意気投合した二人
「じゃあ、最後に、各自方程式のレポートをまとめておくように。次回提出だからな」
「はーい」
一時間目の数学で、最後に最悪の宣言をされて不機嫌な皆をよそに、前の席の秀才二人は、もうレポートに手を付けています。
「二人とも速いですねー。どうしたら、数学が得意になれるんですか?」
秋華ちゃんは、この男と一緒にされるのは気に食わないけれど、と一拍置き、腕を組んで真剣に考えてくれました。
「私は、ひたすら問題を解いているわ。これが絵那に合うかは分からないけれど、やってみてはどうかしら?」
「結構地道なんですねー」
「ええ、私は元々頭が悪かったからね。必死で勉強したわ」
秋華ちゃんが幼い頃から勉強ばかりしていたのは知っていましたが、頭が悪かったからとは知らず、思わずへぇーと口に出てしまいました。
「そんなに意外なのか? 秋華見てたら分かるだろ」
夏貴君が不思議そうに聴いてきました。――しかし、レポートにシャーペンを走らせながら。
「沢山勉強しているのは知っていましたが、頭が悪かったからとは知らなくて」
「私はそんなに頭が良いと思われていたのかしら?」
「当たり前じゃないですかー! 貴方はこの学園の学力二位なんですよ! そう思うに決まってるじゃないですか!」
秋華ちゃんまでもがそのような事を言ったので、少し声を尖らせてしまいました。しかし、秋華ちゃんは私のその態度を気に留めず、朗らかに笑いました。
「あら、偏見はいけないわよ」
「偏見してしまった事については謝罪します。ごめんなさい。でも、秋華ちゃんが頭が悪いのだったら私はどうなるんですか?」
秋華ちゃんは困ったように笑いました。
「大丈夫よ、別に謝らせたい訳ではないから。それに、絵那。それでは貴方が頭が悪いと聞こえてしまうわよ?」
「そう聞こえるように言いましたから」
「貴方、自分のスペック分かっていないでしょ? この学園に入学している時点で、学力は高い方なのよ」
秋華ちゃんの言葉に、私は目を見開きました。
「どうかしたの?」
秋華ちゃんが怪訝そうに聴いてきました。
「いえ、自分ではそんな事全然思いませんし、そんな事初めて言われましたから」
そう答えると、秋華ちゃんは今度は眉をひそめ心配そうに聴いてきました。
「絵那、ご両親に何か言われているの?」
「違いますよ! 逆にそういうのを気にしない人達なので」
「なら良かったわ」
秋華ちゃんはほっとしたようで、柔らかく微笑みました。
「とにかく、貴方は頭は良いの! 謙遜しなくていいんだから」
すると、今まで黙ってレポートをまとめていた夏貴君が話に乗ってきました。
「そうだな。この学園が学力を優先して入学させているのは、篠口も知っているだろ? だから、その学力は本物だぞ」
夏貴君が話に入ってきた事に、秋華ちゃんは憤慨する事も無く、夏貴君の意見に賛成しました。
「そうよ、だから自信を持ちなさい!」
夏貴君もこちらを振り向き、頷いて秋華ちゃんの言葉を肯定しました。
美男と美女に微笑まれそのような事を言われたら、ぽーっと見惚れるのが普通なのでしょうが、その顔を見慣れており、とある事情を知っている私からしたら驚きしかありません。
しかし、二人が一緒になって私を褒めてくれた事が嬉しくて微笑ましくて、私は二人に笑い返しました。
「はい、ありがとうございます!」
――ただ、こんな短時間で意気投合できるのなら、早く仲直りしてほしいと心の隅で思ったのでした。
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