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使徒戦記  作者: タンバ
第二章 レグルス編
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第九話 風の神威

定期的に更新できずすみません

 8月15日。


 王都イザークの中心にあるレグルス王の居城。

 名は獅子王城。


 その最上階にある玉座の間にレグルスの有力者が続々と集まっていた。


 レグルス王国は使徒直属の騎士団以外にも軍を抱えている。

 当たり前のことではあるけれど。


 それぞれ数万の兵団を指揮し、使徒が戦場に到着した際には使徒の補佐役を務める将軍たち。


 その大半が集まっていた。


 文官側には大臣たちも集まっており、たかが挨拶なのに仰々しすぎる。


 加えて。


「私の傍に寄るな」

「そりゃあ、あたしの台詞だ。脳筋が移ったらどうすんだよ」

「なにぃ?」

「ああん? やんのか?」


 三人の使徒の内、二人がそろっている。

 国境守備につく使徒が、王都で同時に揃うことは非常に稀なことらしい。

 そういう点では珍しい光景を見ているんだろうが、どう見ても友人同士の喧嘩にしか見えない。


 一度、二人が喧嘩しているところを見たせいか、俺は落ち着いているようだ。


 大臣も将軍たちも冷や汗がダラダラと流しているけれど。


 しかし、場所というのを弁えない二人だ。


 二人とも無理やり侍女たちに着せられたのか、ハッとするほど綺麗なドレスに身を包んでいる。

 黙っていれば、使徒にふさわしい気品も漂うだろうに。


「お二人とも……その、もう少しお静かに……」

「なんか言ったか? 吹き飛ばすぞ!」

「ひぃぃ!! 申しわけありません! 申しわけありません!」


 意を決して声をかけた大臣が、体を小さくして仲間たちの下へ戻る。


 老齢の大臣が孫みたいなレイナに一喝されて逃げる姿というのは、何というか、可哀想だ。


 そんなこと思っていると、俺の横にいたフィリスが小声で俺に話しかけて来た。


「ユウヤ」

「はい。何でしょうか?」

「お二人を止められるかしら?」

「無理です」


 即答して首を横に振る。

 昨日は何とか止められたが、あれは無理やり距離を取らせたからだ。


 ここではそんな真似はできない。

 なにしろ、二人とも使徒であり、公爵だ。

 下手したら即刻、首を刎ねられる。


 そうなると言葉で止めることになるが、そんなのは不可能だ。

 どう考えても無理だ。


 あの二人は人の話は聞かない感じの人間だし。


「けれど、これではいつまで経っても始まらないわ」

「王が来ればやめると思いますよ」

「それまでお二人を放置するの?」

「放置以外に手がありますか?」

「それを探してと言っているの。さすがにこのままだと会談の雰囲気が保てないもの」


 それはそうなのだけど、俺が被害を受けるのは御免被りたい。


 顔を突き合せれば喧嘩している二人だ。

 どう考えても性格的に相性が最悪なんだ。


 何か理由があって喧嘩してるわけじゃない。

 互いに何となく相手が気に食わないから喧嘩してるんだ。

 理由がないから止められないし、一番いいのは二人を一緒にしないことだ。


 けれど、残念ながら使徒の立ち位置は決まってる。

 それはレグルスの儀礼方式だ。

 変えられない。


 というか、会談の雰囲気を気にすべきはレグルス側であって、俺たちじゃないはずだ。

 俺たちはあくまで客人。


 使徒を止めるべきは、レグルスの人間たちのはずだ。


