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死神と希望を携えたパートナー

 軍用航空機が着陸したのは、お台場だった。マスクを被り外に出ると、半円状のマギアを遮断するドームが見受けられる。機械兵たち神の一党が東京の都心を占拠したため、人類軍は追いやられていたのだ。東京のドームはお台場を残し、全て機械兵に占拠されてしまっているのが現状だ。


 ここから神の一党に反撃する。反撃できなければ、後ろは海なので、抵抗は不可能だろう。

 そういう事情もあり、お台場のマギア遮断ドームには、他のドームから逃げ伸びてきた人々が多い。マギアライフルもブレードも数がある。


 カイムはドームに入るが否や、武器や戦闘員たちを見て回る。この後に控える東京駅や新宿などの奪還作戦へ向けて、戦いをイメージしていたのだ。

 そうやってドーム内を回っていると、カイムに声をかける者がいた。黒人の厳つい体つきの男は、カイムの肩を叩く。


「よう、お前さんが噂のカイムか」


 カイムは意気揚々と声をかけてきた男を目に映す。記憶にある顔と同じか確認するため、ベルトのホルダーにある通信機器――Iドロイドを取り出す。


(ここの指揮官、アロルド・マックダフか)


 画面と男とを見比べ、軽く一礼した。


「ただいま着任したカイムだ。ここの指揮官と聞いている。よろしく頼む」


 それだけ言うと背を向けたが、アロルドはすぐに呼び止めた。


「もっと挨拶というものがあるだろ?」

「……申し訳ない。あまり人付き合いは得意ではないのでな」


 謝ってはいるものの、感情の籠らない声に、アロルドは困り顔だ。


「まぁ俺としては、お前さんが存分に戦ってくれたらそれでいい。ただ、別名の方はちょっと困るが……」


 言葉に詰まったアロルドへ、カイムは気にも留めず口にした。「死神」という、自らについた通り名を。


「怖いのなら、誰とも組ませなければいい」


 カイムはいつも一人生き残り、意識を失う。その際、共に戦った者たちは戦場で死んだことになっているが、カイムだけは謎の生還を遂げている。


それが一度や二度ではないカイムには、死神の別名は適切だと言えた。

しかし、アロルドは少々うなった。


「死神ってのは、裏を返せば絶対死なずに生き残ってきたってことだろ? そんな優秀な奴を一人にはできなくてな……パートナーはもう決まってるんだ」


 癖であるため息をつく。いつもそうなのだ。派遣された地域に行けば、分隊なりパートナーが用意されている。神がどこにいて、どのような存在で、具体的に何を企んでいるのか分からない以上、また死なせてしまう。


 どうにか断ろうにも、死神としての優位性が邪魔をする。仕方なく、「どこの誰だ」と訊けば、また微妙に困った顔をする。


「その、優秀だが新人なんだよ。あと、少し変わってるな。ずっと籠って、一人で趣味に興じているんだ。無口だと聞いてるお前さんとは、少し相性が悪いと思うんだが、司令部が決めたことでなぁ……」


 頭痛のしてきたカイムだが、とりあえずどこにいるかを訊いた。案内すると言うのでついていくと、場違いな傾いた二階建ての家屋へたどり着く。


「昔、ここに人が住んでた時の名残だそうだ。お前さんのパートナーは、中で機械いじりをしてるよ。あとで作戦を伝えるついでに紹介するが、今会っておくか?」

「会うが、二人にして欲しい。これからのことを話したいからな」

「わかった。話が終わったら、二人でドーム中央の作戦会議室に来てくれ」


 去って行くアロルドを見送ってから、傾いた家屋のドアをノックする。返答がないのでもう一度強く叩いたが梨のつぶてだ。しょうがないので扉を開けると、薄暗く内装がよく見えない。


(埃臭いな)


 戦闘時以外は、なにをするにしてもドーム内の住居エリアで過ごすのが基本だ。なぜかパートナーはここに籠っているようなので、変人が出てこないか身構えてしまう。

 とはいえ、どんな相手でも出てこないと話にならない。


「おい、俺……カイムのパートナーがここにいると聞いて来た。出てこい」


 カイムの声に、暗がりの奥でガタッと音がする。ぼんやり人影が見えると、そろりそろりと壁へ向かった。


「えーと、電気電気……あった!」


 中性的な声がしてから、部屋の明かりがつく。時代遅れの豆電球で照らされた姿に、カイムは眉をひそめた。


「お前は……」


 亜麻色のショートカットに紫紺の瞳。体つきは凹凸がなく、まだ背も小さい。男か女か迷う外見だ。ともかく、カイムは続けようとして、


「やぁ初めまして! データでは見させてもらったけど会うのは初めてだね。ボクの名前はニオ・フィクナー。好きな食べ物も嫌いな食べ物もなし! 趣味は機械いじりとデータを漁ること!」

