#07-02 とある兄妹
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学園にある部室、“魔術派”の部屋に集まった3人の男女。
一人は4年生、現行リーダーのトウキ・ノースウィンド。
そして、妹のトウカとレイカ。
「やっと、表側に出てきたか、レイト」
「……嬉しそうですね、お兄様」
「当たり前だろう。ルナフォードが巧妙に隠していた弟の存在をやっと確認できたんだぞ。10年は長かった……父の言う通り本当に死んだのかと思っていたが、オレよりも賢いアイツがそう簡単に死ぬわけがないと信じていた」
「私には死んだ、としか伝えられていなかったのですが?」
少しいらだった声でトウカが返す。
「そう怒るな。オレだって、あの晩――レイトが殺されたことになっているあの日に、あいつの部屋で気を失ってから会ってなかった」
「……その話は初耳ですが?」
「父はレイトの部屋に睡眠の香を焚いて、眠らせたのちに魔の森に捨てに行ったらしいな」
「そんな……!?」
「まあ、それはいい。報いは確実に受けてもらう。というよりも、もう受けることになっているかもしれないがな」
昨年発表された魔力の新測定方式では、兄妹三人とも精霊との相性がかなり低いという事が判明した。その際に、学院長であるシンシアが笑いながら言ったのだ『まるで他の兄弟にその才能をすべて奪われたかのようね?』、と。
その時点から、自分の犯したミスに気付いたナダレ・ノースウィンドは、必死になってレイトの生きている証拠を探していることをトウキは知っている。
「今更、レイトに対して何をするというのだ」
「本当に人間の心の分からない人ですね……」
「今度こそはなんとしても妨害してやるが」
「あの、お兄様、お姉様、私少し混乱しているのですけど」
「ああ、質問があるならしろ」
「まず、死んだと聞かされていた、私のもう一人の兄、は生きている、という事でよろしいのですか?」
「ああ、レイト・ルナフォードがオレたちの兄弟だ」
「なぜそんなことに?」
「レイトは生まれながらにして魔力がなかった――今思えば、負の魔力が異様に高かっただけかもしれないけれど、そのせいでお父様がレイトを捨てたの」
「……は?そんな、わけのわからないことを?」
「レイトは髪も眼も色がなかったから、家に置いているだけで嫌だったのでしょう」
「6歳の誕生日の晩に、レイトは捨てられ、そのあとどういうわけかルナフォードに拾われて今まで生きてきたというわけだろう。これで理解できたか?」
「はい、おおよそは」
「それでは、今後の話だが――父上は確実にレイトを取り戻そうとするだろうな。オレなら絶対に戻らないが」
「私としても弟が戻ってきた方が嬉しいけれど、流石にそれは虫が良すぎるわね」
「アレの動きはオレが見張っておく、お前たちには別のことを頼みたい」
「別の事?」
「まずは、トウカ。今年から魔術派を率いろ」
「え?本気ですか?」
「ああ。オレももう4年だ。いつまでもここに座っているのはおかしいだろう。それと、レイカ、お前はなるべくレイトの傍に居ろ」
「え?あ、はい!」
「たぶん、分家の奴らが余計なちょっかいを掛けてくるだろう。お前がいれば表だって事は起こさないだろうし」
「それ以前に自分たちが男爵家で公爵家に余計な手を出したらどうなるかなんて目に見えてると思うんだけど」
「アイツらは本当に無能だから仕方あるまい。あと、レイカは後々レイトの側室として押し込む」
「はぁ!?」「えええ!?」
「嫌か?」
「嫌、ではないですけど……いいんですか?血縁あるんですよ?」
「子供は、まあ、後々考えるが、諸々の問題が片付いた後に、公爵家への恭順を示すのにこれが一番わかりやすい」
「私ではだめなの?」
「お前はレイトより年上だろうが」
ため息をつきつつ、トウキが席を立つ。
「それでは、後は任せる」
「新人戦は?」
「どうせ勝てん。なんなら出なくていい」
「わかった。適当に調整しておくわ」
「私もそろそろ教室に戻ります。ホームルームが始まりそうですし」
「そうね、急いだほうがいいわ」
「ここでのことは、くれぐれも父上にバレるな」
「わかったわ」「わかりました」
「あと、レイカ。これをレイトに渡しておいてくれ」
「あ、はい」
レイカは手紙の入っているであろう封筒をトウキから受け取る。
「頼んだぞ」
「承知しました」