シンプル戦隊マンマブルーの悲劇
知様主催企画『ビタミンカラー祭』投稿作品です。
小説でビタミンカラーをどう表現しようかとあれこれ考えていたら、戦隊ものに繋がってしまった特撮脳……。
広い心でお読みください。
『シンプル戦隊マンマジャー』。
とあるご町内を守る暇……、正義を愛する者達の集まり。
マンマレッドをリーダーに、マンマブルー、マンマブラック、マンマグリーン、マンマイエロー、追加加入のマンマゴールドを加えた六人で活動している。
町内の悪を滅ぼすべく、町内の清掃奉仕や火の用心、迷い猫の捜索、公園やコンビニでたむろする若者達への声かけなどを日々行っていた。
地味……、地道な活動は町内からもそれなりに感謝され、大きな賞賛はないがやりがいのある活動。
それが大きく揺らぐ事件が起きた。
「どういう事だよ!」
「……」
マンマブルーの言葉に、一同は下を向いて黙ってしまった。
「何だよ『ビタミン戦隊ビタレンジャー』って! 俺達はマンマジャーだろ!?」
「……」
「ずっとこの町内で愛されてきたじゃないか! 何で今更町から出て都会に出るなんて言うんだよ! なぁリーダー!」
言われたリーダーはビクッと震える。
「あんたはマンマレッドで、リーダーで、それを誇りに思ってたんだろ!?」
「……あぁ……」
「じゃあ何だよその衣装!」
「……」
オレンジ色の戦隊スーツに身を包んだリーダーは、肩身を狭めた。
「リーダーは赤だろ!? 何だよオレンジって!」
「……いや、その、ビタミンカラーだから……」
「何だよビタミンカラーって!」
「ビタミンを連想させる、果物のイメージを含む色で、人を元気にする効果が」
「ビタミンカラーの説明を聞きたいんじゃなくて、ビタミンカラーに屈した情けなさをなじってるんだよ! リーダーが赤じゃない戦隊なんて聞いた事ないよ!」
「ぶ、ブルー、ちょっと落ち着けよ……」
「落ち着いていられませんよ! あなたもあなただブラックさん!」
矛先を変えるブルー。
「ブラックは戦隊の中でもちょっと別格で! 他のメンバーが間違った方向に行こうとする時に押しとどめる役でしょ!? 何グリーンと被ってるんですか!」
「……」
俯くマンマブラックの衣装は、暗い灰緑色を基調としたものに変わっていた。
「……いや、被ってはいない……。これはエバーグリーンだ……」
「被ってるでしょ! グリーンって言ってますよね!?」
「そ、それはそうだが、色は全然違う。エバーグリーンは常磐色とも言い、ビタミンは日々摂取しなければいけないという事を表していて」
「ちびっ子がそんなややこしい設定理解できると思います!? グリーンが洗濯失敗した衣装着させられてると思いますよ普通!」
「まぁまぁそういきり立たないでくださいよブルーさん」
割って入ったグリーンに、ブルーの怒りが炸裂する。
「何だそのドヤ顔! ちょいちょい本家様ではハブられる色のくせして、メインカラーになった途端に調子に乗りやがって!」
「時代が僕に追いついたんですよ」
「直近二作品(※2022年時点)で登場なくて、よくその強気を維持できるな! 逆に凄いわ!」
「どうしたんですかブルーさん? いつもはクールで落ち着いていて物静かで知的で口数少なくてクールでシャープで冷静で無口な印象なのに……」
イエローの言葉にブルーはさらにヒートアップした。
「暗に黙れって言うな紅一点! いや黄一点?」
「真っ向から言った方がいいですか? うるさいんで黙ってください」
「さすがはレモンカラー! 苦酸っぱさが桁違いだぜ! お前だろ! 製薬会社に俺達を売ったのは!」
「お、おい、それは言い過ぎだろ……」
イエローをかばおうとする男に、ブルーは猛然と食ってかかる。
「ゴールドさん! 戦隊の中でも別格の金色のあなたが、何で山吹色にグレードダウンしてるんですか! そこの黄色に何吹き込まれたんですか!」
「……その、ゴールドは見つめ合うには眩しすぎるから、山吹色が良いって……」
「何ハニートラップに首まで浸かってるんですか! 色的にマッチしちゃってるのもまた腹立つ!」
