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使徒戦記  作者: タンバ
第三章 マグドリア編
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第十一話 緊急参戦




 10月17日。


 ゴードンを斬ってから二日。

 俺とアリシアはセドリックと少数の兵士たちの護衛を受けて、レイナがいるレグルス軍の本隊に向かっていた。


「護衛といえば聞こえがいいけれど、これって見張りよね」

「そうだな。しょうがないだろ。俺、レグルス軍の指揮官を斬ったわけだし」


 馬車の中でアリシアと二人でそんな意味のない会話をする。

 暇つぶしの道具もなく、ただ馬車に乗っているため、アリシアと話をするしかやることはないのだけど、もう話のネタも尽きてしまった。


「斬ってなかったら、もっと良い馬車を用意してくれたと思う?」

「軍用の馬車なんて、みんなこんなもんだろ。貴族御用達の馬車と一緒にするな」


 アリシアは椅子の硬さと馬車の揺れが気に食わないらしく、何度も不満を口にしていた。

 だけど、もっと酷い馬車なんていくらでもある。

 そもそも、今使っている街道は主要な街道ではない。


 そのため、道が割と荒れているのだ。

 こんな道を通れば、どんな馬車だって揺れてしまう。


「あー、お尻と腰が痛いわ」

「我慢しろ。どうせもうすぐ着く」

「なんでわかるのよ?」

「早ければ一日半で着くと言ってたからな。もうすぐ昼だし、着いてもおかしくない」


 レイナ率いるマグドリア侵攻軍は総勢で七万。

 レイナ直属の一万の騎士と六万の兵士たちで構成されている。


 トップはもちろんレイナで、レイナの下に各軍を統率する将軍たちが入っている。


 今はマグドリアの城を包囲中で、その先にあるマグドリアの重要拠点、ナルヴァ要塞の奪取を目的として動いているそうだ。


「なぁ、アリシア。ナルヴァ要塞って有名なのか?」

「ときどき、ユウヤって驚くほど無知よね。よくそんな調子でマグドリアに勝てたわね……」


 アリシアは呆れた視線を俺に向けてきた。

 その視線を素知らぬ顔で受け流して、話を促す。


「知ってるなら教えてくれ。どんな砦なんだ?」

「守るに易く、攻めるに難い砦よ。その名が知られるようになったのは、五十年ほど前ね。当時のレグルスの使徒が二人がかりで攻め落とせなかったのよ。守備についていたのはマグドリアの使徒とマグドリア軍一万。対して、レグルス軍は八万だとか十万だとか言われているわ。その攻勢に失敗したレグルスは撤退を余儀なくされて、奪った領土も捨てなければいけなくなったの。レグルスにとっては越えがたき壁ってところね」

「五十年前の城ならもう旧式だろ? もう名前だけの砦じゃないのか?」

「マグドリアがそのままにしておくわけないでしょ? 何度も改修されて、そのたびに堅牢になっているそうよ。正直、今回のマグドリア侵攻もそこで終わりだと思うわ」


 そんな城があったのか。

 セラなら知っていたかな?


 知ってるに決まってるか。あの本の虫なら。

 となると、俺にも知る機会はあったわけだ。


 うーん、帰ったら本を読もうかな。


 それはさておき。


「問題なのは砦じゃない。誰が守るか、だ」

「テオドール・エーゼンバッハでしょうね。使徒エルトリーシャと使徒レイナの二人がかりの侵攻を止めたこともある男だもの。籠城戦もお手の物のはずよ」

「テオドールか……」


 あいつなら確かに防ぎきるだろう。

 しかし、シンプルすぎる。


 あいつがそんな後手後手に回るだろうか。

 レグルスの攻勢を防ぎきるには良い手だと思うが、テオドールはもう少し工夫をして、得を取りに来る男だと思う。


 何かある気がするけれど。


「まぁ、俺には関係ないな」

「そうね。この地で戦うには王の許可が必要だわ。まぁ、アルシオンとしてはユウヤが戦ってくれたほうが嬉しいでしょうけど」

「どういう意味だ?」


 アリシアは、政治に疎いわね、と呟くとため息を吐く。

 こいつ、完全に俺のことを馬鹿にしてるな。


 まぁ、政治に疎いのは事実だし、しょうがないか。


「アルシオンは今回の戦に参加してないわ。なぜだかわかる?」

「マグドリアの戦からそんなに経ってないからだろ?」

「違うわ。王が及び腰だからよ。ヘムズ平原に戦力を集めるだけでも、マグドリアへの牽制になるのに、それすらしない。王はマグドリアと明確に敵対したくないのよ」

「攻め込まれたんだぞ?」

「ええ、マグドリアには、ね。マグドリアに対して、レグルスとアルシオンが同時に攻めれば、アークレイムが動き出す。それが嫌なのよ」


 アリシアは不機嫌そうに顔を顰める。

 どうやら、俺の知らないところでいろいろとあったらしい。


 まぁ、ブライトフェルン侯爵が王を説得しようとして、失敗したってところか。


 日和見を決め込みたいって気持ちはわかる。

 レグルスと同盟を結んだものの、レグルスがマグドリアかアークレイムに掛かりきりになれば、もう一つをアルシオンが相手することになる。


 今のアルシオンには荷が重い。

 だが、レグルスの機嫌を損ねるわけにもいかない。


 そこで俺というわけか。


「アルシオンの銀十字が参加したとなれば、王は大喜びするでしょうね。レグルスには我が国の英雄を派遣したと言えるもの」

「じゃあ、俺が参戦したほうが国のためになるのか?」

「国のためになっても、ユウヤのためにはならないわ。戦に負けたりして、レグルスがアルシオンをの責任だと言えば、戦犯の汚名を着せられるかもしれないし、勝手に参戦した罪を問われるかもしれない。結局、王にとって都合よく使われるだけだから、参戦しないほうがいいと思うわよ」


