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十五歳の日常

作者: 雨世界
掲載日:2019/11/09

 十五歳の日常


 プロローグ

 

 ……ハレルヤ(想像してみてください)


 本編


 今、高らかに愛を歌う。


 私たちにとって、学校は毎日通う当たり前の日常の風景だった。吹く風と教室と屋上と、誰もいない校庭。

 そんなものがすごく大切で、すごく大好きだった。

 空を飛ぶ鳥を見ては自由を願い、学校に迷い込んだ猫を見ては、孤独を感じて、小さな小屋の中で暮らしている、兎の世話をするときは、愛を感じた。


 そんなものが私たちの日常だった。


 あの日常は、今はどこに消えてしまったのだろう?

(今の十五歳の少年や少女たちは、あのころの私たちのように風を感じ、鳥に自由を願い、猫に孤独を感じて、兎の世話をすることに愛を感じているのだろうか? わからない。でも、きっとそうなのだと思いたい。それは私が、もうずいぶんと歳をとってしまったからなのかもしれない)


「先生、さようなら」

「先生。教師を退職したら、今度はなにをするつもりなんですか? 優雅に南国の国に旅行に行ったりとかするんですか?」可愛らしい生徒たちがそんなことを私に言った。

「うーん。まだわからないわ。ずっと教師の仕事ばかりをしてきたから、引退後にすることって言っても、まだあんなりうまく『想像イメージ』することができないの」ふふっと笑って私は言った。

 その生徒たちは私が生徒たちの質問の答えを(いつものように)はぐらかしたと思ったみたいだったけど、それは私の本心だった。


 教師を定年退職したあとで、ずっと孤独に生きてきた私がこれからどうするのか、それはもう、父も母もなくして、兄弟もいなくて、パートナーとなる相手もいない私には、本当になにもわからないことだったのだ。(きっと今、私の目の前にいる可愛らしい生徒たちも同じだろう。彼らも、彼女たちも、きっとこれから先、自分がどんな風に生きていくのか、想像することなんて絶対にできないはずだ)


「先生。さようなら」

「先生。今まで本当にありがとうございました」

 泣いている生徒たちが私に言う。


 今日は私が勤めている地元の中学校の卒業式の日だった。この日、今年度で定年退職して教師を退職する私は、彼ら、彼女らと一緒にこの中学校を卒業する。


 今まで何度もなんども、生徒たちをこうして卒業式のたびに送り出してきた私だけど、今日、自分が卒業することになって、初めて卒業していく生徒たちの気持ちが本当によく理解できたような気がした。(今なら、もっと、いままで以上に生徒たちの気持ちよ寄り添ったいい授業ができそうな気がした。だから、教師を退職するのが少し残念だった)


 私は今日、絶対に生徒たちの前で泣かないと決めていた。


 でも私は結局、教室で生徒たちから美しい花束をもらったところで泣いてしまった。(その花束は私見たいな人間には不釣合いの、本当にとても美しい花束だった)

 その日、私は大きな声で、地元の中学校の校歌『ハレルヤ(想像してみてください)』を卒業生、在校生たちと一緒に高らかに歌った。


 ……ハレルヤ(想像してみてください)


 学校からの帰り道。ひとりぼっちの私は、真っ赤な夕焼けを見て、心の中で一人、そう歌声をあげて、にっこりと笑った。(誰かにずっとそばにいてほしい、とこのとき私は人生で初めて、心からそう思った)


 十五歳の日常 終わり

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