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使徒戦記  作者: タンバ
第三章 マグドリア編
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第二十八話 方策

遅れてしまい、すみません。

ちょっと今回は手こずりました。




 二十六日の朝。

 偵察に出ていた部隊が戻ってきた。


 彼らが持ち帰った情報は、エルトがもたらした情報が正しかったと証明した。


 アークレイム軍がナルヴァ要塞より一日の位置で、マグドリア軍と合流していたという。

 早ければ今日にもナルヴァ要塞の前に姿を現すだろう。


「籠城戦の準備を急がせろ。使える物は何でも用意しろ」

「はっ!」


 レイナの指示を受けて、セドリックがあちこちに走り回る。


 アークレイムが参戦すること、おそらく罠にハマったことなど、レイナは正直に配下の者たちを集めて話した。

 その上で、命をくれとレイナは言った。


 ただそれだけで、軍の士気は格段に上がった。

 普段、頼ることのないレイナの言葉は、予想以上に効果があったらしい。


 もちろん、それはそれだけ危機的状況ということだが、状況を悲観する者は一人もいない。

 全員がやれることをやっている。

 一日でも長く要塞を持たせるために。


「なんとか持たせるにはいくつか手が必要だ。策はあるか?」


 部屋から出ていくセドリックを見送りながら、レイナが問いかけてくる。

 難しい質問だった。


 すでに要塞の利点は消え失せている。

 今のナルヴァ要塞は並みの要塞だ。

 二人の使徒の攻めを一週間も受けるほどの防御力はない。


「受けに回れば、すぐに突破される。こちらから攻めることも大切だ」

「要塞から出るのか?」

「必要なら」

「……騎馬を用意しておくか。他には?」


 こちらの反撃を警戒すれば、向こうの攻めも鈍るだろうが、それも付け焼刃だ。

 問題なのは二人の使徒がそれぞれ独立しているという点だ。


 扱う神威も戦法も違う使徒を二人も相手にするのは苦労する。

 ましてやレクトルの軍には士気など関係ない。

 狂化をかければそれで恐れを知らない狂戦士ができあがるからだ。


「レクトル・スペンサーの軍には脅しは通じない。正確には通じても意味がない」

「噂の狂化か。じゃあ、基本的にはアークレイム側を揺さぶる形になるか」

「そうなるな。向こうにも効くかわからないが、少なくとも連合軍という点はこちらに有利だ」


 いくら使徒が優秀とはいえ、他国の使徒の下につくことに抵抗を感じる者は少なくないだろう。

 それはアークレイムの使徒も承知のはず。だから、行動は制限される。


 兵士たちに不満を抱かれては戦にならないからだ。


 借り物の兵であることを考えれば、向こうも二、三日は様子を見てくるかもしれない。

 といっても、二、三日。

 エルトが来るには最低でも一週間はかかる。


 こちらに連絡を入れたあと、すぐに飛んだとしても五日から六日。

 そして飛んだ先からここまで二日から三日。


「敵の指揮官を裏切らせることができれば最高なんだけど」

「そんなことができるならとうの昔にやってる。レグルスとマグドリアはずっと争ってきたんだ。レグルスに来たい奴なんていねぇよ」

「そうだよな。さて、どうするか。普通にやれば五日くらいで落ちる。騎馬隊で奇襲を仕掛けても、だ」

「だな。報告じゃアークレイム軍は一万、合流しているマグドリア軍は二万。後方にも二万。合計五万か」


 後方のマグドリア軍は総勢で三万。

 一万は城に残し、後方の抑えとするとみている。


 後方にいるレグルス軍は二つの城を合わせて、四万以上。

 しかし、本来、相互関係で防衛するはずだった三つの城のうち、一つを落とされたため、行動に大きな制約がついた。


 レクトルの軍を狙えば、自分たちが背後や横を取られる。

 そのため、後方の軍は迂闊には動けない。


 また後方軍には、全軍を指揮し、使徒と戦える指揮官がいない。

 ライマンは優秀だが、どちらかといえば補佐タイプだ。


 レイナやエルトのような指揮官を補佐することで活きる将軍だ。


 だから、エルトを待つ必要がある。

 

「五万対二万。通常、防御側が有利だが、使徒の神威はそれを覆すからな……。レクトルの神威は制限時間があるから、使い方は限られてくる。けど、アークレイムの使徒の神威は違う。横の川から水を浴びせられるだけでも被害は甚大だぞ」


