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使徒戦記  作者: タンバ
第三章 マグドリア編
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エピローグ アルシオンに帰りたい



 気づくと俺はベッドの上に寝ていた。

 体を起こすと、横に人の気配を感じた。


 見ればレイナが椅子に座って眠っていた。

 どうやら付き添っていてくれたらしい。


「自分も疲れてるだろうに……」


 苦笑しつつ、体を伸ばす。

 神威の反動で筋肉痛になるのはさすがに慣れてきた。


 だから平気ってことはないけれど、数週間も眠るなんてことはもうない。

 感覚的に眠っていたのは一日くらいだろうか。


 単純に寝不足と疲労だろうな。


「どうにかなったか……」

「そうね。ちょっと頑張りすぎだけど」


 言葉が返ってくるとは思わなかったため、軽い驚きとともに扉を見ると、そこにはアリシアがいた。

 その手には毛布がある。


 たぶん、寝ているレイナ用だろうな。


「よう、元気か?」

「ユウヤよりは元気よ。後方にいたもの」


 言いながら、アリシアは静かにレイナに近寄るとそっと毛布をかける。

 そして少し考えたあと、ベッドに腰かけた。


「状況は?」

「まずそれを聞くあたり、ユウヤもだいぶ毒されてきたわね。戦に」

「ああ、俺もそう思うよ」


 昔ならあり得ない。

 俺は変わったんだと思う。


 ま、それを考慮しなくても共に戦った者たちの状況は気になる。


「ユウヤが寝ていたのは丸一日よ。エルトリーシャ様率いる二万が要塞に入って、守備は万全。要塞内にいた兵士たちはみんな休んでるわ。ただ……レイナ様だけは休んでくれなかったんだけど、さすがに疲労には勝てなかったみたいね」

「使徒も人間だからな。それでアリシアは兵士たちの世話か?」

「できることをやると決めたの。戦に参加できなかったし、参加するだけの力がないこともわかってるわ。だけど、必要とされてないわけじゃない」

「前向きだな。ま、良いことだけど」


 戦に参加できなかったことは、アリシアにとって悔しくて仕方ないことなんだろうな。

 優秀だからこそ、何もできない自分に苛立ったはずだ。


 けど、それでもやれることをやるあたり、メンタル的に強い奴だ。

 そうでなくちゃ、ブライトフェルンの跡取りは務まらないんだけど。


「落ち着いたら、私たちはアルシオンに帰れるわ。ようやくね」

「そうだな。まさかここまで長い滞在になるとは思わなかったぜ」

「本当よ。当分、遺跡は懲り懲りだわ。ついてなかったわね」

「まったくだ」


 同意しつつ、すべての原因はアリシアだったことは指摘しない。

 そんなこと言ったら、魔剣を持っていた俺が悪いとか、色々と言われかねないからだ。


「あ、そうだ。エルトリーシャ様とレイナ様が報奨金をくれるらしいわよ。私とユウヤに。半々でいいわよね?」

「待て。いくら何でもおかしいだろ? 俺は死に物狂いで戦ったんだ。八くらいよこせ」

「がめついわね。そういうこと言ってると長生きできないわよ?」


 がめついのはどっちだ!

 思わず声を大にしそうになったが、レイナが寝ているため、それはなんとか押さえる。


 こいつ、よく半々とか言えたな。

 もはや神経を疑うぞ……。


「じゃあ私が四でいいわよ。感謝なさい」

「納得いかねぇ……まぁいいや。金に興味はないしな」

「それが不思議なのよね……。じゃあユウヤは何に興味があるの?」

「世の中、金がすべてだと思ってるのか、おのれは?」


 お金って大事でしょ? とアリシアは茶目っ気たっぷりな笑顔を見せる。

 そりゃあたしかに大事だが、ガツガツと集めるのもどうかと思う。


「はぁ……あ、そういえばフェルト・オーウェルとの見合い話はこれでなしな? 金が稼げたんだからいいだろ?」

「ああ、そういえばそんな話もあったわね。あの女の悔しがる顔が今から楽しみだわ」

 

