プロローグ
流れに身を任せるのは簡単だ。
逆に、流れに逆らうのは困難だ。
ましてや時代の流れに逆らうというのは並大抵のことではない。
多くの人が見ている方向とは別の方向を向けば、白い目とバッシングを一斉に浴びる。
だが、それでも! と歯を食いしばる人がいるならば。
そんな人たちを助けてあげたいと思う。
それが力を持った者の義務なのだろうと思うから。
「あの国はもう終わりだ! お前が行くだけ無駄だぞ!?」
そう言うのはエリオット王子。
その横にはフィリス殿下もいる。
二人は俺が止まることを望んでいる。いや、二人だけじゃない。
国の要職につく者たちはみんなそれを望んでいる。
だがしかし。
「無駄でも行くと決めました。兵は一兵もつれていかないのでご安心ください」
「安心できるわけないわ!? 今から行くのは多数の小国を敵に回した国なのよ!?」
俺が行こうとしているのは、地図上で見ればアルシオンの上。
小国が密集している地域だ。そこの一国が複数の国によって滅びようとしている。
俺はそこに行くと言っているわけだ。
止めるのはわかる。
わかるが退くわけにもいかない。
もう決めたことなのだ。
「お二人にはご迷惑ばかりかけて、本当に申し訳ないと思っております。ですが、これまでの武功に免じてお許しください」
そう言って俺は頭を下げると、その場を後にする。
着慣れた青いマントも、二人の使徒から貰った魔剣もない。
俺は何者でもない者として、戦地に向かうのだから。
こんなことになっているのもマグドリアのせいだ。いや、テオドール・エーゼンバッハのせいか。
奴が仕掛けた策のせいで、大陸の情勢は一変してしまったのだ。
ただそれでも流れに逆らう人たちがいる。
その人たちのために俺はアルシオンを離れることを決意したんだ。
たとえそれが愚かな選択だったとしても。
行かなければ後悔すると知っているから。