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江は碧にして鳥は愈々白く





彼の周りにはいつも綺麗な子が居る。

お洒落で素敵でかっこよくて、バスケが凄く上手で、前に試合を見に行った時に一番輝いて見えてまるで・・・王子様のように見えた。

そう一言で言えばモテる。

去年のバレンタインも貰ったチョコの数は3桁いったという噂。

勿論このあたしも彼にチョコを渡したかったけど・・・・・・。

取り巻きの女の子のオーラが半端ではなくタイミングが掴めず終了。

第一あたしなんて相手にしてもらえるはずもないんだけどね。



あたしは彼の周りに居るような綺麗な女の子とは違って、地味で話も上手じゃないしスタイルが良いわけでもない。

元々体が丈夫じゃなく、運動したりする程活発じゃないから青白くて不健康的。

彼や彼の周りにいる人とは正反対で、話しかけるのなんて持っての外、遠くから見てる事でさえいけない事のように思う。

そんな彼との唯一の接点は同じ講義を受けているという事だけ。

その講義の時だけは何気なく彼の側の席に座って、時々こっそりと見つめたりしてしまう。



ああ、このまま時間が止まっちゃえばいいのにな・・・・・・。

ちょうど横顔が覗き見出来そうな斜め後ろに席をとって、講義よりも彼の観察についつい熱が入る。

居眠りでもしてるのかな?

日に透ける茶色い髪の毛がふわふわ揺れている。

最近緩くパーマをかけたみたいで以前よりも更に王子様みたいにかっこよくなった。

元々近寄れないのが尚更遠くなっちゃって、一体どうしたら彼の視界に入ることが出来るんだろう。



───運命的な出来事とか起こらないかなぁ。───



まっあるわけないけど。




そんな事考えてるとあっという間に講義は終了。

幸せな時間ってほんっと短いなぁ。

溜息を吐きながらノートやらテキストやらをしまって居ると、彼の取り巻きらしき女の子達がやってきてまだ居眠り中の彼を起こしてる。




「貴志〜。起きてよ〜!講義終わっちゃってるからぁ。」



いいなぁ・・・・・・。

藍沢くんの事、貴志くんとか呼んでみたい。

その前に苗字ですら呼んだ事ないけどさ・・・・・・。

あたしもこの子達みたいにお洒落で可愛かったら、彼と知り合いくらいにはなれたのかなぁ。



心の中でまた一つ溜息を吐きながらあたしは席を立った。















何日かして、また彼と同じ講義の日がやってきた。

今日は生憎の雨だけど浮かれた気分で教室に入る。



・・・と、あれ?


今日は藍沢くんまだ来てないや。

くるりと周りを見回してみるけどやっぱり見つからない。

大体この辺だよね、いつも。

彼が8割がた座っている後ろの方の窓際の席に着く。



はぁ、それにしても雨、やだなぁ。

季節的にもう雪が降ってもいいのに。

あたしが頬杖をつきながら窓の方を見ていると、一つ隣くらいで人の座る気配がした。

何気なくそちらに目を遣ると・・・・・・。



あ、あ、あ、藍沢くん!


何で横に?!

ちょうど彼の斜め後ろになるように座ったのに何てラッキーなの!

でもでも、横だと嬉しい反面、逆に観察しにくいかも・・・・・・。

あたしは高鳴る胸を押さえながらテキストに目を落とした。

勿論集中なんて出来るはずもなく、意識は常に右半身にいってしまってる。




10分くらいして藍沢くんが豪快に欠伸をした。

いつも王子様みたいな彼が何か子供みたいに可愛く見えて、思わず顔が緩んでしまう。




「ちょっと、人の顔見て笑うなんて失礼だね。」



え?まさか見られてた?

