」
「・・・お前、」
「あ、そうだ、生徒会の仕事があるからもう行かないと!」
「む、」
そういえばツルギも、トイレに急いでいることを思い出した。
「じゃあね青年。また会う時があったら、そのときはよろしくね!」
「じゃあな」
彼女はそうとだけ言うと、ぴゅーと風のような速度で消えていった。
「・・・」
ツルギはどこかで見たことのある女だなと思った。
「って、そんなこと考えている場合じゃないな。急がなければ」
ツルギは慌てて前を向くと、トイレめがけて疾走していった。




