死の間際へ
「貴方には、本来全うすべき寿命と、天命があった。でも、何らかの要因で、貴方はそれを果たせなかった。貴方の次の人生を決める為には、その天命が何なのか、を探す必要がある。まず貴方が死んだ理由から、順番に探っていきましょう。」
冴子は、白い部屋の壁を見つめたまま途切れる事なくそこまで言った。
一方の棚田は、指の爪を一本一本眺めながら、『はい』と、小さく呟いただけだった。
俺は椅子を抱きかかえるようにして座り、もう一回煙草をふかした。
本当は、味なんぞしない。
そう、わかっていながら。
生きたくねえんだろうな。転生してまで。
率直に、この貧弱そうな高校生は、そうなんだろうと、俺は感じた。
しかしどうあれ、こっちも仕事だ。
仕事は、責任と意識をもって成し遂げなければならぬ、
というのが俺の信条だった。
生前からそうだったかどうかは知らない。
何しろ、俺や冴子には生前の記憶は一切なく、
俺が一体『霧島』なのかどうかすら、確実なものはなかった。
俺がここで『霧島』足り得るのは、あいつが…冴子が、俺をそう呼ぶからだ。
それ以外に、今の俺に真実はなかった。
だからな、棚田。
お前が『棚田』だったって事は、お前が知るよりもずっと、価値があるんだぜ。
…多分な。
「さて、じゃあ、始めるとするか」
その先には、棚田も知らない真実と明日があるだろう。
俺の言葉を合図に、冴子は床に手をつき、目を閉じた。
「あんまり納得は出来ねえだろうが、それをする為にも今は俺たちに付き合ってくれ。まず、自分が死んだ時の事を覚えているか?」
ゆっくりと、極力静かに、俺は口を開いた。
相手のペースと話し方に合わせる、というのは、いつからか俺が身につけた相手の意思を引き出すコミュニケーションのテクニックだ。
「…あまり、覚えていません。線路沿いの道を、歩いていた所までは、わかります」
「死んだ瞬間の事は覚えてないって事ね。まず、貴方は電車の脱線事故に巻き込まれて亡くなっているわ。死因は全身打撲。これを…見て」
冴子が床に手をついたまま、瞳を開いた瞬間、
世界は…開いた。