旅仕度
今まで集めた武器防具はインベントリ、分かりやすく言えばアイテムバッグ、確かにそこに存在はしているが取り出せない。
「面倒な、レベル制限まで存在してるとは、せっかく集めた武具を眺めるにもレベルアップしなけりゃならないのか」
高レベル帯の武具が取り出せないなら仕方ない。
とりあえず、初期装備の一式が転生時に再配分されてるはずだ。
……あった、剣に盾、槍、斧、杖、弓、銃、ガントレット。
使い慣れた武器を装備しておくのが無難か、槍だな。
俺は以前、アストラルオンラインではスペルランサーだった。
簡単に言えば魔法剣士の槍バージョンと言ったところだ。
近距離では槍術を駆使し、遠距離からは魔法でも攻撃でき、さらには支援魔法で味方の強化も出来る万能職。
万能職と言えば聞こえは良いが、レベルが低いうちは攻撃力は剣士に劣り、魔法では魔法職に敵うはずも無く、支援魔法もたいした効果はない。
しかし、それを乗り越え、レベルを上げればまさに万能と言える活躍が出来る。
そういう少しマゾい職だったが、ギルドマスターを務めるにあたって俺はあえてスペルランサーの道を歩んだ。
様々な戦場でパーティーの力を最大限に引き出したかったからというのが理由だ。
まあ後は、見栄か、レベルの上げにくい上位職の中でもマゾいと言われていた魔法剣士とスペルランサー。
そのうちの一つを極めて嫁に良い所を見せたかったのだ。
さて、その嫁のアストラルオンラインでの職はと言うと。
「月紫はどうするんだ? 転生したら職変えようかなって言ってたけど」
「う~ん、みんながいれば魔法職でもやってみようかなと思ってたんだけど、私も使い慣れた武器使う。
体の感覚があるなら以前より良い動き出来る気がするし」
そう言いながら、月紫は手元のアイテムバッグを操作し、ガントレットを取り出すと手にハメ、手を握ったり開いたりして感触を確かめ始めた。
月紫のアストラルオンラインでの職はファイター。
最前線で戦うガチガチのインファイター、攻撃と防御に秀でた剣士よりもどちらかと言えば防御にパラメーターが振られた職だったが。
うちの嫁はちょっと、いや、かなり変わったパラメーターの上げ方をしていた。
本来のアストラルオンラインでの推奨されるファイターのプレイスタイルは、防御にステータスを振りつつ攻撃力と体力に少しステータスを振る、いわゆる防御型の職。
しかし月紫はそんなファイターのセオリーを無視し、ひたすら攻撃力と会心率、俊敏性を上げ続け、肉壁としての役割を放棄した。
つまり、「当たらなければどうと言うことはない」を体現し、当たれば死ぬかも知れない拳を手にした攻撃に超特化したキャラクターを作り上げたのだ。