ドラゴン退治は突然に
先に動いたのはミリアだった。
盾を拾い、ドラゴン目掛けて走り出す。
離れていては火球の的になるし被害も増える。
付かず離れずを意識して、隙をみて懐に入って比較的柔らかい腹部に剣による一撃を加える。
それが彼女、ミリアの考えた作戦だった。
ドラゴンが横に凪いだ腕をギリギリのところでしゃがんで避け、再び加速する。
行ける!見える!
そう思ったミリアはその勢いのまま、ドラゴンの腹部へと剣を突き立てんと腕を伸ばした。
しかし、予想通りにはいかないものだ、刺したと思った矢先、剣は弾かれてしまう。
「そんな、馬鹿な」
堅い、とは少し違っていた、分かりやすく例えるならば分厚いゴム、それにハサミでも突き立てたような感覚がミリアの手の内に残っていた。
体勢を崩し、無防備になってしまったミリア。
そのミリアをドラゴンは見逃さなかった。
まるで、虫でも追い払う様に、その巨大な翼でもってミリアの体を打ったのだ。
「がっ!」
吹き飛ばされ、民家の壁をぶち破り室内の壁に叩き付けられるミリア。
日頃鍛えてはいるが、ドラゴンの一撃を鎧も装備していない状態で受けては無事ではすまない。
肋骨と腕は折れ、折れた肋骨が肺に刺さっているのか呼吸は困難で、壁に叩き付けられた時に頭を打ったか、ミリアの意識は朦朧としていた。
ドラゴンがミリアを捕食しようと、近付いてくるが、そんな状態で逃げられるわけもない。
ミリアの脳裏に、幼かった頃から今までの記憶が瞬きの間に思い出しては消えていく。
走馬灯に見る今は無き母の笑顔。
母さん、私もそっちに行くね話したい事が一杯あるの。
ミリアが死を覚悟したまさにその時だった。
「ライトニングボルト!」
ミリアは意識を失う瞬間に確かに少年の声を聞いた。
「オオアアア!!」
そして薄れゆく意識の中、赤黒い影に包まれた少女がドラゴンの顔面を殴り飛ばすのを最後にミリアは完全に意識を失ってしまうのだった。