声は出てないと思ったけど・・・・・・。



「あ・・あの・・・、ごめんなさい。」



どうしよう、やっぱり斜め後ろが良かった。

藍沢くんと初めて話するのに超最悪な印象だよ・・・・・・。

あたしはもう消えたい気分で首を項垂れた。



「なんつって、うそうそ。本気にしないでよ〜。」



さっきより少し明るい声色の藍沢くんが、ごめんごめん。なんて手を合わせる。


「今日は特等席取られちゃったからちょっと意地悪したんだよねーって。」


「え?特等席?」


まさか・・・藍沢くんが隣に座ったのって・・・・・・。



「そこ、いつも俺が座ってた席なんですー。」



うわ・・・最悪。

一列間違うとかしくじった・・・・・・。



「本当に重ね重ねすみません。」



もうあたしはまっすぐに彼を見れなかった、いや元々正面から見る勇気もないけど。

欠伸してるの笑うし、席は取るし、第一印象最低最悪だ。

おまけに大嫌いな雨だしさ。




「そんなさぁ、泣きそうな顔しないでよ。マジで冗談だからね?ね?」



藍沢くんがそう言ってあたしの顔を覗き込むから、引いた血が一気に顔に集中してきた。

もう駄目、恥ずかしすぎる。




「ねね、この講義暇じゃない?」


「え・・・あ・・・はい・・・。」


「じゃちょっとお話しない?そんな暗い顔しないでさ。笑って笑ってー。」


ちらりと藍沢くんを見てみると、手を横に広げて軽くおどけたポーズを取ったので思わずくすりと笑ってしまった。



「やっと笑った。もう〜マジでびびったよ、泣きそうになっちゃってるからさぁ。」


そう言ってくしゃっと笑った藍沢くんはやっぱり王子様みたいで、どきんと高鳴る胸はもう自分のものじゃないみたいに煩く感じる。



「俺ね藍沢貴志。キミは名前なんていうの?」


「あたしは板橋・・・芽衣です・・・。」


「芽衣ちゃんね、うんうん。てかさぁ今日雨だし何かダルいよねー。俺癖っ毛だから雨あんま好きじゃないんだよね。」


「あたしも雨は好きじゃないです。忘れ物よくするので傘もすぐどっかに忘れちゃうし・・・・・・。」


「あーまさかのドジっ子ですか。」


藍沢くんは癖っ毛らしいふわふわの茶色掛かった髪を、くしゃくしゃっと触りながらイタズラっぽく笑う。


「まぁ・・・そそっかしいんですよね・・・。」


もう・・・その笑顔反則すぎ・・・・・・。

10秒その顔見てたら心臓がどうにかなりそう。



「ドジっ子可愛いじゃんー。ちょっと抜けてる子とか守ってあげたくなっちゃうよねー。」



顔が紅潮していくのが自分でもわかる。

ただでさえ男の子とあまり話した事ないのに、相手が藍沢くんともなると10倍・・・いや100倍緊張してしまう。





「芽衣ちゃんって反応が面白いねー。からかい甲斐があるっていうかなんか小動物みたい。」


藍沢くんは小声でひゃははと笑う。

と、いうか、さっきから芽衣ちゃん芽衣ちゃんて。

名前を呼ばれる事がこんなにも幸せを感じる事だったなんて・・・・・・。

こんな事になるならもっとお洒落しとくんだった。

メイクもしてみれば良かったなぁ。


これからはちょっとお洒落とか気合入れないと駄目かな・・・。

まぁこれが最初で最後かもしれないけど。







講義中あたしと藍沢くんは他愛もない会話をして幸せな短いひと時はあっという間に終わりを迎えた。




「あー楽しかった。芽衣ちゃん話付き合ってくれてありがとねっ。また良かったらお話しよ?俺大体いつもこの席だから。」



「とんでもない・・・!あたしなんて大して面白い話出来なくてごめんなさい。こんなんでも良ければお話してください。」


藍沢くんのきらきらした笑顔にときめきながら、あたしは勇気を出してお願いしてみた。

また、がある事を期待して・・・・・・。





「たーかーしぃ!」


あ・・・いつもの取り巻きの女の子達だ。


「ちょっと貴志が起きてるとか超レアじゃない?」


「ねぇ、貴志この子誰?」


ああ、視線が怖い。

あたしなんてただの通行人A的な存在ですから。

ここはさっさと退散してしまおう。



「あの・・・ではあたしはこれで失礼します。」



あたしは急いでテキストとかをバッグに詰め込んで、取り巻きの彼女達の横を通り抜けようとした。