 そう思いつつ、将軍たちの方を見たら、視線を逸らされた。

 大臣たちも同じくだ。


 申しわけないとは思っていても、止める術がないといった感じか。


「さぁ、ユウヤ。頑張って。応援しているわ」

「他人事みたいに言わないでくださいっ」


 だが、フィリスは俺の言葉を取り合わない。

 もう完全にお任せモードだ。


 視線だけで俺を動かそうとしてくる。

 くそっ。流石王女というべきか。

 人に何かやらせることに慣れている。


 そうは思いつつも、さすがにこのまま放置するわけにもいかない。

 エルトとは親しいし、レイナとは一応、顔見知りだ。


 もしかしたら止められるかもしれない。


「オースティン公爵」


 俺の声に反応して、レイナが振り向く。

 今にも嚙みつかんばかりの表情だったが、俺の顔を見て幾分か和らぐ。


「なんだよ。アルシオンの銀十字か。どうした? あたしはこいつの相手で忙しいんだ」

「ユウヤ。この女と話しても得することなんてないぞ。止めておけ」


 エルトが首を横に振って、俺の行動を止めようとする。

 俺も怒っている人間に話しかけるなんてしたくはない。

 ましてや相手は使徒だ。


 けれど、注意をこっちに向けなきゃ、二人が喧嘩を止めそうにないのだから仕方ない。


「王が来るまでの間、私に公爵の神威についてお教えいただきたいのです。お恥ずかしながら、自国の使徒であるウェリウス大将軍にもお会いしたことがないもので。ロードハイム公爵の神威しか知らないのです」

「へぇ~、神威に興味あんのかよ。ってか、この女の地味な神威しか知らないってのは可哀想だな」

「ふん、お前よりはマシだ」


 そう言いながらエルトが顔をそむける。

 どうやら、この話題はエルトにとって分の悪い話題らしい。


 エルトの神威は非常に高性能で使い勝手がいいものだが、防御に偏った性能のため、確かに使徒の神威としては地味だろう。


 それをエルトも自覚しているということか。


「いいぜ。簡単にあたしの神威を説明してやる。別に隠すことでもないしな」

「ありがとうございます」


 レイナはニヤリと笑うと、スカートをたくし上げる。

 その瞬間、この場の全員がギョッとした表情を浮かべた。


 しかし、腿に括り付けていた短剣を取り出すと、スカートを持ち上げたまま笑う。


「なんだよ、その顔! あたしが下着を晒すとでも思ったか? しかし、その反応だとアルシオンの銀十字も子供だな。あたしの色気にやられたりすんなよ?」


 そう言いながらレイナはスカートを下ろしたりしない。

 こっちの反応を見て楽しんでるのだ。


 綺麗というよりは可愛い分類に入るレイナは、小柄であるし、色気という点ではエルトとは雲泥の差がある。

 といっても、さすがに直視できないので視線を逸らす。


 だが、いつまで経ってもレイナは止める様子もない。

 これはしっかりと目を見て、話しを進めるべきか。


 そう思ってレイナに視線を移したとき、横にいたエルトの手が動いた。


 ヒョイっとエルトの腕が上がる。

 レイナのスカートを巻き込んで。


「いっ!?」

「あっ!?」


 俺とフィリスが小さく声を上げた。

 細く引き締まった足はもちろん、緑色の下着までがバッチリと視界に飛び込んできた。


 スカートが力なく落ち、真っ赤になったレイナの顔が見えてくる。


「男を誘惑するなら、これくらいやらないとな。お前はただでさえ、肉付きが少ないのだから」

「え、え、え……」

「ん? どうした? ユウヤを誘惑してたわけじゃなかったのか? いやぁ、済まない。いつまで経ってもスカートを下ろさないから、てっきりユウヤを誘惑しているのかと思ったぞ」

