嗚咽
遅れました。すみません。
王女様の後を追って、僕は謁見の間に戻って来た。
「皆様には、これからそれぞれの部屋に移っていただきます。部屋には、生活に必要なものは大抵揃っておりますし、必要なものがございましたら、おっしゃっていただけたら、できる限り用意させます」
そう、王女様は言った。
まさか、ここまで高待遇だとは思わなかった。
異界の勇者というものにどれだけ期待が寄せられているかが、うかがえる。
「皆様の部屋は、今から私が案内するところ、西塔にございます。部屋は皆様の人数分ありますので、ご自由にお決めください。また、部屋には専属の侍従がおります。分からない事がありましたら、彼らに聞いてください」
と、王女様は続けた。
「それでは、案内をいたします」
そう言って、王女様は歩き出した。みんなも後をついて行っている。
しばらく歩いて行くと、王女様は立ち止まってこう言った。
「ここが西塔です。どうぞお好きな部屋をお使いください。明日は朝食は部屋に用意されます。また、明日から数日間はこの世界のことを少し知ってもらいたいと思います。準備が整い次第、お呼びしますので部屋でお待ちください。それでは、私はここで失礼します」
そう言って王女様は戻っていった。
そして、鈴木がこう言った。
「みんな、いろいろ混み合っていて混乱しているかもしれないから、今日、夜8時に僕の部屋に来てくれ。僕達の今後のことについて、おおまかに決めておきたいと思う」
おそらく鈴木は異世界でのクラスの主導権を握りたいのだろう。あいつはそういう奴だ。
言い忘れていたが、この世界でも時間の数え方は同じだった。
しかし、今後のことか……。僕はステータスも弱く、スキルも無いわけだけど、どうすれば良いのだろう。
そう思いつつ、僕は適当に自分の部屋を決めて、そこに入った。
一番隅の部屋だ。
「はじめまして、勇者様、私貴方様の専属メイドとなりました、エレナ・メイスと申します。失礼ですがあなたの名前は?」
部屋に入ると、1人のメイドさんがいた。年齢は20〜30代くらいだろうか。
身なりもきちんとしていて、いかにもメイドさんらしい人だ。
少しの間魅入っていると、訝しげな顔をされた。
そうだ、名前を聞かれていたのだった。
「イツキ・シノミヤです」
僕は簡潔にそう答えた。
その瞬間わずかにメイドさんの笑みが途切れた。
「どうかしましたか?」
僕は聞く。
「い、いえ。何でもありません。失礼致しました。只今夕食を持ってまいります」
そう言って、メイドさん、改めエレナさんは部屋を出て行った。
そうか、もう夕食の時間か。こちらに来てからもうそんなに時間が経っていたらしい。
ちなみに、今は午後6時ちょっと過ぎだ。
いつもなら帰って、音楽でも聞いている時間だ。
僕が、好きな曲のジャンルはボカロだ。あの機械独特の儚さを含む声がいい。
……そう考えていると、部屋の外から話し声が聞こえた。
「シノミヤ様って……あの?」
「そうなのよ……。スキルを何も持ってないとか」
「えぇ⁉︎。スキルなんて、生まれたての赤ん坊だって1つは持っているじゃない⁉︎」
「貴方、そんなのの専属になってしまったの?」
「そうなのよ。ホントに運がない……。あんなのが勇者だなんて……」
「そうね……」
2人の人が話している。
1人は知らない人で、……もう1人は……エレナさんだ。
正直、そんな対応をされるかもしれないとは思っていた。
でも、「あんなの」呼ばわりされる筋合いは僕になんて無いじゃないか。
スキルが無い?知るかそんなの!こちとら高2まで平和な日本で過ごして来たんだぞ!
…………少し感情を爆発させすぎた……。もうすぐにエレナさんが部屋に戻ってくる筈だ。
それまでに平静を装わなければ……。
「失礼位致します」
そう思っていたら、エレナさんが部屋に入って来た。
僕は言葉に詰まった。
「どうか致しましたか?夕食をお持ちしましたよ」
僕が黙っていたらエレナさんが急に話しかけて来た。
僕は慌てて言葉を返す。
「え?あ?あぁ、有難う御座います。頂きます」
夕食はパンにシチュー、それに、簡単な野菜の盛り合わせだった。
男子高校生が食べる量としては少々、少なかった。
しかし、文句は言えない。僕はそれを食べ始めた。
「…………。」
エレナさんは黙ったままだった。
僕もあの会話を聞いてしまった手前、何も話し出せないでいる。
「…………。」
結局何も話さないまま食事が終わってしまった。
「それでは、私は後片付けをいたしますので、ここで出て行かせてもらいます。どうぞごゆっくりと」
そう言ってエレナさんは部屋を出て行った。
時刻は午後7時前くらいだ。8時という時間まで少し時間がある。
そもそも、この8時の約束というものに、僕は行った方が良いのだろうか?
