第5話〜日常の裏側。当たり前なんてものは自分の中にしか存在しない
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一晩経った。
緊張しながら登校してみたけれど、何かが変わったということはなかった。
当然のことだけど、一個人の衝撃的な出来事なんて、その他大勢には影響なんてない。
世界は僕を中心になんてまわってないんだから当然だよね。
特に僕はただのモブAなんだから。
烏滸がましくも僕こそが主人公!なんて自惚れたりなんかしない。
昨日の事件は、まるで起こらなかったように何もなかった。
ニュースにもなってなかったし、それらしい噂も聞かない。
登校の時にあの路地裏をのぞいてみたけれど、血の跡はおろか人がいた痕跡すら見当たらなかった。
雨が洗い流したにしては、現場はあまりにも綺麗すぎた。
いたって普通の路地裏で、いたって自然な散らかり具合だった。
まぁ元の状態なんて見てないし、見ていたとしても覚えてなんていないだろうけれど。
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久しぶりに雨は降ってない
彼はいつの間にか登校してきていて、いつもみたいに目が合うこともなかった。
昨日のことは夢か何かだったんじゃないかって思うほど、いつも通り。
だけど、脳裏に焼き付いた血塗れの彼も、僕の中に入ってきたあの刃の冷たさも、焼けるような痛みも覚えている。
着替えた時に見た肌には傷一つなかったけれど、間違いなく本当の出来事だった。
やきもきしているうちに昼休みになって、ようやく放課後になった。
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第3美術室。
そこは学校の敷地の中でも特に奥まった方にある、普段は使われていない方の美術室だ。
なんで美術室が3つもあるんだろうって疑問は、その存在を知った人のほとんどが抱くだろうね。
でも校内の案内図をよく見れば分かるんだけど、なんとこの学園には美術室だけでも五つ、つまり第五美術室まであるんだ。
実は僕らの通う稲穂学園は初等部から大学院まで、その全てが同じ敷地内にある。
初等部、中等部、高等部、大学、大学院、専門でそれぞれに教室があるから、音楽室とか体育館も全てそれぞれの分がある。
しかも工芸室とか、合唱室とか、トレーニングルームとか、細かく上げ始めたらきりがないくらい。
だから敷地面積がとんでもなく広い。
毎年新入生が迷子になったり移動教室で遅れるのは風物詩みたいなものらしい。
学生手帳に載ってる校則には、移動の際走るのを許可するって書いてあるくらいだから相当だよね。
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それで、第3美術室だけど。
正直美術って普段あまり授業とかないよね?
あっても週に一回か二回。
改築とか増築とかの関係かは分からないけど、高等部の校舎から第3美術室のある校舎は少しだけ離れた場所にある。
だからなのか、普段は隣接する中等部の美術室、第2美術室を使ってるんだ。
だから第3美術室の周りに人気はない。
改めて考えると、僕らの通う稲穂学園ってすごいところだね。
なんでも国が主体に土地開発を行って建てた研究目的の学園都市らしいけど。
なんて現実逃避に色々考え過ぎかな。
「……よし」
僕は小さく気合を入れて、美術室の扉をノックした。