" ランナー "
(´ω`) < 2話目後半と、3話目の冒頭に相当します。
「探すって言ったって、どうやって?」
伝令隊を探す、そう言って歩き出した少将の後ろをぱたぱたとついて行く。
にやりと笑って、少将が「一つ、アテがある」と言って、南の物資集積所の名前を挙げる。
「その集積所が?」
「他の大隊に伝令隊が来るのは、通信か物資の融通くらいだろ?」少将の言葉にこくりと頷く。
だから向かうんだ、少将はそう言って建物の角を曲がり、目の前の物資集積所を指さした。
「ほら、いたよ」そう言って指さした先には、装甲化された四輪トラックのような車輛が止まっていた。
ざっざっと足音を立てながら、少将が「おうい、ちょっといいか?」と、地図を持って、補給隊と話し込んでいる兵士に近寄っていく。
「君たち、所属はどこだい?」
「第74機甲師団の第四十連隊所属、第四〇五大隊付の伝令隊っスよ」黒い短髪の、無精ひげの生えた青年が答える。
少将が考え込み、「君、名前は?」と聞く。
「フレート・ガイガー。運転特技兵っスけど」不思議そうに青年が続ける。「あー、将官殿は?」
「第五歩兵師団長、トマス・オリバー少将さ」
「少将、そりゃすごい人っすね!」青年が手を差し出す。「仲間内からは "ザクセン" って呼ばれてるっス」
そうか、と少将が笑みを浮かべてその手を握る。「ザクセン、帰りに一緒に載せてって貰えないか?」
「そりゃ勿論!」少将の頼みにすぐに頷きそうになり、しまったと言わんばかりの表情を浮かべて「あー、物資で車内が一杯なんスよ。上でよければ」と言い、車輛を指さす。
少将が俺の方を見てくる。サムズアップを掲げるのを見て「何も問題ないな」と少将が答えた。
かんかんと靴音を立てながら、少将が備え付けられた梯子を登っていくのを見て、俺はザクセンの傍へ向かう。
「ザクセン、これ吸うか?」と俺は言って、普段吸ってる煙草を1本投げ渡す。
うげ、とザクセンが声をあげて「これ、クソ不味い奴じゃ無いっスか?」とこっちを見てくる。
バレたかと小さく笑い、マッチを出すために懐に手を突っ込んで思い出す。マッチは大隊司令部に忘れて来たんだ。
「あぁ、クソ。さっき買っておきゃ良かった」と呟く。
「何がです?」
「マッチを大隊司令部に置いてきちまったんだ」俺がそう呟いて、梯子に手をかける。
梯子を上り切って、小さな箱らしいものの傍に、腰を降ろそうとすると、先にいた少将が「そこには座らないでくれ」と声をかけてきた。
「そこにはハッチがあるんだ」少将が、丁度俺の座ろうとしているところを指さす。
「あぁ、こりゃ失礼」俺はそう言って、車輛の中央あたりに移動し、どっこいせと胡坐をかいて座り込む。
「出発するんで、揺れに気を付けて下さいっス!」ばたんと扉を閉める音が聞こえて、下からザクセンの声がくぐもって響いてくる。
がたがたと揺れる車輛の上でバランスを取りながら、ふと少将に聞いてみる。「この車輛って、名前とかあるんですか?」
「あぁ。こいつにも名前はあるぞ」少将が、こんこんと車輛の天板を叩きながら答える。
「二式装甲車の伝令仕様、俺たちは "伝達者"って呼んでいるっス」と、車内からザクセンの声が響く。
「伝達者、か。」俺がそう呟くと、再び中から声が響く。「ここ数カ月で配備され始めた新しい子なので、手探り状態ですけど」
そうだ、と少将が思い出したかのようにザクセンに声をかける。「ザクセン、あの問題は解決したんだったか?」
「いーえ!全く解決していないっスよ」とザクセンが答える。
「一体、何の問題が起きてるんです?」被っていた軍帽を脱いで、足の間に押し込んだ。
「セルゲイ、詳しく話してくれないか?」と中で運転しているザクセンが言った。すぐにバタバタがちゃんとモノを動かしたりする音が聞こえて、ついさっき俺が座っていたハッチが押し開けられる。
「おや、君は」少将が驚いたように口を開いた。「知り合いなんですか?」俺が訊くと、ハッチから出てきた青年が代わりに応える。「少将殿に勧められて、通信手になったんですよ」
「久しぶりだな、セルゲイ!」少将が嬉しそうに声をあげる。「まさかこんなところで再開するとは」
あー、とセルゲイが声を出して、「無線機なんですが。ノイズが酷いです」と言った。
「ふむ」少将が興味深そうに声を漏らした。「砂でも詰まったか?場所を替わってくれ」とセルゲイに言う。
のそのそとセルゲイが車上に出てきて、ハッチから代わりに少将が滑り込んでいく。
「少将殿!?」車内でザクセンが驚いたような声をあげている。
「セルゲイってことは、お前スラヴ系か?」上に出てきたセルゲイに聞いてみる。
「生まれはロシア帝國ですね」セルゲイが答え、続ける。「今は白ロシア共和国になってるあたりですけど。3歳の時にコッチに来ました」
貴方は?とセルゲイに聞かれて、懐から煙草を取り出して咥える。「タニーシャって、しってるか?」
ガタンと大きく車輛が揺れ、セルゲイが「あー、いえ。知りませんね」と答える。
「南の方にあるそこそこデカい町でな」箱をセルゲイの方に差し出す。「小麦と織物が盛んなんだ」
セルゲイがひょいと1本抜き取り、マッチを擦って火を差し出してくる。
「まぁ」それぞれ煙草に火をつけて咥え、すぅと深く息を吸い込む。「もう、五年は帰ってないけどな」
「ということは、生粋のボスケット国民ですか」セルゲイがそう言って、げほごほとむせる。
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