「少し、待て。一気に喋るな」

「え? でも、君が「カムイ」なんだろう? 日本にある漢字で書くと「神様が居る」を略して「神居」になる面白い名前で、その上死神なんていうあだ名が」

「一回黙ってくれ。それと俺の名前はカイムだ」


 頭痛を感じながら強く言うと、小柄な少年にも少女にも見えるニオは黙った。なにか話したそうにうずうずとしていたが、カイムはまず、一番気になることを問いかける。


「お前、まだ子供だろ」


 顔つきも体つきも、高く見積もっても十四かそこらだ。いくら神の一党に押されているとはいえ、こんな子供を戦場に引っ張りだすほど、司令部も落ちぶれてはいないはずだ。


 しかし、カイムの子供呼びに、ニオは頬を膨らませた。


「これでも十分に働けますー! むしろ、前線でブレードを振り回しているだけの戦闘員よりずっと優秀だよ!」

「待て、その言い分だと、お前は戦わないのか」


 カイムが言うと、ニオが両手を広げて肩をすくめた。


「そりゃこんな可憐な乙女が戦うわけないだろう? ボクはザックリ言うと、君の後方支援担当だよ」

「後方、支援か……」


 カイムが数百回渡ってきた戦場のどこにも、後方支援などはいなかった。基本一緒に戦い、死なれて、意識を失う。

 今まで意識を失ってきたのは、決まって仲間が全滅した時だ。だが後方支援というからには、前には出てこないのだろう。


 そういう意味だと、ニオは都合がいいパートナーかもしれない。

 具体的に何をするのかを訊けば、部屋の奥にあったモニターへ来るよう促した。


「見ての通り、今までの君のデータを漁ってたんだ。でもどういうわけか、君のデータはぶつ切りでね。集めるのには苦労したけど、君の――そうだな、マギアを使った戦闘力は優秀だ。量産型のブレードが砕けたとか、マギアライフルもマガジンがパンクしたりしている」


 言うなれば、カイムのマギアに対する完全とも呼べる耐性が原因だ。戦闘時に用いるボディアーマーは、現時点で判明されているマギアの特性を逆手に取り、弾く造りになっている。そのボディアーマー越しにマギアを操っているのが普通であり、マギアライフルもブレードも、それを想定した造りなのだ。


 対してカイムは、ボディアーマーもマスクも必要なく、思う存分マギアを使える。前の戦場でも、そのおかげで全力を出し、ブレードが砕けてしまったのだ。


「ボクの仕事は、君が全力を出しても壊れない武器の開発だね。あと機械兵をハッキングしたりもできる。なにせボクは……」

「……なんだ」

「なんだと思う?」

「遊びに付き合うほど暇じゃない。早く答えろ」

 別に特別な意味を込めずに言ったのだが、ニオは不敵に笑った。

「そう、この理由こそが、ボクが子供じゃない最大の理由なんだ」


 首を傾げるカイムに、ニオは一度扉を開けて周りをキョロキョロと見ると、閉めて戻ってきた。


「聞き耳立ててる人はいない、と。じゃあ改めて。ボクは超一流の――AIなんだ……たぶん」


 流石のカイムも、その言葉には驚いた。ここまで短いなりに話していたが、ずっと好奇心旺盛な子供のようで、とても人間臭かった。

 いくらなんでも、AIとは思えない。カイムは黙考するも、「たぶん?」と訊き返した。


「確かにお前はAIには見えない。しかし、自分から言っておいて、たぶんとはなんだ」

「いやー、色々あってね。ほんとーに色々……ま、近いうちに話すよ。でも、ボクの力を見たら、人間には絶対に見えないね」


 見たい? 見たい? と迫ってくるニオを見下ろしつつ、カイムはため息交じりに「見せろ」と言った。


「なら! とくとご覧あれ!」


 指をパチンと鳴らしたニオは、その手でカイムのデータが映るモニターを指差した。


「今からあの中に入って来るから」


 入るとはどういうことなのか。問いかけようとすると、ニオの体が力なく倒れた。抱きとめるも、脈がない。嫌な予感がしたが、モニターに繋がるスピーカーから声がする。


「はい、移動完了。ついでに、スピーカーの音声をボクの声と同じにして……」

「……本当に、そこにいるのか」


 なにやらモニターの中が激しく発光しているが、確かにニオらしき声がする。画面に触れれば、「指紋が付く!」と、またスピーカーからニオの声がする。


「やっぱりこれ窮屈だ。元の体に戻るからね」


 そう言うが否や、力の抜けていたニオの体はむくりと起き上がる。言葉を失うカイムに、ニオは面白そうに笑うばかりだ。


「訊きたいことは色々あると思うけど、まずは一つ言わせてね。ボクがこういうことをできるのは秘密にしてほしい――ああごめんもう一つ、この体はほとんど人間を模して作られてるけど、一割くらいは機械だからね。特注品みたいなもので替えがないから、今みたいに意識データを機械の中に移したら支えておいてくれるかな」


 これは、今までの戦場渡りとは違う。カイムの脳裏に浮かぶ戦場には、こんな都合のいい相手はいなかった。


「……今のように移れるのなら、もしかして死なないのか?」

「そりゃね、この体が吹き飛んでも問題ないよ。でも、近くに入り込める避難所――電子機器がないと困るかもなぁ……あ! そうだ!」


 ニオは手を叩くと、Iドロイドを渡してくれと言う。なにをするのか知らないが渡すと、モニターにつないでキーボードをカタカタと叩く。


「はい、これでボクが入れるくらいには容量が増えた。いざってときは、その中に逃げるから。これで、死ぬ心配はしなくて大丈夫だよ」


 ニオの言葉が、途中から頭に入ってこなかった。死なないパートナーなら、次の戦場へ行くこともない。ここで終わらせることもできる。なんならニオに神の居場所を探させることもできるかもしれない。


「……まだ名乗っていなかった。カイムだ。よろしく頼む」


 知ってるけど? と不思議そうなニオだが、カイムが自分から名乗るなどそうそうない。どうせすぐ死ぬから名乗るだけ無駄であり、仲を深めてしまえば、死なれた時に少なからずショックがある。

 そのカイムが、よろしくと手を差し出した。神への復讐が成せるかもしれないという希望がそうさせたのだ。


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