気付いたら二重生活になっていた!
人は、物心つくと、当たり前のように生活している。これまで、経験をした生活を器用にこなし、試行錯誤を繰り返しながら過ごしている。
時々、立ち止まり、「何故、自分がここにいるのだろう」とか思うことがあるし、知らない間に当たり前のことが壊れる。過ごしていた時間がどうでもよくなることもある。
生活環境によっては千差万別、十人十色、過ごし方が違う。
似た生活をしようとしても、考え方や思いは違うだろう。
夕暮れ時、高い山々が立ち上る囲まれた場所にひとつの豪邸があった。沢山の樹木が生い茂り、近隣には大きな建物もなく、ひっそりと佇んでいる。
中世ヨーロッパに出てくるような、宮殿を思わせる風貌の建物には程遠いが、手入れの行き届いた庭には噴水があり、温室園や小さな湖がある。
いくつも部屋がありそうな三階建ての大邸宅。離れがあるのか、敷地内には平屋建ての建物も見つかった。ほとんどの部屋には電気がついていなく、人気も見当たらない。
ある一室のダイニング。シンプルなソファーにテレビやテーブルがあり、モダンな家具がある部屋。がらんどうの中に地面から淡い光が出現した。
淡い光は段々と強くなり、部屋全体を包み込んでいく。もうすぐ夕闇に溶け込む最中、誰もいないのに不思議な現象が起こっている。
しばらくして徐々に落ち着くと、光の中から人影が現れた。
身なりは薄暗くてわからない。
「……到着!」
静けさを保っていた部屋から女の声がした。
声はまだ幼い。
少女だろうか。
愛らしい声が部屋中に木霊する。
人影は到着早々に慣れた手つきで部屋の電気をつけた。
部屋が明るくなり、鮮明な存在を映しはじめた。
人影は高校生ぐらいの少女だった。高校生ぐらいにしては目立たない服装を着ている。
服装もどこか、大人びていて高校生が着るようなものでもない。
社会人になると着るが、少女には不釣り合いな格好だ。
少女は着ている服に手を掛けた。
服の裏には「次元夢」と名前が記入されている。
少女ーー次元夢は名前を確認した後、上着を脱ぎ、ダイニングを後にした。