「芽衣ちゃん。またね。」





背中から藍沢くんの優しい声が飛んできた。


取り巻きの視線に耐えれそうもなく、僅かに振り向いてぺこっとおじぎだけしてあたしは早足で教室を出て行く。



「はぁ?なんなのあの子。」


「なーんか地味っていうかぁ、暗いよね。」


・・・・・・聞こえるように言ってるけど気にしない気にしない。

そんなのも気になんないくらい、今日はラッキー。



その日の帰り道はスキップしちゃったほど足取りは軽やかだった。









「隣、いいですか?」




「はい。どうぞ。」



駄目なんて言わない事わかってるはずなのに、毎回聞いてくる藍沢くんが可笑しくて吹き出してしまう。




初めて藍沢くんと話が出来たあの日からひと月程過ぎようとしていた。

最初は最低最悪かと思えたあの出来事を境にして、ずっと憧れていた藍沢くんとの距離は少し縮まった気がする。

心はともかく、座る場所が前後から隣に変わったんだから、今まで男の子と付き合った事はおろかまともに話さえした事ないあたしにしたら、もうそれは人生の中の年表に書き加えてもいいくらい大きな変化だから。

一ヶ月経った今でもまだ夢のようで。

あんなに遠くて雲の上の人だった憧れの彼と、言葉を交わせるなんて!

それも隣同士の席で。

しかも名前にちゃん付けで呼ばれるなんて!





「芽衣ちゃんさ、よく笑うようになったよね。最近いい事でもあった?」



隣にすわりながらまさかその原因が自分とは露ほども知らない藍沢くんが聞いてくる。

それはあなたのお陰ですよ、なんて言えないけど、もしそうだと知ったらどんな顔するだろう。

藍沢くんモテるから、別に驚いたりしないかな。

それともあたしみたいに冴えない子に想われるなんて、迷惑に感じてしまうかな。

大体は後者だけどでも、藍沢くんは優しいし偏見とかあまりなさそうだからやんわりと受け止めてくれそう。

そんな事考えながらあたしは、ちょっとねーなんて笑って誤魔化した。

ふと彼の目線の先を見ると漢詩傑作集なる本を開いている。



「藍沢くんそれ漢詩?」


「ん?そうそう。俺も意味とかあんまわかんないんだけどね、漢詩とか古文とかそういうの読むと悩んでるのがあほらしく思えてくるんだよね。あー俺なんでこんなちっちゃい事で落ち込んでんだろーとかさ。」


いつもとはちょっと違う優しい笑顔で藍沢くんは、どこか遠くの方を見るような目をした。



「藍沢くん・・・悩み事とかあるの・・・?」


あたしが恐る恐る尋ねるとすぐに無邪気ないつもの彼の笑顔が戻った。


「ええ〜ちょっとちょっと。馬鹿にだって馬鹿なりの悩みくらいあるんだよっ。」


「え・・・違うよ!そんなつもりじゃなくて・・・その。藍沢くんて何でも出来てほら、バスケだって上手だし友達もいっぱい居て人気者だし・・・・・・モテるしさ・・・。」


「何でもなんて出来ないよー。大学ここだって超奇跡で受かったみたいなもんだしね。まぁ友達は多いかもしれないけど、悩みを打ち明けたり出来るヤツとかは居ないんだよね。」


広く浅くなんだよ、俺の事なんてみんな興味本位で付き合ってるんだよ。なんて言って力無く細めた目を伏せる藍沢くんは、今日はやっぱり何かいつもとは違って元気がないみたい。




「あのっ・・・!あたしで良かったら、悩みとか何でも言ってね!」




考え無しに思わず出た言葉に彼は意表を衝かれたような顔をして、2〜3秒程固まってからありがとね。と破顔した。

ちょっとでしゃばった事言ったかなって後悔したけど、彼の笑顔が見れてどきどきと嬉しさの方が大きかった。



「そだ。芽衣ちゃんメアド教えてよ。悩み相談とかさせて貰いたいし。」


「え?あたし?」


うそ・・・・・・。

藍沢くんがあたしなんかのメアド聞いてくれるなんて・・・。



「あ・・・ごめん。迷惑だったらちゃんと断ってね。俺馬鹿だから社交辞令とか気付かないし。」



「迷惑なんてとんでもない!是非教えてください。あたしも・・・藍沢くんのメアド知りたいから・・・。」


顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったけど、勇気を振り絞るのも大事なんだって最近覚えたんだ。