 ゾッとすることを言う女だ。

 しかも、あり得そうだから性質が悪い。


 都合が悪くなれば切り捨てるというのは、貴族の常套手段だ。

 たとえ戦功をあげている俺でも、それは例外じゃない。


「そうなったら、レグルスに亡命だな」

「怖いこと言わないで。そんなことになったら、アルシオンは笑い者よ。責任追及がブライトフェルンまで来そうだわ」

「まぁ、そんなことにはさせないけどな。参戦するならしっかりと勝利に導くさ。いや、俺が何もしなくても勝つかな?」

「使徒レイナの戦略次第でしょうね。力技じゃナルヴァ要塞は落ちないわ」


 アリシアがはっきりと断言するあたり、よっぽど堅牢なんだろう。

 しかし、やっぱり誰が守るかによるはずだ。


 それに逆を言えば、その要塞さえ取ってしまえば、マグドリアは押し返すことが難しくなるわけだ。

 レグルスが押し込めば押し込むほど、アルシオンへの圧力は減るし、頑張ってほしいところだな。


 大分話したし、そろそろ着く頃かと思い、外を窺ったとき。

 いきなり馬車が停止した。


「きゃあ!?」

「おっと」


 バランスを崩したアリシアを支えつつ、外の音に気を配る。

 護衛の兵士たちが慌ただしい。


 けれど、襲撃というわけではなさそうだ。


 すぐに馬車の扉を開けて、外に出る。


「何があった?」

「申し訳ありません、公子。この先で我が騎士団の輸送隊がマグドリアの部隊に襲われているようです」


 すぐに俺のほうに寄ってきたセドリックが状況を説明する。


 確かに遠目に争っている集団が見える。

 さらに奥には、城を包囲している軍の姿もある。


 もうすぐそこまで来ているというわけか。


「どうする気だ?」

「公子たちを送り届けたあと、援軍を出してもらいましょう」

「素通りすると?」

「公子たちの安全が第一です」


 セドリックが言っていることは正しいだろう。

 あの輸送隊がいるかぎり、敵の注意は俺たちには向かない。


 最適の囮だ。

 しかし、それをするのは忍びない。


 それに、これから俺たちはレイナに会いに行くんだ。

 その旗下にいる者たちを見捨てて、どんな顔で会えばいいのだろうか。


「却下だ。助けるぞ。剣と馬を貸せ」

「公子!? 自重してください!」

「悪いが自重は苦手なんだ。アリシア。魔法で援護できるか?」

「言っておくけど、私はまだ手伝うとは言ってないわよ?」

「なら馬車で本隊へ向かえ。居られても邪魔だ」


 一向に動く気配がないので、俺は勝手に準備を始める。

 馬に括りつけられていたロングソードを抜き、兵士に視線で馬を譲るように伝える。


「なによ! そんな言い方ないでしょ! わかったわよ。やるわ! やればいいんでしょ!」

「よろしい。さて、お前らはどうする? 俺らを守るのが仕事ならついてくるほうがいいと思うが?」

「……あなたはご自分の立場がわかっていないようですね。あなたやアリシア様に何かあれば、正真正銘の外交問題です」

「既に牢に閉じ込められたし、馬鹿な貴族に侮辱されるし、馬鹿な指揮官を斬った後だ。今更、ちょっとした運動くらいどうってこないだろ」

「……輸送隊を助けるのがちょっとした運動ですか?」

「ああ、ちょっとした運動だ」


 俺の屁理屈にセドリックは頬を引きつらせる。

 だが、根負けしたのか、肩を落としながら自分の馬に跨る。


「アリシア様は魔法で援護の後、すぐに本隊に向かってもらいます。これは絶対です」

「だそうだ」

「わかったわ。長距離から一発撃ったらすぐに逃げるわよ。こっちに敵を寄越さないでね?」

「わかってるさ。お前も輸送隊に当てるなよ? 助けたものの、輸送してた荷物は全部燃えましたじゃ笑えないぞ?」

「舐めないで。味方に当てるヘマなんてしないわ」


 当然のように言い切るが、魔法というのは命中率が悪い。

 近距離ならまだしも、長距離となれば正確に対象に当てるのは難しい。


 よっぽど自信があるんだろうな。


「じゃあ期待してる。頼んだぞ」


 そう言い残して、馬を走らせる。

 輸送隊には十人ほどの護衛がいるが、敵の数のほうが圧倒的に多い。


 数十の騎馬が輸送隊を取り囲んでいる。

 対して、こちらは八騎と少ない。


 まぁ、もう少し行けば数万の味方がいるわけだし、輸送隊を助けて、走りぬければ問題ない。


「意外に早く参戦しちゃったなぁ……」


 呟きながら、俺は手に持ったロングソードの感触を確かめる。

 強化に耐えられるような代物ではないが、まぁいけるだろ。


 数で圧倒しながら、輸送隊を仕留めきれないような奴らなら。

 

 これで十分だ。

 

 



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