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第1話 そうだ、異世界に行こう

 異なる二つの世界が交わる事、それが【世界接合】である。

 俺たちの居る世界を地球と表記し、くっ付いてきた世界を『天球』と表記することにして、説明しよう。適当な名前だと言うかもしれないが、これが今の所、日本における異世界表記なのだから仕方ない。


 まず、【世界接合】はどちらの世界が原因というわけでもなく、世界間において、ごくまれに発生する自然現象みたいな物らしい。本来であれば、世界がくっつくという生易しい話では無く、互いに衝突して対消滅するレベルの災厄らしいのだが、そこは天球の住人が何とかしてくれたらしい。

 具体的に言うならば、レーナ・ヴァルギルスという超越者が上手いことやってくれたらしい。

 そう、俺が遭遇したあの恐ろしい美少女である。


「こちらの世界と、そちらの世界が接合した。なので、調停者として私が現れた。国家間のやり取りには干渉しないが、しばらくの間は、監視者として行動を監視する。誠実で、誠意のある対応を行え」

「何をいきなり、横暴な――」

「要求拒否を確認。これより、世界の首脳陣を同時洗脳し、一時的に世界の運営を代行する」


 レーナ・ヴァルギルスという超越者は、交渉とかめんどくせぇ! と言わんばかりの力技を発揮。問答無用で俺たちの世界のトップを制圧した。

 しかも、それが世界で同時生中継されていたのだから、さぁ、大変。いきなり現れた異世界人によって、世界の首脳陣が洗脳されたのだから、それはもう世界中が大パニックに陥って、


「落ち着け、地球人」


 超越者の一声で、強制的に落ち着かされた。

 後から聞いた話によれば、中継を聞いていない人間にも、その声が聞こえたらしい。

 多分、全世界の人間がそれの声を聞いたのだろう。

 だから、その時に限って、地球の人間全てが、落ち着いていた、強制的に落ち着かされていた。そして、地球人は落ち着いた心で考えた。

 あ、こいつは逆らったらやばい奴だぞぉ、と。


「私はどちらの世界にも属さない、中立である。上手いことやるので、しばらく待て」


 その後、レーナ・ヴァルギルスは本当に上手いことやった。

 たった一週間の間で、地球と天球、二つの世界の世界運営におけるルールを決めて。その上、どちらの世界にも最善になる様に、輸入や輸出のあれこれを調整して。さらには、互いの世界の環境を整えて、【世界接合】の結果、どちらかの住民がいきなり風土病で死ぬことは無くなった。とまぁ、このような神の如き采配としか言えない偉業を七日間立て続けに行い、見事に、世界間交流の万全な下地を作り上げたのである。


「上手いことやった。では、後は好きにやれ」


 そして、仕事は終えたとばかりにあっさりと姿を消した。

 あっさりと、世界の首脳陣の洗脳を解いて。

 地球の人間は『彼女こそ、救世主だ』と、レーナ・ヴァルギルスを崇めて、奉ろうとする人々が多発したが、どれだけ祈りを捧げても、彼女が再び姿を現すことは無かった。


「天災に祈るのは勝手ですが、救われようと願うのは傲慢ですぞ」


 先に彼女を崇めていた天球の人々は、地球の人々の反応を初々しいと笑いながら、そう助言したらしい。生憎、俺は彼女を崇めるよりも先に、あまりの力技に呆れていたので、そういう機会には恵まれなかったが、宗教家の人間などはそれでようやく正気を取り戻したという話が、色々ネットに書き込まれることになった。


