テスト3
「ソウマ! お前サークル辞めたんだって?」
講義の終わった4時半過ぎ。
大学の門から出ようとした僕に、そんな声が掛けられた。
バンドで一緒だった『コウイチ』と『ミカ』がそこにいた。
練習時間が迫っているからか、二人とも楽器を持っている。
「辞めた、というかクビだよ。昼休みも部室に入れてもらえなかったし」
「そっか。お前も許されなかったんだ」
「お前『も』ってどういう事?」
二人ともサークルには行かないんだろうか。
ノンビリしている余裕は無いはずなんだけど。
「ねぇ、二人はもしかして……」
「おうよ、本日付けで辞めてやったぜ!」
「私も同じく。あんな私物化されたバンドなんか全ッ然楽しくないもの」
「僕は嫌われてたけど、君たちは睨まれてなかったじゃない。どうして急に?」
僕の目から見ても、2人は上手く馴染んでいたと思う。
というよりも僕が酷すぎて、他の人たちが目立ってなかっただけかも。
「ソウマの扱いに腹が立ってな。2人で直談判したら大ケンカだよ」
「あいつマジでムカつくんだけど。『そもそもパーカッションなんて要らない』なんて言ってたわ!」
「オレも捨て台詞もらったな。『ギター弾きなんて腐るほど居る』だってさ」
コウイチはアコースティックギター、ミカはジャンベという珍しい打楽器を担当している。
経験の浅い僕には、他パート人の腕の良し悪しなんてわからない。
でも2人で練習している時の楽しそうな姿は、とても印象的だった。
いつか僕もあそこに混ざりたい……なんて思ってたっけ。
「それでさ、気晴らしにセッションしてかない? 飛びきり大きな音出して遊ぼうよ」
「でもどこでやんだよ? 大学のスタジオは入れてくんないだろ」
「外の借りればいいじゃない。カラオケ行くくらいのお金で2時間いけるわよ」
「アッハッハ、今月は負けがこんでてなぁ」
コウイチはドアノブを捻るような仕草を見せた。
それは彼のもう1つの趣味だった。
講義には全く出ずに、頻繁に通ってるみたいだ。
「あのね、あんまり注ぎ込むと依存症になっちゃうわよ? それって他人事じゃないからね」
「大丈夫だ、まだ家賃に手を出してねぇからな!」
「あー、これはダメなパターンね……。お金なら貸さないからね」
「まぁまぁ、その話はこの辺にして。金掛けないでやろうぜ。公園とかでいいじゃん」
「たぶん怒られるわよ。この辺の公園は、住宅街のど真ん中にあるんだもの」
2人も良い練習場所は知らないようだった。
意見を出し合いながらも、必ず何かがネックになっている。
僕は顔色を窺いながら提案してみた。
「僕は良い場所を知ってるんだけど、良かったらどうかな?」
僕たちは楽器を持って移動し始めた。
道すがら雑談、とはならずに愚痴の言い合いになっている。
「全く、なんなのよアイツ! ちょっと気にくわない音を見つけると『今出した音に根拠はあるのか?』とか煩すぎるのよ!」
「あー、言う言う。本人の演奏は『有名なフレーズ』のツギハギなのにな。それでご満悦なんだからアホすぎるな」
「思い出したらまたムカついてきた! ソウマくん、あんなヤツの言うことなんか気にしたらダメなんだからね!」
2人とも逞しいなぁ。
昨日の僕はというと、途方に暮れるだけで陰口を叩く余裕は無かったよ。
「見て、あそこなんだけど」
土手に着いた僕は、草むらの廃屋を指さした。
昨日と変わらないままそこにある。
正直言って、もう一度あの場所に行ける保証はない。
だから2人を連れてきたのは、半分こじつけだった。
あれが夢だったのか、現実だったのかを確かめたくて仕方がなかったんだ。
僕は先導するように小屋へと歩き始めた。
昨日見た、不思議な少女の事を思い浮かべながら。