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かくして復讐は終わり、そして続いていく

――アメリカ軌道エレベーター 二一四七年。五月一日



 人類軍総司令官ヘイズ・パーイプルに、客人が来るとの知らせが届いた。彼はスーツに袖を通すと、一般人の立ち入りが禁止されている軌道エレベーター最下層に赴いた。半透明なドーム越しに荒れた大地を目にしていると、部下が声をかけた。


「ヘイズ様、本日はどのような御用でしょう?」

「ああ、少し話があってな。悪いが君たちは席を外してほしい」


 護衛としてついて来た部下を下がらせると、ヘイズは最下層のさらに下にある地下エリアへと降りていく。


 何重ものセキュリティに守られた地下広場には、リニアモーターカーが停まっている。ヘイズは指紋認証を済ませると、中へ足を踏み入れた


 政府高官などの重職に就くものしか知らないが、ここには地球各地から海を伝って移動用のパイプが通っているのだ。密談の類はリニアの中ですべて行われていると言っても過言ではない。それだけに、リニア内部は話し合い用の洒落たテーブルと椅子が用意されている。


「ふむ、少し早かったか」


 ヘイズは椅子へと座り、腕時計に目をやる。話し相手――ドクトルが遅れることなど、今まではなかったのだ。


「しかし、奴の手勢はなにをしているのだ」


 神の一党を名乗るドクトル傘下の機械兵たちは、彼の生み出したポッター、スネークにより一つの軍隊として統合されたと聞いている。日本から出ることなく、とある重要人物を探すアンドロイドへ攻撃をしているのだ。

 裏ではこうして手を取り合っているだけに、あまり表でぶつかられると面倒だと、ヘイズは内心頭を抱えていた。


「それに、あの男はどこに消えた」


 重要人物――マギアに完全なる耐性のある神居。半月ほど前より姿が確認できていないのだ。


 トントントンと机を指で叩いていると、リニアの扉が開く音がした。いつものように仮のポッターに入ってきたのだろう。ようやく話ができる。安堵している彼だが、突然電気が消えた。


「んぐっ!」


 立ち上がり声を出そうとして、後ろから口を封じられた。背中には尖った物が突きつけられ、無言ながら騒げば殺すと言われているようなものだった。


「ヘイズ・パーイプルだな。いいか、俺の問いに嘘をつくな――YESなら首を縦に、NOなら横に触れ」


 マスクでもしているのか、声がくぐもり誰だかわからない。とにかく、ヘイズはコクコクと頷いた。


「最初の質問だ。マギアに関する研究データはこちらで調べたところによると、あと二年も経てば地上の浄化が行える――合っているか」


 冷や汗を流しつつ、ヘイズは頷いた。


「なら次だ。お前はドクトルを神という呼称で仮想の敵とすることで軌道エレベーター内の人類を団結させている。どうだ」


 またしても頷いた。一体後ろにいるのは誰なのか。ヘイズには恐怖心が増していく。

 まずここを知り、忍び込み、人類軍の総司令官である自分を脅す相手など、ドクトル意外に想像がつかないのだ。


 口ぶりからして、後ろにいるのはドクトルでも、その人形たちでもない。

 恐怖で青ざめるヘイズへ、また次だと囁かれた。


「神が死んだ後の統治は、実現は難しいが計画されているのは知っている。そこにお前は必要か?」


 恨みを持つ相手なら、必要だろうと不必要だろうと、答えた後に殺すだろう。ヘイズは死を突き付けられ、呼吸が荒くなる。


「どっちだ」

「クッ……!」


 腐っても人類軍の総司令官だ。言葉を放った一瞬の隙を突き、拘束を解いて振り返った。

 即座に反撃しなければ殺される。ホルスターにある銃に手をかけたが、


「この距離で銃に頼るのは愚行だ」


 一瞬で喉元を掴まれ、壁に叩きつけられた。声を出そうにも、呼吸が困難な程だ。


「どっちだ……!」


 闇の中でマスクの相手に、ヘイズはなんとか首を縦に振った。すると、少しだけ喉を掴む力が弱くなる。


「どう必要になる。話せ」


 嘘はつけない。下手をすれば殺される。慎重に言葉を選んだが、声が裏返ってしまった。


「わ、私が居なくては、そもそも人類軍を統べる者がいなくなるのだ……! わかるだろう? 私が死ねば、この狭い世界で権力争いが起こる。二年後を目途にしている計画も、最悪消えてしまう……!」

「……そうか」


 喉から手が離れた。安堵するヘイズだが、足元を払われ転んでしまう。見下ろしてくる姿は、まるで死神のようだった。


「どこにいても、見張っている……私利私欲に走れば、すぐにでも殺す」

「お、お前は誰だ! 何者だ!」


 パチパチと、暗闇の中でマギアが電気となって弾けた。その光に照らされたマスクに、J53と記されている。


「そのナンバー、まさかお前は……」


 

「神居」



 言った瞬間、暗闇でブレードが引き抜かれた。「やめろ!」と叫ぶヘイズの顔に向けて、ブレードが突き下ろされる。


 悲鳴を上げかけたヘイズの頬に、一筋の傷ができる。ブレードは、顔面の真横に突き刺さっていた。


「俺の名は、カイムだ」


 叫ぼうとして、踵をみぞおちに食らう。ヘイズはマスクを見ながら、意識を失った。


「――いいの? 殺さなくて」


 セキュリティから何まで操作していたニオが、Iドロイド越しに問いかけた。


「嘘をつくようなら殺していたし、これからも見張り続ける。一生をかけて、俺のデータを有効的に使わせる世界作りに奔走してもらう」


 これが、カイムの下した人類軍への復讐だった。J53というマスクを被り、ニオと共に、今までの戦いを無駄にしないようにする。リニアから降り、階段を上ると、異変に気付いたヘイズの部下たちと鉢合わせる。


 動くなと銃を向けられるが、カイムはブレードを向けた。


「区切りはついた……だからまた戦おう。すべてが終わるまで、俺の戦いも終わらない」


 ニオが地下の電源を全て落とすと、カイムが押し通った。アラームが鳴り響き、上層から警備部隊も降りてくる。


 しかしカイムは、最下層からドームを切り裂き、荒れ果てた大地へと飛び出していく。

 復讐も警告も済ませた。なにもかもに終止符が打つまで、カイムはこの大地で生きる。


「まだしばらく付き合ってもらうぞ、ニオ」


 やれやれと、ニオはドクトルの地下研究所で手を振っていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました! 新作の方へとりかかっていますので、そちらにも目を通していただけると幸いです!

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