「どうも、異世界人です。互いに災難ですが、上手くやりましょう」

「はぁ、どうも。こちらも異世界人ですが、とりあえず、また洗脳されるのは嫌なので、上手くやりましょうか」


 交渉という名の洗脳を食らった地球側の首脳陣は、対応に慎重になった。少なくとも、侵略や、今すぐ核兵器を落とそうなどという短慮な行動はとらない。

 何をどうしたところで、本物の超越者には敵わないと証明されてしまったのだから。

 だから、政治家たちは許された範囲内で、上手くやることを選んだ。

 天球の政治家たちも、きっとそれは同じだったのだろう。


「はっはっは、これから仲良くしましょう、地球の皆さん」

「はっはっは、こちらこそ、是非とも仲良くしていきましょう、天球の皆さん」

「差し当たって、相互理解と友好のために、交換留学生を出すと言うのは?」

「いいですねぇ。今後の友好のためにも、若い者たちが交流を深めるのは」

「はっはっは」

「はっはっは」


 本当にこのような会話があったのかは不明であるが、学生たちの交換留学が企画されたのは本当だった。

 明らかに、互いの人質兼モルモット兼スパイみたいなノリの交換留学であるが、当然のことながら、一般枠での募集枠は皆無。何らかの都合により、選ばれしエリートたちが異世界の学園に留学し、そして、地球にも天球の学生たちが留学しに来たのである。

 もっとも、選ばれしエリートたちは、留学開始一か月ほどでそのほとんどが脱落し、しばらくは再起不能な精神的なダメージを負って返却されてきたのだが。


「ちょっと、天球の人ぉ!? 何がどうなってんのさぁ!?」

「いや、マジごめん……うちの世界、国家に縛られない超人が割と闊歩しているから、運が悪かったと思って」

「治安最悪じゃねーか!」

「ごめんて」


 どうやら、天球世界は国家に縛られない超人(F.O.E)が稀に出現するらしく、こちらの世界のエリートたちは運が悪く、再起不能になったらしい。これに対して、地球の各国が天球に対してそれはもう、抗議や慰謝料の要求など、非難の雨あられだったのだが、


「そっちの世界のエネルギー問題、こっちの魔導技術で解決するから、許してクレメンス」

「超許したぁ」


 天球世界から提供された魔導という超技術という実利により、強制解決。

 世界問題の解決に比べれば、いくらエリートと言えど、数百人程度の人間が軽く精神崩壊する程度の問題など、うやむやにして黙殺するのが地球世界の社会構造だったようだ。


「じゃあ、仲良くしよ?」

「うん、仲良くする!」


 そんなわけで地球は、天球への交換留学を続行。

 もはや、質よりも量で攻めた方が良いという判断の下、一般学生の募集も開始。もちろん、我らが一般学生たちは『ふざけるな、バーカ!』とガチ切れして、留学反対のデモ活動が多発した。というか、現在進行形でしている。

 そのため、地球の政府は異世界留学を申し込んだ学生には、卒業後の就職先の斡旋。及び、様々な特権を与えることにしたのだが、それでもデモは収まらない。留学希望の学生も集まらない。

 やはり、どれだけ好条件を提示されても、危険分子が跋扈する異世界に留学しろ、というもは無理があったのだろう。

 よほど切羽詰まった事情の人間や、よほどの馬鹿でなければ異世界留学など望まない。

 【世界接合】から三か月後の現在。

 ごく一部を除き、異世界へ留学する学生の確保が、地球にとっての急務となっている。



●●●



「んじゃ、異世界行ってくるわー」


 そして、俺がその『ごく一部』であり、よほどの馬鹿だった。

 一般学生の募集が始まった時に、俺は特に迷わず応募。ちょっとした物見遊山での応募である。まぁ、どうせ、面接やら適性試験やらで落とされるだろうなぁと予想しての応募だったのだが、俺の予想以上に、一般学生の応募が少なく、様々な面接やら試験はオール免除。とりあえず、数だけは揃えておけ、と言わんばかりに留学枠にぶち込まれたのだった。

 うわぁ、やったぜ、後悔しそう。


「おう、行ってこい、春尾。男なら、一度は異世界に行くもんだぞ」

「とりあえず、死ななければ何でもいいわ。何なら、帰ってくる頃には美少女に性別が変更されていても構わないわよ」


 なお、我が鈴木家は、平均的な家庭よりも多少正気度が低めであるので、特に問題視されることなく、俺は異世界に送り出されることに。

 我が両親ながら、軽く狂っているんじゃないかと思うが、そのおかげで問題なく異世界に行けるわけだし、うん。ぶっちゃけ、早速、未知への恐れで手先の震えが止まらないのだが、そこは武者震いだと誤魔化しておく。


