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使徒戦記  作者: タンバ
第三章 マグドリア編
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第一話 厄介な親戚・続

 


「お金が必要よ」


 ちょうど十月を迎えた頃のことだった。

 アリシアがそんなことを言い出したのは。


 季節の変わり目だし、唐突に思い立つこともあるだろうと聞き流していたのだけど。


「だから協力しなさい」


 まさか協力を要請、もとい命令されるとは。


 戦費のせいでブライトフェルン侯爵家にも余裕がないらしい。

 元々、ブライトフェルン侯爵家は金持ちの家ではない。


 歴史は古く、由緒ある家系ではあるものの、多くの貴族たちとは違い、私腹を肥やさず、王家のため、そして民のために家の力を使うことを惜しまないからだ。


 私財に関してはかなり保有しているが、それでも戦費がかさめば消えていく。

 そこらへんをアリシアは危惧したんだろう。


「もうあの成金女に金の力を見せつけられるなんて、真っ平よ! こうなったら、ブライトフェルン家も大規模事業で金を溜めてやるわ!」


 危惧したんだと思いたい……。


「で? どうするつもりだ?」


 場所はクロスフォード伯爵家の屋敷。

 

 部屋には俺とアリシアのほかに、セラとリカルドがいる。

 どちらも本に視線を向けて、我関せずを決め込んでいる。


 アリシアが何かするときは、いつもこうだ。

 お前の仕事だろ、と言わんばかりにみんなが面倒事を押し付けてくる。


 なぜだ。


「うちの領地で古代遺跡が発掘されたわ。そこにある魔道具を売り払うの!」


 また豪快なことで。


 けど、一番手っ取り早いのは間違いない。

 古代遺跡から発掘される魔導具はほぼ例外なくオーパーツだ。


 誰もが喉から手が出るほど欲しい。


 しかし、だ。


「国の調査団とか来るんじゃないのか?」

「そこらへんは我が侯爵家を信用してもらったわ。発掘はこちらがすべて負担。魔道具売却の際の売上の内、三割を国に納めることで話がついてるの」


 自信満々に言うが、古代遺跡に必ずしも魔道具があるとは限らない。

 それを知っているから、国は発掘をブライトフェルン家に押し付けたのだ。


 どう転んでも損をしないように。


 けど、そんなことがわからないアリシアじゃないだろう。


「魔道具はありそうなのか?」

「厳重なトラップで守られているし、かなり貴重な物が眠ってることは間違いないわ」


 なるほど。

 それで強気なわけか。


 しかし、そうなるとあとの展開は予想がつく。


 わざわざそんな作業中に、このクロスフォード伯爵家を訪ねてきたのは。


「ということで、発掘に協力しなさい。ちゃんと報酬は払うから」

「だそうですよ。父上」


 アリシアは俺に頼んでいるわけだが、家長は俺ではない。

 そもそもそんな面倒事に巻き込まれるのは御免だ。


 ブライトフェルン家の財政が芳しくないのは、クロスフォード伯爵家としても深刻な問題だ。

 だが、古代遺跡の発掘なんて危険極まりない事業に参加するなんて、遠慮したい。


 したいのだが。


「そうだね。まぁ、侯爵に顔を見せるついでに手伝ってきたらどうだい?」


 この父は、お爺ちゃん家の手伝いくらいなノリでそう言いやがった。

 大量のトラップを解除していく作業が、危険であることなんて、百も承知だろうに。


「ち、父上? 我が家に俺を貸し出す余裕があるとは思えないんですが?」

「平気だよ。僕らでどうにかするから」

「さすがおじ様! 話がわかるわ」

「待て! 勝手に決めるな! セラ! なんとか言ってくれ!」


 リカルドは役に立たないため、セラに視線を移す。

 けれど。


「ブライトフェルン侯爵にはいつもお世話になってる。戦費がかさんでるのも、国を勝利に導くため。他人事じゃない」

「おい、妹よ。なら、なぜ他人事のように言う? 当然、一緒に来るんだろうな?」

「私は行かない。レグルスで疲れた。そもそも遺跡の発掘なんて、私は足手まとい。行くだけ無駄」

「いやいや、色々あるだろ? 探知魔法で内部を探るとか、後ろで発掘隊を指揮するとか」

「遺跡の内部は、魔法を阻害する術式が組み込まれていることが多い。それに指揮も必要ない。ユウヤとアリシアで十分」


 この妹はっ!


 ああ言えばこう言って。

 口だけは達者になりおって。


「待ってくれ。俺もレグルスで疲れた。というか、俺が一番疲れたはずだ。そうだろ?」

「ユウヤは丈夫だから大丈夫。私とは違う」

「セラ。兄も人の子なんだぞ?」

「私の兄なら平気。アルシオンの銀十字とか言われてるし」


 完全に見捨てるつもりなセラは、一切情けを見せない。

 こういうときのセラに付け入る隙はない。


「はぁ……」

「観念したようね」

「どうしてお前が偉そうなんだ……」

「というわけで、ユウヤを借りていきますね。おじ様」


 俺の抗議に耳を貸さず、アリシアはリカルドに許可を求める。

 くそっ。

 我が家に味方がいないとは。


 悲しいなぁ。


「どうぞ。無事に五体満足で返してね」

「はい」

「アリシア、ユウヤ。お土産お願い」

「わかったわ。ユウヤに何か持たせるから」

「俺は悲しいよ……」


 自分で自分が哀れに思う日が来るとは。

 どうして俺の周りにはこんな奴らしかいないんだろうか。


 ああ、癒しが欲しいなぁ。


 俺に無条件で優しくしてくれる子とかいないかなぁ。

 できれば使徒じゃない子がいいなぁ。


 使徒は全員、我が道を行く奴ばかりだし。


 ああ、もう一層の事、募集かけようかな。

 癒し求む、みたいな感じで。


「なに現実逃避してるのよ。さぁ、行くわよ!」

「もうかよ!? ちょっとは準備させろよ!」

「時は金なり、よ! 思考を切り替えなさい! これは戦争なの! 少しの遅れが命を落とすと思いなさい!」


 鬼軍曹みたいなことを言うが、所詮は金儲け。

 しかも遺跡は逃げたりしない。


「はいはい、急がせていただきますよ。とりあえず、紅茶でも飲んでてくれ」

「だから、急ぎなさいよ!」

「できるだけ急ぐよ」


 騒ぐアリシアを置いて、俺は部屋を出た。

 さて、どうしたもんかな。


 前回のレグルスでの事件でわかったことがある。

 俺はトラブルに愛されている。


 俺がトラブルメイカーというわけじゃない。それは断じて違う。

 しかし、トラブルが俺に寄ってくることは事実だ。


 マグドリアでの戦争にせよ、レグルスでの事件にせよ、気付いたら中心にいた。

 今回もそうなる可能性がある。

 なにせ古代遺跡だ。


「……考えすぎか。ブライトフェルン侯爵領から出なければ平気だろうし」


 トラブルの原因は基本的に使徒だ。

 使徒と関わらなければ問題はない。


 そう判断して、俺は自室に行って、旅支度を始めた。











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