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第3話〜言葉じゃなくて心で理解した。きっと初恋っていうのはこれを指すんだ

綺麗だと思った。


水溜まりを侵すように広がる血溜まりも。


今まさに全身から流れ出す血液も。


何より返り血に染められた、彼自身。


真っ白なキャンパスに鉛筆で描かれた緻密な絵に、澄んだ紅を差したよう。


ガラス玉のように澄み切った瞳、儚い気配、矛盾するように纏う妖艶さ。


これほどまでに綺麗な、いや、美しいものを僕は知らない。


これまでの人生で、これほど心を揺さぶられたことはなかった。


さっきまで少し不快だった雨も、もう気にならなかった。


いや、彼を彩る紅を少しずつ洗い流そうとするから、惜しかった。


彼を彩る色彩を滲ませて、洗い流してしまうのが、勿体なかった。


彼は、紅がよく似合う…。


僕が、傘にならないと。


彼の彩りを洗い流させてはならない。


誘蛾灯に誘われる虫みたいに、僕は無意識に一歩踏み出していた。


ーーートスッ


そして、気付けば僕の胸には深々と、一本のナイフが突き刺さっていた。


高鳴る鼓動が強制的に抑え込まれ、停められた。


いや、文字通り心臓を射止められた。


体内に生じた冷たい感触。


それはすぐに熱を持って、灼熱へと変わる。


急速に色を失う世界。


いつの間にか雨に濡れた地面に倒れ込んでいた。


けれど最後まで、最初から色のなかった君自身の姿だけははっきりと網膜に焼き付いていた。


灼熱は今度は急速に熱を失い、身体にまるで力が入らなくなる。


どこかゆったりと流れる時の中、最後の力を振り絞って君を見る。


君を彩る紅は色を失っても、色のない君は変わらずに…


「ああ……本当に……」


綺麗だ…


暗転。


その日、僕は死んだ。


…………。


はずだった。


「……おはよう」


ーーードクン……ドクン……


気が付けば、僕の心臓はいつも通りに鼓動を繰り返し、何事もなかったかのように息もできていた。


そして目の前には彼が、いた。


「気分は、どう?」


「えっと…」


すぐ目の前に、彼がいる。


まるで口付けを交わそうとする恋人のような距離感で。


何も映していないような透き通った瞳に、ポカンと間抜けな表情を浮かべた僕が映っている。


座り込んだ僕と、片膝をついて見下ろす彼。


さらりと垂れた彼の前髪が、僕の頬をくすぐる。


寝起きよりも大きく、心臓が跳ねた。


自分でも分かるくらいに、赤面していく。


なぜか喉が渇くような、そんな不思議な感じがした。


「……熱、あるの?」


彼のひんやりとした手のひらが僕の額に乗せられる。


なんだこれ。


顔に、どんどん血液が集まってくる。


どんどん喉が渇いて、どうしようもなく、彼が欲しくなっていた。


僕は、彼に恋をしていた。


初恋だった。

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