「……このっ! ぶっ殺すぞ!」

「いいのか? ここで派手に動くとまた下着を衆目の目にさらすことになるぞ? それとも見せたいのか?」


 ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて、エルトは告げる。

 それに対して、レイナは何度か肩を震わせてから、乾いた笑みを浮かべる。


「ふっふふふ、甘いんだよ!!」


 そう言ってレイナは右手を大きく振り上げる。

 てっきりエルトのスカートでも捲り返すのかと思ったけれど、距離が遠い。


 だが。


「えっ!?」


 レイナが腕を振り上げた瞬間、周囲に風が吹いた。

 その風はエルトの傍では特に強く、スカートを揺らす。


 ただし、揺らすだけだが。


「ふん。甘いのはどっちだ。同じ手を二度も食うか!」


 エルトの周囲には光る粒子が浮かんでいる。

 光壁を使って、レイナの風を防いだんだろう。


 しかし、同じ手ということは過去にスカートをめくられたことがあるということだ。

 今回はその意趣返しというわけか。


 なんて神威の無駄使いだ。

 アルシオン王国の人間が見たら卒倒しかねない。


「フィリス殿下?」

「大丈夫! 危なかったけど、ギリギリ大丈夫だったわ!」


 焦ったように告げながら、フィリスはスカートから手を離さない。

 レイナの風の余波を食らったわけか。


 どうやら視線がエルトとレイナに向いている間に、フィリスも崖っぷちに立たされていたらしい。


 救いは俺以外の視線も二人に注がれていたことだろう。


「このっ! スカート守るために神威を使うなんて聞いたことねぇぞ!」

「私もスカートめくりに神威を使うなんて聞いたことはない!」


 二人が唸り声を上げて睨み合う。

 完全に子供の喧嘩だ。


 神威が使えるのに、しょうもないことにしか使わないあたり、子供の喧嘩だ。


「今の風がオースティン公爵の神威ですか?」

「そうだ。スカートめくりにしか使えないがな」

「てめぇは黙ってろ!! その通り! あたしの神威は暴風ウィンド。この馬鹿と違って、攻撃にも防御にも使える万能な神威だ!」


 そう言ってレイナは持っていた短剣を浮かばせる。

 そして自分の前で変幻自在に飛ばし始めた。


 かなりのスピードが出ている。

 下手な剣士の斬撃より速いだろう。


 あんなので攻撃されたらたまったもんじゃない。

 背後からの奇襲や、上空からの攻撃もあり得る。


 剣を風で受け止めることもおそらく可能だろう。

 確かに、攻防一体の神威だ。


「どうだ? 感動したか?」

「とても」

「なんだ。そんなにレイナの下着が見れたのが感動したのか? 色気のない女が好みか?」

「おいぃ……本当に殺されてぇのか? てめぇは」


 二人がまた一触即発状態に陥る。

 まぁ悪いのはエルトだけど。


 それゆえに性質が悪い。

 レイナには報復する理由がある。


 止めようにも止められない。

 なにせ恥をかかせたのはエルトだ。


 エルトが同じことをやられたら、間違いなく剣を抜く。

 まぁ、同じことをやられたからやり返したんだろうけど。


 そんなことを思っていると、玉座の間に入ってくる人物が現れた。

 遅い登場だ。


 普通ならば使徒であるエルトとレイナより遅くに入ってくるのは、王か、同格の使徒以外ありえない。


 振り返ると、黒いローブに身を包んだ少女がいた。


 年齢は俺より一つか二つ上だろうか。

 三つ編みにした茶色の髪とそばかすが特徴的な少女だ。


 なんというか、地味だ。

 本当に第一印象はこれしかない。


 エルトのような華々しさがあるわけでも、レイナのような可愛らしさがあるわけでもない。


 とことん地味だ。

 町ですれ違っても絶対に振り返ることはないだろう。


 しかし。


「なんだ。てめぇも来てたのかよ。ディアナ・スピアーズ」

「アークレイムも撤退しましたから。お久しぶりですね。エルトリーシャ、レイナ」


 ここまで使徒と対等に話す以上、彼女、ディアナ・スピアーズはレグルスが誇る三人目の使徒であることに間違いはない。


 ちょっと衝撃だ。

 見てきた使徒はみんな美形だった。


 だから当然、三人目の使徒も美形なんだろうと思っていたのだけど。


 まさか平均以下の容姿の持ち主とは。

 だからどうだということはないし、レグルスの使徒である以上、強力な使徒だということはわかる。


 ただ、男としてちょっと残念なのは否めない。


「フィリス殿下にクロスフォード親善大使ですね。私はディアナ・スピアーズと申します。アークレイム方面を担当する使徒です」


 そう言ってディアナは俺とフィリスに挨拶する。

 そしてそのままディアナは俺の横を通り過ぎて、エルトたちの下へ向かう。


 その瞬間。

 俺はなんとも言えない違和感を抱いた。


 ただ、それは王の登場で一旦は立ち消えることとなった。


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