二人のファーストミツション
カイムがニオとタッグを組んだ後、二人でドーム中央の作戦会議室へ向かう。入れば円状の机にアロルドを始めとした人々が座っている。
皆、東京にいくつもあるドームが神の一党に占拠され、逃げ伸びてきた司令官たちだ。
「息は合ったみたいだな」
アロルドがカイムとニオを見てそう言うと、二人は少し頭を下げる。頷くアロルドは、背後のモニターを指差した。
「知っての通り、日本の首都である東京は、ほとんど神の一党に占拠されている。反撃に転じたいが、まだ具体的な作戦は決まっていない」
「なら俺たちに与えられる作戦は、偵察かなにかか?」
敬語がなっていないだのコソコソと言われたが、アロルドは頷いた。
「反撃する際、まず攻めるのは、ドームの残る新宿、渋谷辺りだ。だからまずは、偵察として、お前たちには渋谷へ向かってもらいたい」
これを見てくれ。アロルドが会議室の壁にあるモニターの画面を切り替えた。そこには、東京都の衛星写真がある。
アロルドはその中から、渋谷をズームする。渋谷駅から離れたドームに、なにやら赤い点が集まっている。
「このドーム周辺が、お前たちに偵察してもらいたい場所だ。元は俺たちが使っていたドームだが、どういうわけか、渋谷全体の防備を薄くしてまで機械兵たちが集まっている。一網打尽にする好機とも捉えられるが、罠かもしれない」
「だから俺たちに見てこい。そういうわけか」
「まぁ……そうなるな」
あまり危険地帯に部下を送るのは、アロルドからすると憚られるようだ。しかし、他の司令官たちは鼻で笑っていた。
「死神はともかく、ガキなら失っても大した痛手じゃない」
司令官の一人がそう言うと、カイムが興味なさげに目をやった。
「俺たちガービッジ……日本語では「ゴミ」だったか。ゴミに相応しいと言いたいのか」
「さぁ? ガービッジなんて言葉、初めて聞いたな」
煽るような物言いには、もう慣れた。指示を出す司令官やオペレーターといった奴らは、大抵こうなのだ。基本的にドーム内、もしくは人類がマギアから逃げ伸びるために造った軌道エレベーターに籠っている。対してカイムたち戦闘員は、有毒なマギアに晒された戦場で、命がけの戦いをしている。
神の一党に押されている現状、いちいち亡骸を回収することはない。まるで使い捨てのゴミのような扱いから、戦闘員たちをガービッジと呼ぶ者は少なくない。
カイムからしたらどうでもいいのだが、ニオが不満そうに声を上げた。
「あんまりゴミ扱いするんなら、この基地のデータを神の一党に流してやってもいいけど?」
どよめく場だが、カイムが黙るよう頭を叩いた。感情の籠らぬ「申し訳ない」も口にする。
「それで、現地にはどうやって行けばいい」
陸路か空路か。単純なようで、そのどちらも難しい。
陸路では機械兵たちが巡回しており、空路ではヘリの用意が必要だ。たった二人のために、わざわざヘリを用意はしないだろう。
カイムは形式上訊くと、アロルドが申し訳なさそうに前者だと答えた。
「昔使われていた高速道路を二時間も歩けば渋谷に着く。すまないが、二人にはそこを行ってもらいたい」
カイムは特に異議はない。ニオは歩いていくことにゲンナリしていたが、渋々了解と答えた。
「では、作戦開始は一時間後だ。マギアライフルとブレードの点検をしておけ」
そうしてお開きになり、二人は会議室を出る。ふと見上げたドーム越しに見える空は明るく、雨の心配はない。
「はぁ、歩きかぁ」
と、ニオが愚痴を零す。「せめてマギアで飛んで行こうよ」とも言うが、悪目立ちして偵察にならないかもしれない。
そこのところはニオもわかった上での愚痴だ。
「前時代的だよねぇ。せっかくマギアのおかげで空だって飛べるのに、わざわざ歩くだなんて」
「マギアのせいで地上に住めなくなったのを忘れるな」
カイムの言葉に、ニオは少し不思議そうにしていた。
「ない方がよかったの?」
「……どうだろうな」
人によって意見の割れる質問だ。マギアがあるから、人間はマギアライフルやブレードといった、既存の科学技術では作り出せないものを作り、操れる。しかし、マギアのせいで、人は地上に住めなくなった。オマケに神の一党などという敵まで現れた。
だが、いつかは人間の知恵がマギアがあっても地上で暮らせるようにするだろう。アメリカにそびえ立つ軌道エレベーターの中でも、神の一党への対策と同時に、マギアのコントロールが課題として挙がっている。
そういう諸々の事情やらを鑑みて、尚且つ自らの置かれた状況をカイムは考え、一つの答えが頭に浮かぶ。
(マギアがあるから、俺は戦っている……マギアがなければ、復讐はできない)
カイムの神への復讐心が、マギアの存在を肯定した。
「とにかく、マギアライフルとブレードを取りに行くぞ」