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ちょっとだけオチのある短編集(ここを押したら短編集一覧に飛びます)

最強の窓

作者: よっきゃ

「くくく……もう少し……もう少しで最強の窓の完成だ……俺の努力が実るんだ……一発逆転だ……」



 いつものように彼はぶつぶつと呟きながら作業をしていた。


 彼は窓職人という特殊で独創的な職業柄なのか、極端な思考をすることが度々あった。

 だが職人ならではの勤勉な仕事ぶりに、多くの取引先や同じ窓職人からの信頼を得ていた。彼はそんな信頼のおけた堅実な職人だった。


 そして彼は現在、未だ誰も成しえていない完璧な窓を作ろうとしていた。



「くくく……この窓のことを知ったらきっと人々は目を大きく開けて驚くだろう。いや、目を大きく開けて驚くどころじゃない。きっと腰も抜かすだろう。なにせ、銃やロケット弾で攻撃されても絶対に割れない最強の窓だからな。これで窓からの犯罪は起こることもなくなるだろう。くくく……浮かぶ、浮かぶぞ。窓の性能の凄さに震えながら次々と購入していく人々の姿が……!」



 まるで魔女が大鍋の前でグツグツと何かを煮込んでいるかの如く、悪どい顔つきで作業をしながらぶつぶつと呟く。それが彼の作業スタイルだった。すると、



「よし、もう少しだ……もう少しで……! で、ででで、できたっ! できたぞっ!!」



 彼のテンションがこれでもかと上がる。


 ついに彼は念願だった最強の窓を作り上げたのだ。

 彼は両手を上げて喜んだ。


 しかし極端な彼は急に熱が冷めたのかすっと冷静さを取り戻し、


「さて、窓も完成したし、さっそく取り替えてみるか」


 そう言うと、初めに自宅の窓を最強の窓へと取り替えた。


 そして全ての窓が最強になったところで、


「あれ?」


 と呟く。何かに気づいたらしい。


「窓はどんな衝撃を受けても割れないが、窓そのものを取り外されたら全てが無意味になるな。せっかく作った最強がその効力を発揮できないままになってしまう。うむ、どうしたものか……」



 それから彼は、どうすれば無意味にならないか、そしてどうすれば一発逆転ができるかを一晩中かけて考えていた。




--




 数日後のことである。


 彼が作った最強の窓は飛ぶように売れていた。彼の計画通りになっていたのだ。



 一体何を行ったのか。


 彼が行ったこと。それは二つあった。



 その一つは、最強の窓の宣伝をしっかりと行うことだった。この行ったことについてはごく普通のことだ。



 しかしもう一つの行ったことが彼らしい極端なものだった。



 彼は人を殺したのだ。同業者である窓職人を殺したのだ。それも一人だけ殺したのではない。何人も同じ手口で殺したのだ。



 彼はこう呟いていた。

「窓そのものを外すことのできる人間は俺のような窓職人しかいない」と。


 そしてこの考えが彼を支配していたのだろう。きっと彼にはこの考え以外が思い浮かんでいなかったのだ。



 こうして彼は犯罪に手を染めた。



 しかし、彼は計画的だった。

 入念に計画された彼の犯罪は、未来まで見据えていた。



 まず彼がとった手口だ。手口は全て同じ。

 彼は深夜に窓を割って家に侵入したのだ。

 そして就寝している窓職人を殺したのだ。


 一見雑に見えるかもしれない殺人。

 しかしこの殺人の手口が彼にとっては効果的だった。


 なぜ彼はこの手口を使ったのか。それは『犯人は窓を割って家に侵入した』というニュースを使い、窓の脆弱性を世間に知らせるためだったのだ。



 そうしてある日を境に、窓からの殺人に怯えて震えた人々が、次々と最強の窓を購入していったのだ。飛ぶように窓が売れたのだ。



 そんな最強の窓の名は『無犯窓』といった。

 人生の一発逆転を狙っていた彼が愛情を込めて付けた名前だった。彼にとってこの窓は神のようなものだったのだろう。


 だが、この売れ行きも長くは持たなかった。


 なぜなら、周囲の窓職人は殺されているのに、彼だけがいつまで経っても殺されなかったからだ。


 これにはさすがの警察も気づく。そしてついに彼は逮捕された。



 彼の逮捕は速報として全国に飛んだ。ニュースを知った人々は目を大きく見開き驚いていた。そして腰を抜かしていた。



「すまない、俺は窓に取り憑かれた結果、こんな大変なことをしてしまった。取り返しがつかないことをしてしまった。本当にすまない」



 逮捕の直前、彼は私にこの言葉を残していった。


 それに対し私は、驚きのあまり言葉を発することができなかった。いや、彼にかける言葉が見つからなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。



 そんな私は彼の妻。

 だが彼の犯罪とは一切関係のない女。

 犯罪は彼が一人で考えて一人で行ったものだ。

 彼のもとに警察がやってきた時に初めて私は気づいたのだ。彼が犯罪者だったということに。



 そして今日は彼との初めての面会の日。未だにかける言葉は見つかっていない。だがこうやって事件のことを思い出すだけでも怒りがこみ上げてくる。



 きっと彼はいま、牢屋の中にいる。

 牢屋の中にある鉄格子の窓から、彼は一体どんな極端なことを考えているのだろうか。彼が窓なら頭をげんこつで割って覗いてみたいものだ。そして反省してほしい。犯罪はもうしないと。

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