しかし、行かなかったら行かなかったで、何か言われるかもしれない。
最悪クラスの和を乱したという理由で殴られかねない。
ならば、行った方が幾ばくかマシだろう。
何はともあれ、まずはシャワーを浴びよう。
この部屋にはシャワーが付いている。何やら魔道具で動いているらしいが、ここまで設備が充実しているのはこの王国の中ではこの王城の客室だけらしい。
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シャワーから上がって一息ついたら、もうすぐ8時になろうとしていた。
服は部屋の中にあったものを拝借した。
自由に使って良いと言ってたいたので大丈夫だろう。
すぐに鈴木の部屋に行った方が良いだろう。
「……だからしばらくは、この国の人の言う通りにしておいた方が良いと思うんだ」
部屋に着くと、みんなはもう集まっていて、話を始めていた。
遅れて来た僕に注目が集まる。
「おいおい〜スキルも持たない『無能』くんが何をしに来たのかな〜」
案の定、榊が煽ってくる。
「榊君、そんなに言うものではない。しかし、篠宮君、君は一般人よりも弱いそうなんだから、せめてクラスの和を乱さないようにするという配慮というものはないのかな?」
鈴木が言う。
「ごめん」
僕はそう謝った。
しかし、
「僕は聞いたのであって謝罪を求めているのではないよ?」
鈴木が追及してくる。
少しイラついたがまだ耐えられる。
「ああ、配慮が足りなかったよ。これからは気をつける」
「まったく、きれだからだから女子にセクハラ行為なんてする奴は……」
……だか、これだけは耐えられなかった。
「おい!おまえ!それは違うと、言った筈だぞ!」
「おや?此の期に及んでまだ罪を認めないつもりかい?」
「黙れ!お前にせいで僕は……」
この時、冷静な判断をできていればこんな事にはならなかっただろう。
「あれ?誰に向かってそんな口の聞き方をしているのかな?」
気付いた時にはもう遅かった。
周囲から、敵意のこもった視線が僕を刺している。
「榊君、これは教育が必要だねぇ」
「あぁ、少し教えてやんないとなぁ」
榊がいやったらしい笑みを浮かべて僕に近づいてくる。
これは、殴られてしまうだろう。
だが、ただでは殴られはしない。
1発目を避けて、そのままカウンターを喰らわせてやる!
「俺は優しいからよ、1発だけで許してやるよ」
来る!
……しかし、甘い妄想は、突如きた胴体の痛みによって打ち砕かれた。
「ガフッ!!」
何だこれは!?
速さも重さもまるで違う!
踏み込みの瞬間さえ、見えなかった。
一体なんで……。
「スキルもステータスもない奴が粋がるからそうなるんだよ!この<無能>が!!」
ステータス……そんなものでこんなにも差が出るのか……。
そう思いつつ、僕の意識は闇に消えてった。
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目が覚めると、そこは、僕の部屋のベッドの上だった。
隣には、エレナさんがいる。
「あなたは!スキルも!ステータスもない!ただの一般人です!何故あんなことをしたのです!」
あんなこと……というのは、僕が鈴木達に歯向かったことだろうか。
仕方がないじゃないか。
冤罪をかけられたら誰だって怒る。
僕だって怒る。それだけの……話だ。
「とにかく!これ以降は、あなたが部屋から出ることを制限させて貰います!」
そう言ってエレナさんは出ていった。
部屋には、僕1人が残る。
「部屋から出れないか……」
それは別にいい。どうせやることなんてあってない様なものだ。
暴力だって向こうで散々受けてきた。
大丈夫、大丈夫だ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……
「大丈夫なわけないだろ!」
痛い、悲しい、
なんでこんな目にあわなくちゃいけない!
様々な感情が滔々と、溢れ出てきてもう止まらない。
「……っ!……ふ……っ!……」
静かに、僕の嗚咽が部屋に響く。
ボロボロと、涙を流してもこの激情は、収まらない。
「なんでだよ!どうして……僕が……」
もちろんその問いかけに答えなど帰ってこない。
答えなんて、ないのかもしれない。
弱い僕はただ泣くことしか、出来ない……。