『冬の約束~鶴の恩返しより~』
「待ってくれぇーぃ!」
男は鶴に転じた妻を追う。あっ!と彼は蹴躓き雪道にもんどり打つ。
そうする間に、鳥は夜空へ飛び去ってしまった。
「おぉおぅ……ぅ」情けなく鼻水を垂らす。男は雪に足を取られながらも、前へ進んだ。
そうして、男は辿り着いた。ここで罠にかかった鶴を助けたのだ。冬の星々はあまりにも美しく、野は凍える。
男はうずくまり、只ひたすらに妻へ詫びた。
どれくらいたっただろうか。朦朧とする意識の中、男はあったかいものにつつまれた。
「お前さんは、本当にもう」
女が、男を抱いていた。
「鼻水を凍らせて……おかしな顔を」
頬や鼻を真っ赤にした夫へそう言いながら、涙を浮かべる。
ふたりは、おいおいと泣いた。
「鶴でも、よいのですか?」
「オラはお前がいい。お前こそ、オラでいいのか」
「弱虫、嘘つき、馬鹿」
女の言葉に男は項垂れる。「んだ……オラ、馬鹿だ。意気地無しの約束破りだ……」
「お前さんは正直者だ。優しい馬鹿だ」女は鶴の眼で男を視る。
「人間とはそういうものなんだねえ。そこが好きになって、そう思うしかないようだ」
「オラが悪かった。謝る。すまん!」
「次、約束を破ったら」
「う、ん」
「嘴で脳天をつっついてやる。わかったか」
「お、おお。ん!オラ、それがいい!」
それを聴いた女は目をまん丸くして、笑った。
「お前さんが大好きだ」
こうしてふたりは村へ帰り、いつまでも仲良く暮らましたとさ。
めでたしめでたし。
(おわり)
拙作をご覧くださりありがとうございました。