憧れの藍沢くんがこんなあたしにも勇気を出せるって、そう教えてくれた気がするから。


あたしが答えると藍沢くんは微笑んで、鞄から何かを取り出そうとする。




「・・・・・・あれ・・・・・・?やば、俺携帯忘れちった・・・。マジかよー・・・自分のアドレスとか覚えてないわ。」


少し焦った様子で髪の毛をぐしゃぐしゃと触る彼を見て、あたしは心の中で大きく落胆の溜息を吐いた。

さすがに自分のメアド書いて渡して、じゃあ家に帰ったらメール下さいとか言えるはずないし、もしかしたらやっぱりこいつにメアドとか教えたくないなーなんて思われてて、でも今更断り辛いから携帯忘れたフリとか・・・・・・。

いやいや!彼はきっとそんな事しないよね。

でもなぁ・・・そもそもあたしなんかと彼がメールなんて有り得ないもんね・・・。

自問自答を繰り返して黙り込んでいると、思いもよらない言葉を掛けられた。



「今日ってこの講義が最終だよね?この後用事ある?」



「え?えっと何もないよ。家に帰る・・・だけ・・・。」



「じゃあさじゃあさ、帰り飯でも一緒にどう?あ!勿論迷惑じゃなかったら。」



えーーーー!

何この展開!

一緒にご飯?藍沢くんと?普通有り得ないでしょ?!

迷惑なんて、もっと有り得ない!

幸せ過ぎてもうおかしくなりそう。

神様ありがとう!

お母さん産んでくれてありがとう!



「ごめん・・・何俺調子に乗ってんだろ・・・急に飯とか誘ったりして。」


「ぜっ全然!ちょっと嬉しくてびっくりしちゃって・・・・・・。」


「ほんとに?」


「うん、ほんとに。」


「ほんとにほんと?」


「絶対!」


何度も確認する藍沢くんにあたしは力強く首を縦に振ると、彼はくしゃっと子供っぽく笑って小さくガッツポーズを取った。



「良かったぁ。何か俺一人で勝手に芽衣ちゃんの事友達だと勘違いしてたのかと思って、マジ恥ずかしくなっちゃった。何かね、芽衣ちゃんと話してると不思議な感じがするっていうか、理解?してもらってるみたいなね。俺の事解ってくれそうな感じがするんだよね。」


「そんな・・・あたしも藍沢くんの事友達と思ってたよ。同じように友達だと思ってて貰ってて良かった・・・。でもあたしなんかと一緒にいるとこ他の人が見たら、変っていうか・・・その釣りあわないっていうか・・・。」


「そんな事ないって。俺ら友達でしょ?」


「そうだけど・・・でも・・・」



あの取り巻きの女の子とかが知ったら何か怖そうだしなぁ・・・・・・。

藍沢くんと一緒にご飯とか超幸せだけど、知ってる人が見たら彼に逆に迷惑かかっちゃいそうだし。

だってあたしはダサいし冴えないし、同じ空間に居る事が奇跡みたいなもんなのに・・・。



「よし!じゃあさそんなに人目が気になるならウチ来る?数々の無礼のお詫びといっちゃなんだけど、俺が手料理を御馳走しちゃう!とか・・・また調子乗りすぎ?」



「ウチって・・・藍沢くんの?あたしなんかが入っていいの・・・?」


「あたしなんかとか言わないの!俺は全然オッケーだよ。」


あ、あ、あ、藍沢くんの家!

断るなんて勿体無い!

こんなチャンスもう人生で二度と来ないかもしれないんだもん。






「喜んでお邪魔します!」




あたしは迷うことなく返事をした。

















───「さ!上がって上がってー。」



「お邪魔します!」


遂に来ました!藍沢くんの家。

あの憧れの彼の家だよ?

ついひと月前までは話すらした事もない、ただ遠巻きに見つめる事しか出来なかった学内のアイドルと言っても過言ではない彼の。

運命的な出来事、まさにここひと月がそうだ。

そしてこの信じられない急展開に、5分おきくらいに頬を抓る手を止める事が出来ない。



それにしても。

実家みたいだけど大きな家だなぁ。

まさかのお金持ちとか?

