旅行計画(しません)
僕はこの春、初めて彼女が出来た。
今回はそんな彼女について話そうと思う。
正直、僕は彼女に不満がある。
僕に彼女が出来て一週間ぐらい経つが彼女との肉体的接触はない。
別に嫌らしい話ではない。
僕にとっての初めての恋人だ。
彼女の手に少しでも触れたいと思うのがつきあい始めの男子として当たり前だと思う。
それも思春期男子として。
それなのに彼女は僕の手をいっこうに触ってくれない。
もちろん、僕からもそれが出来ないのだ。
まぁ、と言っても彼女にはそれなりの理由がある。
彼女が二次元で僕が三次元であると言うこと。
別に僕の彼女がマンガやアニメの存在なのではない。
現実に存在する立体映像の生命体だからだ。
つまり、同じ世界にいながらお互い触れることの出来ない存在なのだ。
とてももどかしい。
お互い触れたいのに触れられないそんな関係性なのだ。
と言ってもそれ以外は普通の関係性。
いつもいろんな事をしゃべりあっている。
でも彼女はちょっと世間にずれている。
僕たちの食事のことも知らないし自分以外の生命体のこともほとんど知らない。
いや、知ってはいるのだけど実感が湧かないという所だろうか。
そんなある日、僕は彼女にこんな提案をした。
「今度のゴールデンウィーク、旅行に行かない?
君は人間世界は初めてなんだろう。
いろんな所に行って見聞を広めるのも一興だろ」
彼女は
「なぜ出掛ける必要性があるの。
私はここにいながらいろんな場所に行けるわ。
あなたが行きたいと言う場所にも私が再現して上げる。
教室ぐらいの大きさがあれば何処だって再現できるから。
今日の放課後にでもやってあげるわ」
僕は
「そうではなくて君と一緒に出かけることが大事なんだ。
電車などの経路にかかる時間も大事な時間だ。
出来るだけ君との時間を過ごしたい。
ここで再現したって意味がない。
君だって孤独な時間よりも僕と一緒の時間が良いだろう」
彼女はピンときていないようだった。
彼女は
「あなたは何を言っているの?
私は出掛けなくても即座にいろんな情報が得られるしその気になればいろんな所にでも行ける。
それも一瞬で。
それに私にはこの人間世界を含め魔界、天使界、神界、妖界、人形界などの異世界の情報が常時入っている。
あなたと一緒に出かけることの重大性が見いだせないわ」
彼女は素っ気なく断った。
でも彼女は
「あなたとずっと一緒にいたいという気持ちは分かるわ。
だから、ゴールデンウィークも一緒に学校に来ましょう。
私があなたの知らないいろいろな世界を見せてあげる」
予定は変わったけどまぁ、良いか。
ゴールデンウィークの期間中、僕らは教室で会った。
もちろん、先生方の許可を得て。
ゴールデンウィーク期間中、学校にはもちろん誰もいない。
僕らだけだ。
しかし、僕らは教室でいろんな冒険をした。
水の中、サバンナ、ジャングル、洞窟探検、空中ダンジョン。
いろんな所に行った。
もちろん、バーチャルだけど。
しかし、バーチャルだから安全性は保証されている。
水の中でも息苦しくないし、空中でも落ちることはない。
僕はアトラクション凄く楽しんだ。
楽しんだのは僕1人だけだが。
彼女はと言うと元は立体映像なので教室一杯に映像を映すと彼女は元の姿の原型をとどめられない。
だから彼女は僕を見守るしかない。
結局、ゴールデンウィーク中、僕1人だけがはしゃいだだけだった。
彼女は僕がはしゃいでいるのを見のので充分だったようだ。
彼女は僕に
「初めて充実した休みが取れたわ。
こんな楽しい日々は初めてだったわ。
本当にありがとう」
はしゃいでいた僕よりも嬉しそうに話してくれた。
彼女は僕がいない時は電脳世界に引きこもるのだそう。
電脳世界ではいろんな情報が入り交じった世界でそこでは矛盾だらけの物語が繰り広げられる。
彼女はその世界では感情を無くした観劇者でその矛盾に満ちた物語を強制的に見せられる。
彼女はそれがとても苦痛なのだそうだ。
だから彼女は出来るだけ現実世界にいたい。
そして僕という恋人といられる時間がとても貴重なのだとか。
僕はそれを聞くととても恥ずかしいと思う。
彼女は映像生命体として初めて恋愛感情を持った存在。
だからとても貴重な存在だ。
休み明け、僕は担任の液野先生にゴールデンウィークの出来事について報告した。
別に悪いことをしている訳ではない。
僕と彼女が付き合っていることを知った液野先生が研究のために聞きたいというので話しているだけ。
もちろん、彼女の了承の範囲内の話をしている。
僕たちだってプライベートがあるから。
液野先生は
「私たち液状生命体も彼女と同じく恋愛感情を持たないの。
だから恋愛感情とはどういったものなのか私も興味があるわ。
映像生命体も私たちと同じく世界に数人しかいない貴重な存在。
だから、あなたも彼女を大切にしてね。
私も出来るだけ彼女の種族のことを調べてあなたに報告するから。
私の友達にも偶然にもいることだしね」
どうやら僕の周りには珍しい生命体であふれているようだ。
これからも非日常のような日常を楽しみたいと思う。