ドラゴン退治は突然にⅡ
陽と月紫、二人が村に差し掛かった時だった。
勇敢と言うべきか、はたまた無謀と言うべきなのか、家屋程あるドラゴンに単身挑む女性の姿を二人は見た。
この時、陽も月紫もある既視感を覚える。
「この村、この状況、確かアストラルオンラインの序盤のストーリーで……」
「覚えてる。幼なじみのミリアって子が死んじゃうイベントシーンだ!」
やはり、ここはアストラルオンラインの世界なのか?
陽の疑問に応える者はいない。
結論を出すよりも先に、ドラゴンがミリアを翼で打ち、吹き飛ばす。
それを見て、陽はいかに迅速に村を、そしてミリアを助けるかを考え、そして、迷うこと無くゲームではない世界で、初めて相対するドラゴンと戦う事を決意した。
「ライトニングボルト!」
発動が速い雷撃系の魔術、これでもってドラゴンの気を引きつけ、月紫と二人で戦う。
事実、陽の魔術はドラゴンに命中し、発動速度優先の速射ではあったが、確かにダメージを与えた。
あとは村の外までおびき出す。
つもりだったのだが。
「私、死にイベントって嫌いなの!!」
「ちょ! 待て月紫!!」
この時、月紫を制止しようと、陽は腕を伸ばしたが、それよりも速く、月紫は、村の入り口からドラゴンの元まで跳躍していた。
距離にして十数メートル。
普通の人間ならまず跳べない距離を月紫は軽々跳んでみせ、そして。
「オオアアア!!」
ドラゴンの横っ面に自慢の拳を叩き込んだ。
「あ、あー。狂化かあ」
しまった~、そうだった月紫のアストラルオンラインでの戦闘スタイルを忘れてたわけじゃ無いけど、現実にパッシブスキルが発動した場合の事を想定してなかった。
赤黒い影に包まれた月紫の姿に、アストラルオンラインでの月紫のキャラの姿を思い出す。
ゲームならキャラクターを操るのはあくまでもプレイヤーだ。
いくらスキルで狂化されようが、状態異常になろうが、最悪死んでも、それはプレイヤーの分身であるキャラクターに起こる事であって、プレイヤー自身に起こる現象ではない。
狂化していても操るプレイヤーは理性を失わない。
状態異常になってもプレイヤーは健常なまま。
キャラクターが死んでも、プレイヤーはもちろん死なない。
しかし、ここでは違う、ゲームにおけるキャラクターという存在が自分自身なのだ。
月紫は今、本当に理性を失い、あのドラゴンを叩きのめしているという事になる。
「狂化の発動条件は一定以上のダメージを受けるって物だったけど、ここじゃ違うのか。
こうなったらドラゴンは月紫に任せるか」
ドラゴンの腹に深々とアッパーを突き刺す月紫を見て、陽はため息を吐くと、一直線にミリアが吹き飛ばされた民家へと急いだ。
「月紫も言ってたけど、俺も誰かが目の前で死ぬとこは見たく無いんだ、君がミリアであろうと無かろうと、絶対助けてやるからな」