 雨などとは比べ物にならない被害が出る。

 濁流に飲み込まれるようなものだ。


 息はできず、体は流される。

 自然災害をこちらだけ食らう形になるわけだ。


「そのときはあたしの神威で防ぐ。ただ、そうするとあたしと向こうの使徒の神威はつぶし合う。こっちの不利は変わらない」

「仕方ない。戦以外で時間を稼ぐか」

「戦以外? 何すんだよ?」

「捕虜を返還する。怪我をして戦えなくなった奴らが五千人くらいいるだろ?」

「ああ、さすがのあたしも怪我人を処刑する気にはならなかったしな」


 ナルヴァ要塞の最終局面で降伏した敵は約四千。

 全て怪我人だ。

 残りは逃亡したか、玉砕したか、もしくは処刑されたか。


 レイナは処刑を迷わない使徒だから、向こうも捕まって処刑されるくらいなら玉砕したほうがマシといった感じだった。


 とはいえ、そんなレイナでも処刑する人間は選ぶ。

 指揮官格や徹底抗戦を決め込んでいた者は処刑されるが、そうでない者は処刑されていない。


 兵糧の関係上、わざわざ逃がされた者も多い。

 おそらく向こうの軍に合流している奴らもいるだろう。


 ならば、仲間が解放されると聞けば喜ぶに違いない。

 そして、敵の使徒はそれを無視できない。


 これで捕虜を見捨てるようなことをすれば、軍は崩壊するからだ。


「動けない兵士は足枷でしかないし、解放するのは手だと思う」

「敵の使徒が返還を受け入れるか?」

「レクトルなら無視するだろうけど、アークレイムの使徒は無視できない。とくに兵士たちに話が広まれば絶対に乗る」

「だから、どうやって兵士に広めるんだよ。使者を送り込んでも、話を封殺されたらそれまでだぞ?」

「風の神威で声を飛ばせばいいだろ? 全軍に知らせてやればいい。これで一日くらいは稼げると思うぞ」


 返還の協議と捕虜の移動。

 動けない怪我人も多いから、難航するだろう。


 アークレイムの使徒が乗れば、レクトルといえど無理に攻撃はできないだろう。

 まぁ、攻撃してきたとしても反対側の話だ。


 受け流すのは難しくない。

 それを理由に返還作業を中断すれば、それはそれで時間を稼げる。


「それで乗ると思うか?」

「援軍が来るなんて誰も思わない。向こうの狙いはレイナの命。じっくりと仕留めるつもりだろうし、不安要素は先に解決しにくると思う」

「……じゃあ、敵が来たら神威で呼びかけるとするか。けど、まだ足りない。最低でも一週間。できるなら十日は持たせたいんだけなぁ」


 兵糧や武器は十分ある。

 要塞に備蓄されていたものだ。


 取らせる前提だったのに、兵糧や武器を用意していたのはレイナに偽装を悟らせないためだろう。


 実際、疑うこともなく罠に嵌められた。

 ここら辺を計画したのはレクトルではなく、テオドールだろう。


 姿を見せないのに厄介な奴だ。


「急がないといっても、使徒の挟撃だ。普通に攻められただけで持たない。十日なんて贅沢は言えないぞ」

「そうは言ってもなぁ。エルトリーシャがすぐ来る保証はないし」

「たしかに余分は必要だろうけど、それは現実的じゃない。一週間、どう持たせるか。それだけを考えるべきだ」


 高望みは禁物。

 敵は重傷を負っても意に返さない狂戦士の軍と、好き放題に水攻めができる指揮官だ。

 

 俺とレイナが必死になって、どうにか持つかどうか。

 そういう相手だ。


「わかってるけどよ……。あと一つくらい策が欲しい。全力を尽くすのは当然としても、このままだと持たない」

「捕虜を理由に交渉を仕掛け、ときおり奇襲を仕掛ける。あとやれることがあるとすれば……」


 少し考えて、あることを思いつく。

 完全に個人頼みな作戦だが、効果は期待できる。


「すれば?」

「……バリスタや投石機を使用したピンポイント攻撃だ。レイナの風で制御し、敵司令部を破壊する」


 この要塞には大型のバリスタや投石機が数多く設置されている。

 本来、精密攻撃には向かない兵器だが、人を浮かせて目的地まで飛ばせるレイナならコントロールできるはずだ。


 ただ、スピードが段違いだからコントロールの難しさは、人を飛ばすことの比ではないだろう。


「……それをしてる間、あたしは他のことは何もできないぞ? それにそれをすれば、敵は躍起になって兵器を破壊しにくる。そう何度も使えない」

「わかってる。だから使うのは夜だ」

「視界が確保できない夜間に、高速で敵に向かう投擲兵器をコントロールしろとか、お前は鬼か!?」

「ちゃんと考えてる。まずは俺が騎兵を率いて敵に夜襲を仕掛ける。その際に、火を敵陣地につけて目標を確保する。それならどうにかならないか?」

「……難しい。めっちゃ難しい。正直、当てる自信はない」

「まぁ、当たらなかったらそこまでだ。敵が兵器破壊に時間を割いてくれるなら、それはそれでいい。結局、目的は時間稼ぎだしな。とりあえずはそんなところだろ。あとは敵の出方次第だ」


 向こうがいきなり決めに来れば、この作戦は修正が必要だし、捕虜返還に乗ってこない可能性もある。


 状況を見極めながら柔軟な対応が求められる。


「持つと思うか?」

「持たせるしかないだろ。死にたくないしな」

「またそれかよ。もうちょっとカッコいいことは言えないのか?」

「カッコいいことを言って、生き残れるならいくらでも言うけどな。大抵はそういう奴から死んでいくんだ」


 俺の言葉にレイナは目を丸くしたあと、腹を抱えて笑う。


「なんだよ?」

「だったら、お前はすぐに死ぬな。女に向かって守ってやるなんて、男にとっちゃ最大レベルのカッコつけだろ?」

「あれはいいんだよ。戦前じゃないから。フラグの適用外だ」


 そう言いながら、俺は内心、不安を感じていた。

 我ながら余計なことを言ったものだ。


 訂正してもいいだろうか……。


 駄目だろうな。

 下手したら殺される。

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