 悪そうな笑みを浮かべるアリシアは、どう見てもいじめっ子だ。

 今回に関してはそこを突っ込む気にはなれないけれど。


 なにせ、俺のお見合いと引き換えに融資を持ち込む家だ。

 同情はできない。


「さてと、私はもう行くわ。レイナ様を見ていてあげて。この人、騎士や兵士を一人一人訪ねて回ってるのよ? このままじゃ体壊しちゃうわ」


 そう言ってアリシアは部屋を出ていく。

 そして扉が閉まる音に反応して、レイナが身じろぎする。


 薄っすらと目を開けたレイナは、寝ぼけた様子で俺を見てくる。


「……ユウヤ……?」

「おはよう。付き添っててくれたんだってな。ありがとう」


 礼を言うと、レイナはしばらくボーとしたあと、ようやく覚醒を果たす。


「い、いつから起きてたんだよ!?」

「ついさっきだ。まだあちこちが痛いんだよなぁ」

「だ、大丈夫なのかよ……」

「平気さ。それより、レイナは平気なのか?」


 体のこともあるが、精神的なことのほうが心配ではある。

 勝つには勝ったが、犠牲も大きかった。


 家族ともいえる騎士たちを多く失ったんだ。

 そのショックは相当なものだろう。

 だが。


「正直辛い……。けど、それ以上に誇らしい気持ちだ」

「誇らしい?」

「ああ……騎士たちのところに行くと、必ず言われるんだ。お見事でした、って。それが……そんな言葉がとっても誇らしい……おかしいかな?」

「お見事でしたか……騎士たちらしいな」


 レイナのことをよく知る騎士たちは、レイナが取るだろう選択もわかっていたんだろう。

 それに反して、レイナは戦うことを選んだ。


 自らと騎士たちのことだけじゃなく、国の使徒として犠牲を顧みなかった。

 それが騎士たちにはうれしかったんだろうな。


 レイナが誇らしいと思うように、騎士たちもレイナを誇らしかったに違いない。


「……今でもこれが正解だったのかわからない。けど、あたしは死んでいった騎士たちに恥ずかしい姿は見せない。決めたんだ。いつか必ずヴォルターと奴の軍に勝ってみせる」

「そりゃあ、デカい目標だな。けど、応援するよ」

「そ、そうか……応援っていうなら……また、一緒に戦ってくれるか?」


 なんだかとっても言いづらそうにレイナが聞いてくる。


 まいったなぁ。

 これは安請け合いできない問いだぞ。


 まぁ、でも。


「機会があればな。辛い戦いだったけど……悪い戦いじゃなかった。レイナとの戦は」

「そうか! そうだよな! なんてったって、あたしだしな!」

「お世辞に決まってるだろ」


 喜ぶレイナに水を差すのは、ほかでもないエルトだ。

 というか、この城でレイナにそんなことを言えるのはエルト以外にいない。


「ちっ! 何しに来やがった? ここは戦友以外お断りだぞ?」

「なら、私は平気だな。なんといっても、ユウヤとは何度も共に戦ってるしな!」

「あたしの戦友以外お断りっていったんだよ!」

「ここはユウヤの部屋だぞ!」

「あたしが奪い取った城だ! なにもかもあたしの権利下にあんだよ!」


 あー、本当にこの二人は……。

 顔を合わせると喧嘩しないのか。


 喧嘩するほど仲がいいとは言うけれど……。

 この二人の場合はどうなんだろうか。


 そんなことを思っていると、部屋に暴風が吹いた。

 マジか!? 神威を使いはじめた!?


「お、おい……」

「そういえば、喧嘩はあとで聞いてやると言っていたな?」

「おい、ユウヤ。あたしの味方すんだぞ? するよな?」


 小競り合いをしていた二人の矛先が俺に向いて来た。


 あー、もう。

 アルシオンに帰りたい……。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

第三部はこれで完結です。


第三部は序盤はアリシア、中盤はレイナ、そして美味しいところはエルトが持っていく部になりましたね笑

当初の予定とはだいぶ違う感じになりましたが、それが小説の面白いところかもしれませんね。


第四部は書き溜めが出来たら投稿しようと思います。


そろそろ文庫版の一巻も発売ですので、そちらも手に取っていただけると幸いです。


では、読んでくれた皆さま。

ありがとうございました。

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