状況説明
目の前の顧客は、非凡でも平凡すぎもない普通の男子高校生だった。
長くも短くもない無造作な茶髪。
高くも低くもない身長。
やや細身で、顔はまぁ、そこそこ。
少し目が大きめで童顔ではあるが、何となく擦れている。
若いのに光の薄い瞳をしていた。
俺と冴子は、改めて、棚田というその男子高校生、もとい特例対象者を応接室に招き、事情を説明する事にした。
「冴子。コーヒー3つ」
「いいけど、説明はあたしの仕事でしょ」
「お前はむしろ護衛やれよ。俺より(強いし怖いし)向いてるだ…」
「霧島、その癖っ毛、邪魔じゃない?」
後ろから食い気味にバリカンの音がする。
悪寒がして背後に立つ冴子を振り向けない。
「あ、わりぃ、コーヒー飲めるか?」
「はい。なんでもいいです」
俺は煙草に火をつけ、棚田を見た。
棚田は目の前の状況を受け入れた様子も、かといって取り乱した様子もなく、俺たちのくだらんコントにも反応せずじっと座っている。
俺と違い行儀は悪くない。が、生気もない。
まぁ、ヤツは死人ではあるが。
「まず、最初から説明するな。ここは、ハローライフ。特殊な事情で想定外に亡くなった顧客の再就職、つまり転生先を探す機関だ。人間には本来寿命と天命があるが、その本来の天命を全う出来ない人間がいる。それが特例死亡者、つまりお前みたいな人だな。俺たちハローライフは、天命の歯車が狂った要因を突き止め、お前に見合った転生先を紹介する。俺はお前の護衛担当の霧島だ。さっきの女は案内役の冴子。」
棚田は、こちらの説明について特にうなづきもせず、俺を見ることもなく、小さく呟いた。
「…本当に、俺、死んだんですか?手の感触もあるし、息だってしてる。コーヒーも飲めるのに?」
コトン。
棚田が言い切るのと同じタイミングで、冴子が白いテーブルにコーヒーカップを置く。
冴子には、棚田の反応がおおかた予想出来るのだろう。
その目は笑ってはいない。
大体、いつもこのパターンが繰り広げられる。
「…飲んでごらんなさい。」
棚田は、無言でカップに口をつけた。
「!…飲め、ない…」
「…」
カップを持つその手が、小刻みに震える。
「…マズくて飲めないっっ!!!酸っぱいし苦いし甘いし、辛いっ!」
「あー。目、冷めるだろ」
…毎度、どの客も同じ反応だ。
俺はため息をつきながらコーヒーを啜った。
「何でアンタ飲めるんですか!こんなっ」
「飲まないと殺される。あと、慣れだ」
「全部飲んだら、お話しましょうか?」
冴子はあきらかに笑っていない目のまま微笑みをたたえる。
棚田は顔面蒼白になりながらコーヒーカップに手をつけた。
「殺される…」
いや、お前もう死んでるから。
毎度同じツッコミを心で呟きつつ、
俺は髪の毛を掻いた。