あの日
1人、踏切に立つ。
なんだか体が熱くて、いつも聞こえる虫の鳴き声も、鼓動の音にかき消されて聞こえない。
足元には、ここに来るまで蹴ってきた空き缶が転がっているけれど、つま先がじんじんしてるし、もう蹴る気力もないからいいや。
暇だから空を見上げてみた。夜空を観察するなんて何年ぶりかな。星も月もずっと見てなくて、夜空は一面真っ黒なものだって思ってたけど、ちょっとだけ明るくて、月も星もちゃんとある。
左の方から電車が走ってくる音が聞こえて、前に向き直った。
電車が、轟音を立ててすぐ前を通り過ぎてゆく。
たくさんの人、たくさんの暮らしを乗せた電車が。
これは私が乗るはずだった終電だろう。
うるさいのに、寂しい。
人が本当に孤独を感じるのは、周りに誰もいない時ではなく、自分と交わらない人がたくさんいる時なんだ。
私は少し冷静さを取り戻して、今日の出来事を振り返ってみる。
今思い返すとばかばかしい。こんなにばかばかしいことで、終わっちゃったんだ。私が終わらせちゃったんだ。
気がつくと、なぜか私の身体が泣いてた。頭の中はすごく落ち着いてて冷静なのに、私は叫びながら泣いていた。
近くにいる人が咳払いしたあと、釣られて自分も咳払いしちゃう時あるけど、いま私がやってることもそんな感じなのかな。
とか、考えてたと思う。