「はーい、天球行きのバスはこっちですニャー」


 国から指定された最寄りのバス停で待っていると、翼竜に載った猫耳バスガイドが空からアスファルトの路面に降り立った。翼竜は全長四メートルほどの大きさで、緑色と灰色が混じった鱗をしていた。あれだ、前足が翼になっている感じのワイバーンである。きっちりと背には鞍、顎の部分には手綱が付けられている騎乗用の翼竜らしい。

 うん、バス? どうやって田舎から異世界に行くのかと疑問に思っていたが、バスでの移動かぁ。それにしても、全然バスなんて見当たらないのだが、どういうことだ。


「貴方は、留学希望の鈴木春尾さんでよろしいですニャー?」

「あ、はい。それで、その? えーっと、バスは?」

「バスですニャ!」

「…………そっかぁ」


 猫耳……ワーキャットと呼ばれる天球の住人は、笑顔で翼竜を指差した。

 よく見ると、その翼竜の背に取り付けられた鞍には背もたれがあり、ちょうど二人分は座れるほどの広さがあった。

 どうやら、地球と天球ではバスの定義が異なるらしい……定員二名様限定じゃねーか。


「さぁさぁ、鈴木少年! 私の後ろへ! しっかり抱き付いて!」

「あの、すみません。一応、思春期の男子なんで、お姉さんの体にしがみ付くのは気恥ずかしいというか、抵抗が――」

「しっかり抱き付かないと、最悪、世界の狭間に落っこちて『ガォン』となるニャー」

「もう貴方を離さない」


 俺は意地も恥も捨てて、お姉さんに抱き付いた。しっかり背中から腹部にかけて手を回し、この手が千切れようとも離れないことを誓う。

 本来であれば、自分の胸元程度の背丈の女性に抱き付くなんて、童貞の俺には到底不可能な行動であるが、死への恐怖が俺を素直にさせていた。今の俺には、華奢で柔らかなお姉さんの感触や、体温を感じている心の余裕は無い。ただひたすら、死にたくない。


「いよっし! それじゃあ、行くニャ! 空を裂き、飛べ! シルヴィーナ!!」

『GRUAAAAAAAAAAA!!』

「うわぁ、既に鼓膜がやばい」


 翼竜は咆哮と共に、飛び立ち、瞬く間に空を駆け上がっていく。さながら、上空に向かって放たれる一条の矢のように。

 どんな乗り物でも味わえないような、空を切り裂く風の感覚。

 瞬きをする度に、いくつもの光景を置き去りにする疾走感。

 そして、強烈に人体の内部へ作用する慣性の力による不快感。

 ――――多分、こんな最高で最悪の気分を味わったのは、地球で俺が初めてだろう。何故か、そんな気がする。


「ふはははは! さぁ、鈴木少年! 地球の若人ぉ! とくとその目に焼き付けるニャ! これが! 地元では禁じられていた、人竜一体の! 空間跳躍飛行ニャー!」

「一体じゃない! 俺が居ます! 俺が! 居るんですがぁ! 安全性はぁ!?」

「にゃはははははははははは! 死ぬときは一緒だから、寂しくないニャー!」

『GAU』

「ああああああああああああああ!! 死にたくねぇえええええええええ!!」


 俺は、猫耳のお姉さんと共に翼竜を駆り、異世界へと飛んでいく。

 周囲の音や空間を置き去りにして、明らかにまともじゃない方法で。

 それはまるで、これからの俺の異世界ライフを暗示するかのように破天荒で、とんでもなくて、そして、


「死にたくねぇ! 怖い! くそ、早速帰りてぇ! でも、くそ! 悔しいけど、くそが! 物凄く――――楽しいじゃねぇか!!」

「にゃははははは! 楽しければ、笑え! 鈴木少年!」

「ああ、笑ってやるとも、ちくしょうが! はは、ははっ! ははははははははっ!!」


 不本意ながら、心が震えるほどに楽しかった。

 例え、この先何度も後悔したとしても、最後には意地でも笑ってやると思えるほどに。


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