強制イベントは回避出来ないⅡ
ドラゴン、アストラルオンラインにおいて、その存在は各エリア、ダンジョン等に配置されるボスモンスターの一種だった。
エリア、ダンジョン毎に全く特性が違うドラゴン達。
そんな中で、もっともオーソドックスなドラゴンが翼竜種だ。
剣や槍を寄せ付けない程に堅い鱗に覆われ、強靱な手足、尻尾、翼を持つドラゴン。
ゲームの設定上の話なら間違いなく生態系の頂点に君臨する存在。
そんな存在がロクな防衛機構一つない村へと降り立ち、火球を目についた民家に、咆哮を、空へと放った。
突然の事に狼狽え、我先にと逃げ出す村人達。
しかし、ドラゴンは村人を逃がす気は無いらしい。
ドラゴンは再び火球を放とうと口を開いた。
「させませんよ!」
そのドラゴンの前に一人、剣と盾を携えた美しい女性が姿を表した。
肩までの金髪、整った顔立ち、華奢に見える引き締まった体。
この日、丁度休暇の為、母の墓参りの為に、この村に帰省していた彼女。
この村の遙か北に都を置く、アスタリア王国。
その王国で騎士を務めるミリア・リターシア。
「こっちだドラゴン!! 私を殺してみろ!」
村人達を助ける為、ロクな防具も装備せずにドラゴンの目の前を走り村の中央広場へ向かう。
挑発に乗ったドラゴンは、ミリアを追うかと思ったが、顔だけそちらに向け、口の中に溜めていた火球を吐き出した。
「この程度ならば! 剣技《一閃》!!」
盾を離し、両手で剣を握り、縦一文字に切り裂く。
切り裂かれた火球はミリアに当たること無く、近くの民家に直撃し、焼いた。
「あっちゃあ、生き残ったらおじさんに謝んなきゃ」
チラッと燃える民家を見て、冷や汗を流すミリア。
しかし、状況は思っている以上に深刻だ。
「(どうしよう、ドラゴンと1対1で戦って勝てるわけ無いじゃない、そもそもなんでドラゴンがこんな場所に、いや、今は皆が逃げる時間を稼ぐ為に、出来ることをしなきゃ)」
ミリアの思いに応えたわけではない。
しかし、一撃を凌いだことで、ドラゴンはどうやらミリアを食事の一番の邪魔者と考えたか、ミリアのいる広場へとその歩を進めた。
もちろん理由はただ一つ、邪魔者の排除と捕食の為である。
「故郷を滅茶苦茶にされたんだから、ただでは済まさない、ただでは殺されないわ!」