嘘
「さて、コーヒーで目も覚めたわね」
「はい…もう永眠できると思います」
「よし」
「よくないよね。何一つ良くないよね。もう殺しちゃってるよね、それ」
と、俺たちは全員、冴子お手製の殺人コーヒーを平らげた。
棚田はただでさえ生気のない瞳をさらに鈍らせ、このふざけたシリアスな展開を前に、半ば諦めた様子だった。
「俺が死んだか死んでないか、とか、ここがどこか、とか、イマイチ信じられないし実感もないですけど、つまり俺はこれから、どうなるんですか?」
棚田はテーブルの一点を見つめたまま、右腕を椅子の後ろにかけ、背もたれに重心をかける。
何となく、俺はヤツの態度が気にくわない。
しかしそれは今は飲み込んだまま、
煙草を深く吸い込んだ。
「さぁ…どうだろうな。」
隣で冴子の高い笑い声がする。
「そんな事は、真実を見てから考えればいいのよ」
窓のないその取調室か何かのような白い部屋で、冴子は壁の向こうをじっと見つめた。
一体そこに誰がいるのか、腕を組み背筋を伸ばして、唇は少し笑っていた。
その瞳は棚田も、俺も見てはいないようだった。
ただただ、「真実」という言葉が嘘のように。
「それじゃあ、探しに行きましょうか。貴方の生きた、『真実』のために」