お騒がせな二人
小説投稿初めてです!
「お嬢様、もうすぐで学校へ向かわれるお時間でございますよ」
「はーい」
「お忘れ物はございませんか?」
「大丈夫です! あの、今日は帰りが遅くなるとお母様に伝えてください。あと、今夜はディナーは要りません」
「かしこまりました」
「では、行ってきます!」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「――ん~、眩しいな」
どうも、初めまして! 篠口絵那と申します。私は日本有数の私立中学校「私立神東学園」の一年生なのです。
神東学園は、日本トップクラスの学力を誇り、名家の御曹司、令嬢でないと入学できないのです。また、これまでに偉大な政治家や官僚、弁護士などを輩出している由緒正しい学校です。
その入学試験は、競争率も難易度も高く、はっきり言ってそこら辺の金持ちやただの金持ちでは絶対に受かりません。
一握りの者だけが通う事の出来る国民の憧れの学校なのです。
その校舎はさすが御曹司、令嬢が通う学校というだけあって、教会のような綺麗な装飾が至る所に施されており、また、庭園は毎日四季折々の花が咲き乱れ、緑で溢れている素敵な所です。
だから、この学校は静かな雰囲気で勉学に励むのにはうってつけの場所――なのですが――。
「おい、お前の脳味噌は何の為にあるんだ? まさか、イチゴゼリーではあるまいし」
「そちらこそ、その顔に付いている苛立たしいその目はお飾りですの?」
「うるっせーなぁ、飾りだったら今までどうやって生きてきたって言うんだよ!」
「ご自分で考えてみてはいかがです? それに、その言葉そっくりそのままお返ししますわ! イチゴゼリーで考えられる訳がないでしょう!」
二人の邪魔をしないように、そろっと教室に入ると、クラスメイトが教室の隅に避難していました。
「おはようございます!」
「おはよう、絵那ちゃん」
皆疲労の色を浮かべながらも、笑顔で答えてくれました。
「今日も相変わらずですね……」
「ホントだよねー。静かな所なのに、2のBだけはこれが通常運転だからなー」
「秋華ちゃんと笹野君、何であんなに仲が悪いのかな?」
皆の愚痴が止まりません。でも、すべて本当の事なのだから仕方がないのですけれど。
今、2のBで喧嘩をしているのは、私の幼馴染で友達の指田秋華ちゃんと笹野夏貴君なのです。
二人とも、普段は頭脳明晰、文武両道、容姿端麗のザ・パーフェクトなのですが、この二人とてつもなく仲が悪く、すれ違うだけで険悪ムードになるのです。
私はこの二人を幼い頃から見てきましたが、二人の仲は改善せず、むしろ悪化して今に至るのです。
「お前中心に世界が回っているんじゃねーんだよ! この自己中女が! いつか家族にすら見捨てられる事になるからな!」
秋華ちゃんも腕を組み、負けじと返します。
「別に、自分中心に世界が回っているとは思っていませんわ! わたくしはただ、気遣いぐらいはしてはいかがなのと言ったまでです! レディーに気を遣えない男は孤独になる末路ですのよ! そのような時は嘲笑って差し上げますわ!」
夏貴君は片眉を上げ、愉快そうに秋華ちゃんを煽ります。
「ハッ、自分もだろうが! 誰がこんなクズ女選ぶんだよ! お前、歩く財布としか認識されてねーよ。バーカ」
たちまち秋華ちゃんの怒りを買い、秋華ちゃんが噴火します。
「何ですって! 気遣いもろくに出来やしない男よりはマシですわ! この世界一のあんぽんたん男!」
その言葉に今度は夏貴君が反応し、とっさに言い返します。
「何だと~! 黙れ、アホが!」
「わたくしは『アホ』という名前ではないので、黙りませんわ」
まるで小学生の喧嘩です。この二人の語彙力は無限にあるのですが、喧嘩となると幼稚な言葉遣いになるのです。
また、この時の顔はまさに鬼の形相で、目尻が吊り上がっていて怖いです。
二人を傍から見ていた男子たちが、ポツリと呟きました。
「最初はさ、仲が良くて喧嘩ばっかしてんのかと思ったけど……」
「あれは、なんつーかレベルが違うよな」
「痴話喧嘩を超えてるだろ」
「それに、あの二人が仲良くしている所見たことないな」
うんうん、とクラス全員が頷きました。私は苦笑しかありません。
これでも抑えている方なのです。昔なんかはもっと酷くて――。幼い頃の事がふと頭をよぎり、思わず顔を顰めてしまいました。
「そういえば、今日はどうして喧嘩をしてるのですか?」
どうせろくな事では無いとは思いますが、耳に入れておいた方が良いと思い聴いてみました。
「今日はね、秋華ちゃんが読書をしていた隣で笹野君が怒涛のように勉強をしていて……」
「ペンの音がうるさく喧嘩になった、という感じでしょうか?」
あの二人の事だから、ある程度の予想がつきます。
「そうなん――」
「お黙り! 貴方にわたくしを貶す資格は無いわ!」
私たちがそう話していると、急に秋華ちゃんの凛とした声が響きました。
クラス全員がビクッと震え、一層小さく集まりました。
「何だよ、自分は俺の事貶したいだけ貶して、俺にはするなってか? ふざけんじゃねーよ!」
「夏貴、貴方は度が過ぎますわ」
「お前こそじゃねーか、秋華」
二人の喧嘩は激しさを増す一方です。それに怯えたクラスメイトが声を上げました。
「あれ、そろそろ止めないとマズイぞ!」
「絵那ちゃん、今日も頼んでいい?」
クラスメイトが申し訳なさそうに聴いてきます。
「はい、勿論です」
私は溜息を吐きながら、二人に近寄ります。
「貴方の思考回路はどうなっていますの? 周りの事を考えないからバカになるのですのよ!」
「バカにバカって言われたくないな!」
「わたくしが貴方と同じレベルですって? ふざけないでよ!」
このままでは朝の会が始められません。私は大きく息を吸いました。
「二人とも、いい加減にして下さーい!」
二人は渋々ではありますが、喧嘩を辞めました。
「もう、少し冷静になって下さいよ! この教室は貴方方の物では無いのですよ!」
二人はハッとして、教室の隅を見ると皆の傍へ行きました。
「皆様、申し訳ございませんでした! 私事で皆様にご迷惑をお掛けしてしまいましたわ。お許しください。もし許さないというのであれば、何でも致しますわ!」
「皆、ごめん! 本当に何でもするから!」
いつもの二人に戻っていて、皆安心していました。
「大丈夫だよ、いつもの事だし!」
その言葉を聴いて二人はしょんぼりしていましたが、隣に自分の嫌いな人がいると気付くと、顔をプイッと背けてしまいました。
「まあ、とにかく皆さん席に着きましょう。朝の会が始まりますよ」
そう呼びかけると、皆いそいそと席に着き始めました。
時計を見ると、あと一分で朝の会が始まる時間になっていました。皆の朝休みの時間があの二人のせいで無くなってしまいました。後できつく言っておかねば。
担任の先生が教室に入ってこられました。私たちのクラスの担任は、イケメンで学校の女子の憧れである足立潤先生です。
馴れ馴れしく、女子に期待させる様な言動を繰り返しているので、私はいけ好かないですが。
「規律、礼」
「おはようございます!」
教室に皆の元気な声が響きます。
――今日も騒がしい一日が始まりました。
読んでくださり、ありがとうございます!