ドラゴン退治は突然にⅢ
陽は、壊れた壁から屋内のミリアのと元へと駆け寄る。
「生きてるか!?」
声を掛けるがミリアからの反応は無かった。
「気を失ってるだけって訳じゃ無いよな」
陽は回復魔法を掛ける為に槍をかざす。
呼吸をしているのは見て取れた、死んでいないなら、大丈夫な筈だ、と陽はミリアに回復魔法を掛ける。
「頼む、完治してくれよ?完全回復魔法」
本来、回復魔法は陽の分野ではない。
陽はあくまでもスペルランサー、槍術士と魔法使いの複合職だ。
回復魔法は本来、回復専門のクレリック、所謂治癒士の分野の魔法なのだ。
陽が回復魔法を使える理由、それは、スペルランサーになる以前、魔法使い、槍術士を極める際に、サブ職を治癒士に設定していたからに他ならない。
ゲーム内では中途半端にレベルを上げていたため、回復力は純粋な治癒士に劣る。
それでも、緊急時や治癒職のプレイヤーとパーティーが組めなかった時などは重宝したものだ。
そんな理由もあって、スペルランサーへの転職後も治癒士の設定を外さなかった事が幸いした。
「う、わ、私は……助かったのか」
「っしゃあ! 成功! やったぜ!」
目を開けたミリアの姿を見てガッツポーズを決める陽。
そんな陽に「あの」とミリアは声を掛けようとするが。
「ごめん、話は後で、ちょっと嫁止めてくるから」
陽はそれだけ言ってミリアの元から、今度は、ドラゴンを最早サンドバッグ状態に追いやっている月紫の元へと駆けて行った。
「オォオオォオ!!」
跳躍した月紫が拳をドラゴンの頭に叩き込み、頭を垂れたドラゴンの顎に、着地した体勢から後ろ回し蹴りの要領で強烈な一撃を叩き込む。
もはや戦いにすらなっていない。
ドラゴンの自慢の鱗はヒビ割れ、一部には拳大の陥没痕さえある。
さらには苦し紛れに吐いた炎は、月紫の一喝に掻き消されてしまう始末だ。
ミリアからしてみれば目をむく光景だった。
しかし、それはドラゴンを叩きのめす少女の姿にだけでは無い。
先ほど自分を助けてくれた少年が、ドラゴンの前に立ちはだかったと思うとドラゴンに背を向け、ドラゴンという強大な力を持つモンスターを叩きのめす力を持つ少女の拳の一撃を、あたかもボールでもキャッチするかのように容易に止めて見せたのだ。
「物理攻撃軽減してこれか……痛え」
陽は嫁の攻撃力になかば呆れながら、それでも拳を離さなかった。
「ちょっと落ち着けよ月紫、思い出せよコイツが人間を襲った理由」
陽はアストラルオンラインのストーリーを思い出していた、このドラゴンが人間を襲った理由、そして、そのストーリーの顛末を。
「離して陽君」
「敵味方の区別は付くのか、でもスキルって魔法じゃ無いから解除出来ないしなあ」
考えている間も月紫は陽の手を振りほどこうとする。
しかし、陽のステータスも1度レベル上限に到達していることもあって、月紫の力であっても振りほどく事が出来なかった。
「うーむ、よし、モノは試しか!」
そういうと、陽は槍を地面に刺すと、月紫の手を引き、空いた手を腰に回すと、月紫の顔に自分の顔を、正確には唇と唇を近付け口づけを交わした、割と濃厚なヤツを。
「ん、あ、ん……って! ちょっと陽君何してるの!?」
「お、正気に戻ったな」
この時、丁度、ドラゴンは力尽き、倒れた。
死んだわけでは無い。
気を失ったのだ。