ツッコみ続けて肩で息をするブルーに、オレンジとなったリーダーが恐る恐る声をかけた。
「……なぁ、ブルー……」
「……何ですか……」
「俺達は何のために戦う……?」
リーダーの言葉に、ブルーの顔に冷静さが戻る。
「……地域から広がる世界の平和、そして子ども達の笑顔……」
「そうだ。俺達はそのために戦うんだ。そのためなら、戦う場所も戦う相手も選ぶ必要はない、そうだろう?」
「……」
俯くブルーの肩に、リーダーはそっと手を置く。
「正直築五十年の1Kアパートの無償提供と、商店街の廃棄前食品の無償提供と、町内会費から出される月一万のお手当じゃ、妻と子どもに対して肩身が狭いんだ」
「あんたのご家庭の平和とパパの笑顔のために、信念投げ捨てる気はないんですけど!?」
「手取り五十万……」
「っ」
エバーグリーンとなったブラックの言葉に、動きを止めるブルー。
「保井寸製薬からは月額それだけの額を提示されている……」
「月五十万……」
言葉を失うブルーに、グリーンがにやにやと擦り寄る。
「社保完備、ボーナスは歩合制ですが年二回支給、格安の職員住宅もありますよ?」
「……そ、そんな誘惑に負けるとでも……」
さらにイエローも猫撫で声をブルーの耳に流し込んだ。
「会社の宣伝に著しく貢献したら、ソロデビューもありだそうですよ? そうしたらモテモテですね?」
「……ふぐっ……。そ、そんなもの目当てにヒーローしているわけじゃ……」
山吹色となったゴールドが、その肩に手を置く。
「この町は俺達の努力の成果で、居場所が見つけられなかった若者達が清掃奉仕や夜回りなどを手伝うようになった。俺達の役目は達成されたんだ」
「ゴールドさん……!」
「……それと、町内会費で養うのにも限界があると言われていてな……」
「……悲しいですね……」
しばらく俯いた後、ブルーは顔を上げた。
その顔にはヒーローらしい前向きさと強さが宿っていた。
「わかりました! 俺も一緒にやらせてください! ビタミン戦隊ビタレンジャー!」
「ありがとうブルー!」
「お前ならきっとわかってくれると思っていた……!」
「これからもよろしくお願いしますよ、先輩」
「うふふ、やったわね、ダーリン」
「そうだなハニー」
笑顔と笑い声が溢れる中、ブルーが一つ疑問を口にした。
「そういえば俺は何色を担当するんですか? 青はビタミンカラーじゃないですよね」
「あぁ、君はビタミンB群の担当だから……」
リーダーがにっこりと微笑んだ。
「豚肉のイメージカラーでピンクだ!」
「ピッ……!? それ女性カラーじゃないか!」
するとエバーグリーンが静かに首を振る。
「ジェンダーにこだわるのは前時代的だぞ」
「え、あ、まぁそうですけど……」
戸惑うブルーにグリーンが親指を立てる。
「最近はピンクを男性が担当する戦隊もいますし、問題ないですよ!」
「そ、そっかぁ……?」
イエローもさらに畳み掛ける。
「お笑い芸人の三人日日だってピンクがイメージカラーだし、全然変じゃないって!」
「あ、あぁ、言われてみれば……」
最後にヤマブキが、ブルーの背中を強く叩いた。
「お前が何色であろうと、お前の信じる最高のヒーローを目指せば良い! そうだろう?」
「……はい!」
こうして誕生した『ビタミン戦隊ビタレンジャー』。
頑張れビタレンジャー!
負けるなビタレンジャー!
現代社会に巣食う不摂生やストレスからなる現代人の健康を守るのだ!
読了ありがとうございます。
ちなみにビタレンジャーの名乗りですが、
「ビタミンAはエースのA! ビタAオレンジ!」
「ビタミンBは豚肉のB……。ビタBピンク……」
「ビタミンCはキュートのC! ビタCイエロー!」
「ビタミンDはダイエットのD! ビタDヤマブキ!」
「ビタミンEは栄養のE! ビタEグリーン!」
「ビタミンKは健康のK! ビタKエバーグリーン!」
『六人揃って! ビタミン戦隊! ビタレンジャー!』
てな感じです。
毎回ピンクは目が死んでいます。
勢いばかりの作品で申し訳ありませんが、ちょっとでも元気が出たなら幸いです。
知様、企画に参加させていただき、ありがとうございます!