紫煙と前照灯
(´ω`) <遅くなりました
げほごほとむせるセルゲイに、「煙草、吸わないクチだったか?すまん」と声をかけ、紫煙をぷかりと吐き出す。
「いえ」セルゲイが自分の胸を叩きながら口を開く。「吸ってるんですけど。コレ、クソ不味くないです?」
「滅茶苦茶不味いぞ」俺がトントンと灰を落としながら応える。
「よりによってコイツを、なんで吸ってるんです?」セルゲイが、不思議そうな表情を浮かべる。
「あぁ、そうだな」俺は言い澱んで、ほんの少しだけ考えて、答えた。「きっと。捨てきれなかった憧れだろうな」
「憧れ?」セルゲイが、火についた煙草を指に挟んだまま聞き返してくる。
「俺が、ここにいる理由になった人がな」ガタガタと揺れる車上から、赤みがかった一面に広がる畑と、左手に見える山脈に目をやりながら続ける。「この煙草を好きで吸ってたんだ」
「まぁ、もう死んじまったんだけどな」俺はセルゲイに言うわけでもなく、ただ呟いた。
「何故、その人は死んでしまったんですか」セルゲイが恐る恐る訊いてくる。
「一昨年に起きた、 "ガロンの悲劇 "を覚えているか?」俺の言葉に、セルゲイはこくりと頷いて口を開く。「ガロン基地、弾薬保管地区へのテロ行動、でしたっけ?」
そうだ。俺は続ける。「その時、初期対応に当たった部隊に。その人は所属していたんだ」
初期対応ってことは。セルゲイがそう呟いて押し黙ってしまった。
「まぁ。湿っぽい話はここまでにしよう」俺が、雰囲気を切り替えようとセルゲイに問いかける。「そういえば、名前はなんて言うんだ?」
あぁ、と声をあげてセルゲイが答える。「アナトリー・ルキーチ・セルゲーエフっていいます。通信特技兵です」
「俺も、名乗ってなかったな」セルゲイの名乗りを聞いて、俺も口を開いた。「オースティン・ルイス・エヴァンスだ。階級は中佐、一〇五歩兵大隊長を務めている」
俺の名乗りを聞いて、セルゲイが首をかしげる。「一〇五?」
「あー、まぁ。古い習慣みたいなもんだな」昔は大隊も連番だったんだ、俺はそう言って短くなった煙草をひょいと外に投げ捨てる。
そういえば。俺が呟いてセルゲイに問いかける。「もう日が暮れそうだが。どうするんだ?」
「どうするって、何がです」セルゲイが訊き返してくる。
「前照灯さ」さっき見たときに、それらしいものはなかったが。俺はそう言って、胡坐をかいたまま、もぞもとと動いて座り直す。
「あぁ、それなら」セルゲイが俺の隣を通って、運転席のすぐ上あたりをガンガンと叩いて「ザクセン!前照灯をつけてくれないか!?」と怒鳴った。
「わかった、分かった!頼むから天板を叩かないでくれ!」ザクセンが声をあげてすぐ、前方に向けて前照灯が照射される。
どこにあったんだ?そう呟いた俺の疑問にセルゲイが「普段は隠されてるんです」と答えた。
「そういえば、エヴァンス中佐」セルゲイが改まった口調で、コッチに向き直ってきた。
「どうした?」
「そっちの部隊は、どの無線機を使ってるんです?」
「確か、ジョヴァンニ型の電信機だな」俺がそういうと、セルゲイがあれか、と口を開いた。「無線機型はないんですか?」
「ヴェスプッチ型があるが、出番は少ないぞ」せいぜい、伝令隊との通信くらいだ。俺がそう口にし、ライトで照らされ、どんどんと後ろに流れていく路面を眺める。
「あ い つが配備されてた時は良かったですよ」セルゲイが呟く。
「今のハドソン型の無線機は不調続きだ!」憤るセルゲイに「そんなにひどいのか?」と聞いて見た。
「えぇ」憤ったセルゲイが、どんどんと問題点をあげていく。些細な揺れで壊れ、新品が動かないと思ったら断線、そもそも部品が足りない個体もある。「おまけに、壊れてなくてもノイズだらけですし!」
「そりゃひどいな」俺が呆れかえって呟くと、全くそうですよねと言わんばかりにセルゲイがこくこくと頷く。
ひょいと少将がハッチから顔を出して「ダメだ、どっかしら内部で逝ってるっぽいぞ」とセルゲイに告げる
「最悪だ」セルゲイが悲痛な面持ちで、「また整備に出すしかないのか」と呟いた。
少将が車上にひょいと飛び上がってきて、「エヴァンス、ヴェスプッチ型はどうして使われてないんだ?」
あー、と俺は声を出して、「そもそも、無線機が1台だと、使う機会がそこまでないんですよ」と言った。
使う機会がない?と少将が疑問そうに呟いたので俺は答えた。「大隊から連隊へ情報を飛ばす時に、たまーに使うくらいです」
「大隊から中隊へは?」セルゲイが聞いてくる。「それは有線と伝令だな」俺はまた答えて、「無線機、中隊には配備されてないからな」と付け加える。
「そうか」少将が声をあげた。
「どうしたんです?」
「いや何、これは重要な情報だ、そう思っただけさ」
上層部は、無線機は大隊までで十分だと思ってるんだ。少将がそう言ったのを聞いて、セルゲイが眉をひそめる。
「上層部の方々はどうも、伝令を重要視しているきらいがあるようですね!」
その通りだ、俺と少将は一度大きく頷いた。
「無線機の便利さを全く分かっていないようでな、弱ったものだ」
少将の嘆きを聞いて、俺は煙草を差し出した。「吸います?」
「あぁ、1本くれ」少将が受け取って、セルゲイの差し出した火にかざして火をつける。
すぅと一つ、大きく紫煙を吸い込んで。
少将が思いっきりむせた。
(´ω`) < ブックマークしてくれると嬉しいです。
(´ω`) < ちなみに次の話でようやく書き直しが終わります。お付き合いくださりありがとうございます。