かっこ良くて運動出来てモテモテで人気者でお金持ちでって・・・本物の王子様だ。



通された部屋のソファに座り出された紅茶を飲みながら、きょろきょろと感動の目を方々に向けていたあたしに藍沢くんが面白いものを見るような顔で声を掛ける。



「さっきから落ち着きないなぁ。やっぱり小動物みたいだねっ。」


「いやあの、こんな凄いお家だとは思わなくて・・・。ちょっとびっくり。」


「そかそか。てかね、親に紹介しようかなって思ったんだけど二人とも食事かどっか出かけてるみたい。」


「ご、ご、ごご両親に紹介って。とんでもない!」


「うろたえすぎ!そりゃまぁ、女の子連れてきたの初めてだし紹介くらいするでしょ。」


「初めてなの・・・?」


「うん、そんな誰でもかれでも家に呼ばないよ。好きじゃない子とか・・・家に連れてこないでしょ?」


え?それってどういう意味?

まさかのまさか?



「だから!芽衣ちゃんを家に連れて来たんだよ。」


藍沢くんが少し目を泳がせてそっぽを向いてる・・・。

その反応って期待大の展開?

どうしようどうしよう。



「やっぱ迷惑かな・・・・・・。」


「そんな事ない!むしろ・・・」


言って大丈夫かな・・・。

勇気出してみてもいいのかな・・・。


「むしろ?」



「嬉しい・・・。その友達になれただけでももう・・・幸せ過ぎて・・・もう死んでもいいくらい・・・。」


「マジでそう思ってる?」


藍沢くんが少し真剣な面持ちで近づいてくる。


「うん、思ってるよ。だって・・・あたし・・・藍沢くんの事好き・・・だったから・・・・・・。」


言っちゃった・・・・・・

恥ずかしくてもう死んじゃいたい!


「それ、ほんと?」


「うん・・・ほんと。」


「ほんとに俺の事好きなの?」


「・・・凄く好きです。」


「どんくらい?」


あたしは伏せていた目線を上げて藍沢くんの顔を見た。


「藍沢くんの為ならなんでも出来ちゃうくらい!」



「それって・・・・・・俺の為なら死ねるって事?」


「うん、藍沢くんの為なら死ねそうなくらい好き。」


真っ直ぐに目を見てあたしが答えると、彼は零れそうな程の満面の笑みを浮かべた。


その極上とも言える笑顔に胸は高鳴ると同時に、何とも言えない眩暈を覚えて足元がふら付く。

何これ・・・・・・。

熱があるみたいに体が言う事を聞かない。



「あいざ・・わ・・・くん・・・」


「ねぇ、悩み事聞いてくれるって言ったよねー?俺さ漢詩で解らない文あんだけど、例えが思いつかなくて悩んでるんだよね。」


「な・・・んか・・・めま・・い・・・・・するん・・だけど」


「ここのさ“江は碧にして鳥は愈々白く”ってとこなんだけどー。解説に書いてる説明だとイマイチ想像出来なくってね。」


藍沢くんは倒れこんで不意の眩暈に喘ぐあたしを無視して話を続ける。



「それでね・・・っておい。人の話聞いてんのかよ。」


急に声色と口調が変わった彼が、完全に床に伏せたあたしを足蹴にした。



「まぁいいや。てかお前俺の為なら死ねるんだよな?付き合ってやるから死ねよ。」


なに・・・?

耳に入ってくるこの声は誰の物なの?

あたしの体に乗せてる足は誰の物?

ねぇ、あなた誰?

あたしは力の入らない手で、自分の体を踏みつけてる足に触れた。



「あい・・・ざ・・わく・・」


「と、言うわけで大好きな俺の為に死んでくれよな。」




ね?と言って笑った彼はやっぱり恐ろしいほど美しい。


そっか、幸せすぎたからどんでん返しがきたんだね。

おかしいと思ったの。

彼があたしなんて相手にするはずないって。



でも後悔してないよ。


あなたの為に死ねるなんて幸せすぎて。

もう死に・・・・・・。































「あー。なるほどこういう事か!真っ白な肌に真っ赤な鮮血って凄いコントラスト!美しいね!漢詩って素晴らしいな!やっと意味がわかった。」




俺は足元に転がってる白と赤のソレを脚で弄びながら、最近はまっている漢詩の本のページを捲っていった。




「あれ?これもよくわかんないや。うーんコレはもう使い物になんないし、また獲物見つけるかー。・・・・・・あー腹減った。」






















              了

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[一言] 面白かったです! 地味な女の子が都合よくイケメンといい感じになるとは思ってませんでしたが、まさかここまでするとは!という感じでした!笑 恋は盲目ですね。
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